第945話 30枚目:一段落

 私が望んだ報酬を用意するにはしばらく時間がかかるとの事で、待っている間はエンドコンテンツ疑いの濃い野良ダンジョンで、100階層の先へと踏み込んでみる事にした。

 100階層で地上への影響が無くなったのなら、200階層でも何か変化があるのでは? という予想は召喚者プレイヤーなら誰でもしていたのだが、100階層のレイドボスを出現させて倒し、地上にモンスターの群れが出現するのを止めるのが先って事で、あんまり深みに潜っている人が居ないのだ。

 その点私は、竜都付近から動く訳に行かない上に大人数で動く事もほぼ無い。なおかつ私自身と周囲も特級戦力なので、難易度の上がり方がおかしい101階層以降を探索するのに向いている。


「まぁ探索してみれば、やはりエンドコンテンツでは? という疑問がどんどん確信に近くなっていくばかりなんですけど」

「そうですね。少なくとも、今のレベル帯で攻略する想定にはなっていないと思われます」

「それでも何とかなる辺り、先輩ほんとすげーっすね……」

「あら、あなたの回避と多様な魔法的搦め手も必要でしてよ?」


 まぁそれでも130階層までしか進めてないけどな! その時々に応じてメンバーが変わるから、まずは全員で進捗を合わせようって事で非常にゆっくりなのは確かなんだけども!

 だとしても今まで以上にゆっくりなのは、私の種族特性によるバフが結構強力らしいんだ。だから、私がいるのといないのでは大分難易度が違うらしい。……そうだな。それに加えてこの野良ダンジョンの攻略の時は、私からのバフも解禁して進んでるもんな。

 しっかし敵が強い。流石にあの鍍金の竜程の火力は無いが、それでも私以外が受けるのはかなりキツいだろう。「第四候補」がストーンゴーレムを作ってみたら、一撃で粉砕されてたからな。……砕かれた、ではなく、粉砕された、だ。


「多様な素材が手に入るのもいいんですが、これは、このダンジョンだけでごっそり装備が変わりそうですね……」

「そうっすね。というか、なんすかこの杖。斑な金色はともかく、性能を見るたびに3度見が免れないんすけど」


 ちなみにフライリーさんの新しい杖は、鍍金の竜の皮から採れた毛を糸にして、鱗を砕いて接着剤で練り、その糸を束ねて固めたものだ。重さはそうでもないが性能がえらいことになったらしい。加工したのは双子だから、材料を言ってない辺りも含めて確信犯だろう。

 素材と言えば、と思い出したのは、「無縫の白布」だ。アラーネアさんに見せたら大分特殊な素材との事で、絶対最高の装備にして見せますから! と言われて預けてそのままなんだよな。

 なおアラーネアさんは現在、皇族御用達となった縁で古代と現代両方の霧竜族・雲竜族の人達と毎日楽しく働いているらしい。クラン『蜘蛛糸裁縫店』と向こうの衣料店が、半分合併状態になっているとか聞いた。


「……。冷静に考えれば、生産系としては見事な出世街道を駆けあがっていった事になるんですよね、アラーネアさん……」

「あー、確かにそうっすね。異世界転生ものの主人公みたいっす。今でも既に布系装備だと他の追随を許さない、堂々世界一に輝いてますからねー」


 そしてそんなアラーネアさんは、事あるごとに『アウセラー・クローネ』に色々な服を送りつけてくる。私もそうなのだが、どうやらメインメンバーは当然として、他のメンバーにも色々送られてるんだよな。召喚者プレイヤーも住民も問わず。うーん、とても贅沢。

 いいのか? と思うが、気づいたら荷物が届いているので止める気が無いらしい。まぁ私も、お支払いさせてくれない事はもうだいぶ慣れたので、何かにつけて素材や食べ物を送りつけているんだけど。

 え? だから送りつけが止まらないんじゃないかって? 先に送りつけてきたのはアラーネアさんだぞ。私は代金の代わりにお礼をしているだけだ。


「出来ればイベント中に、150階層ぐらいは行っておきたいですね」

「何でイベント中なんすか?」

「それはもちろん、次のイベントが始まったら、ここを攻略するどころではないからですよ」

「……それもそうっすね。次にどんなイベントが来るのかは分からないっすけど」


 古代竜族を筆頭とした、追加戦力は確保できた。なら、舞台は竜都の大陸に戻る筈だ。今の所その最前線は若干押し込まれる程度で済んでいるらしいが……素直に攻勢に移れるかと言うと、それはたぶん無理だろうしなぁ。

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