第946話 31枚目:イベントのお知らせ

 仕事の出来る皇族であるアキュアマーリさんは、私の望んだものを用意する前段階として、『アウセラー・クローネ』を「重要協力組織」として認定、またそのクランハウスとなっている島の内、私が管理しているものを「末の皇女の別邸」として認定し、自由に行き来していいようにしてくれた。

 ……「重要協力組織」はその通り、何かあったら皇族、ひいては竜族全体が協力を惜しまない、という宣言だ。えらい事になって来たな。まぁ、竜族の皇女だけでなく、御使族が所属している時点でメンバー的には十分重要度が高いって話だったけど。

 そして私的には何より嬉しかったのが、その「別邸」への移動手段として、神域ポータルによる転移が公式のものとして認められた事だ。よっしゃ、これで今まで行った事のある場所は自由に行き来できる!


「やっぱりお姉様にも何かお礼するべきでしょうか」

「先輩。聞き間違いじゃ無かったら、その辺の調整って、先輩が宝物庫のあれこれの耐久度を最大まで回復させたお礼じゃなかったっすか?」


 ……そういう話だった気もするな。無限ループに入りそうだから止めとくか。

 さて私個人についてはそんな感じだが、イベントの方も順調だ。100階層のレイドボスも順調に撃破されている。つまり、最初の大陸の安全は確保されつつあるという事だ。

 とはいえ、ここに至るまでにはそれなりに時間がかかっている。だから、月が替わって次のイベントのお知らせが来てるって事だな。


召喚者プレイヤーがちょくちょく戻っていた筈ですし、最新情報でも、前に進むのを抑えて防衛に徹していたから、前線そのものは下がっていない筈ですが……」

「と言うかむしろ、古代竜族の人達が合流してからは余裕になったみたいな話も聞いたっすよ」

「加護と祝福にまつわる神器も取り戻しましたし、更に余裕が出来ているかもしれませんね」


 実際どうなっているかは現地に行っていないので分からないが、情報源はカバーさん達元『本の虫』組の人達が更新してくれる、クランメンバー専用掲示板だ。『アナンシの壺』のまとめページも見ているので、まぁまず間違いない。

 問題は、この状況が大神運営の想定通りか、それとも想定外かなのだが……と、若干警戒しつつ、私の頭の上を確保したフライリーさんと一緒に次のイベントのお知らせを確認する。

 普通に考えれば、古代竜族や各種族の英雄が合流したことで戦力が追加され、攻勢に移る、という形になる筈だ。……が。フリアドの運営だからなぁ……。


「……やっぱりというか何と言うか。そう来ますかー」

「なーんでこう、いちいち捻りを入れてくるんすかね……?」


 という予想は、残念ながら当たったようだ。まぁ後リアル半年あって、素直に逆転劇を開始させてもらえるとは思ってなかったけどね? 2月は私も本番があるので、ここで凝ったイベントを投入されるのは割と勘弁してほしかったし。

 とは言え、運営には関係ない事だ。何だったら去年受験だった召喚者プレイヤーもいるだろうし、来年受験となる召喚者プレイヤーもいるんだから、いくら特級戦力とは言え、個人の都合でイベントの内容が変わるのはおかしいだろう。

 で、肝心の内容はと言うと……まぁ、先にバックストーリーを確認してみようか。



 若干神々の間でも揉め事が起こったが、何よりも優先するべきは異世界からの侵略者に対抗する事である。その一点で神々は団結を維持し、モンスターの群れと共に封じられていた英雄たちを解放した。

 その中に弱体化する前の竜族の都が含まれていたこともあり、これでようやく反撃に転じられる。そう思った神々だったが、ここで防衛が続いている大陸において、再び異界の理が強まっている事を感知した。

 慌てて様子を確認した神々は、異界の理を抑える筈の神殿が、その内に蓄積した空間の歪みを介して、逆に取り込まれかけている事を知った。このままでは、信仰すらも横取りされかねない。そう判断した神々は、急ぎ召喚者へと託宣を下すのだった――。



 まぁ、つまり。竜都の大陸で、戦線を押し返す為に建てまくった神殿。あれが、野良ダンジョン化してるらしいんだ。最前線に近い所から順番に、ではなく、最前線に近い程確率が上がるとは言え、ランダムに。

 それも、仕様としては、不思議な土地跡に出現したものと同じ、モンスターの群れを定期的に吐き出し、神の加護を封じるやつらしい。すなわち、現地に居る竜族の人達では、対処できない。


「湧いてくるモンスターも、例によって大半がどうにもできない相手らしいですからね。内部はまだ分かりませんが、そちらは元となった神殿の影響を受けているのでしょう」

「……。先輩。ちょっとやな予感したんすけど、言っていいっすか?」

「どうぞ」


 どこからどうツッコんだらいいものか。と頭を抑えると、乾いた笑いと共にフライリーさんからそんな声がかかった。うん。私も嫌な予感がしたところだよ。


「これ……「モンスターの『王』」が、空間の歪みに干渉できたって事っすよね?」

「そうなるでしょうね」

「てことは……その。こっから先、「絶対にクリアさせる気が無いダンジョン」っていうのが、出現するって気がするんすけど……」

「出てくるでしょうね……。試練ダンジョンがクリアできる前提で、野良ダンジョンがクリアできるかどうかは不明、というのが現状ですから。ここから、もう一段上の難易度が出現するんでしょう」


 更に言えば、野良ダンジョンは試練ダンジョンが参考先となっている。だから、「大体はクリアできる」ぐらいの難易度になっていた(という推測)のだが、ここに来て、クリアさせない前提のダンジョンが出現する可能性が高くなった。

 と言う事は、野良ダンジョンの難易度における参考先が増えるって事だ。つまり。


「ついでにいえば、野良ダンジョンも難易度が更に複雑化するでしょうね。どう考えても影響を受けるでしょうし」

「っすよねー……」


 っていう、事だ。いやまぁ確かに、古代竜族が復活したんだから、地上戦力はもう彼らだけでいいんじゃないかなになりつつあったけども。

 本当に、召喚者プレイヤーを飽きさせない、という一点では、心底優秀な運営だよなぁ……。

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