第941話 30枚目:大詰め開始

 そこから? 大体お察しの通りだよ。いくら攻撃を叩き込んでも足りないかも知れない強敵が居て、練習もあんまり出来ないような切り札が使い放題になって、しかも残り時間に制限があるとなれば、そりゃ、ねぇ?

 もちろん鍍金の竜は暴れているんだが、「第四候補」のゴーレムであるヘルスイーターが避けにくい攻撃を上手く潰してくれている。逆に避けやすく反撃しやすい大ぶりな攻撃はこちらが殴りやすいように退避して出してくれるので、とてもやりやすい。

 どうやらこの鍍金の竜も、血は空気に触れると結晶化するようだ。と言っても即座に結晶化するという訳ではないらしく、周囲に飛び散った血だまりがいつの間にか赤い結晶になっている、という具合だが。


「いやー、助かるなこれは! 普段は練習もそうそう出来ないし、ものによったら効果を確認する前に敵が吹っ飛ぶからさー!」


 と、こちらもどうやら特殊な装備を……あの「人造スライムの杖」が進化したもの以外で……持っていたらしい「第四候補」がひゃっほーしていたが、たぶん皆そう思っているだろう。

 私? 「氷砕ハンマー」が、どうやら魔力制御をちゃんとすれば狙った範囲だけを凍らせられる事が分かった。凍った部分を砕いてもちゃんとダメージになるようで、今は翼の根元を凍らせては砕き、翼を落とそうとしている。

 尻尾は……まぁ、戻ってこないとも限らないし、一応ギリギリまで「第二候補」を待ってみる事にした。その前に倒しちゃったら知らないけど。


「いけそうですね。翼を落とします!」

「オッケー! こっちで回収する!」


 一応声をかけ、しっかり「氷砕ハンマー」に魔力を込め、ぶっとい翼の根元へ叩き込む。手応え的に骨の芯まで凍ったのを確認し、耐久度が回復するまで待って、もう一度。

 バキィッッ!! とかなりの音がして、何度かバサバサと暴れるように羽ばたいていた翼の片方が胴体から切り離された。ギャァアアアアア!! とすごい叫びがしたから、流石に痛かったのだろうか。

 落ちた翼は波打つ土によって、素早く遠くまで運ばれる。回収ってそういう感じの。分かってたけど。


「よし、それじゃもう片方を……っと!?」


 それを見送り、もう片方の翼も切り落として(?)しまおうと踵を返すと、ぐらっと足元が揺れた。まぁ私が居るのは鍍金の竜の上なので、元から安定なんてものは無いのだが。

 多少は土で緩和され、足場にしやすくもなっている。だから軽くバランスをとりつつ、今の揺れは大きかったな、程度の感想でくるりと振り向き、


「うわっ」


 土に押さえ込まれつつもこっちを睨み、ガバリと口を開いた鍍金の竜の頭が見えて、慌ててその背中から、鍍金の竜自身の胴体を壁にするように滑り降りた。私の周囲で大量の土が同じように動いていたから、「第四候補」もヘルスイーターを逃がしたのだろう。

 直後、ガッ!! と、莫大な熱が発生した。たぶんブレスだろう。やはり本物の竜族のものと違うのか爆発は無かったが、それでもステータスが高い分だけの威力はある。

 ていうかこれ、流石に威力が威力だしある程度は自爆したのでは? と、細かく後ろ足を凍らせて砕いていると、頭がこっちに回り込んで来た。ので、即座に背中に逃げる。


「うっわ、ほぼ無傷とかマジですか」


 ……まぁ本物の竜族も、攻撃力より回復力と防御力の方が高いからね。種族にもよるとはいえ。

 タライぐらいの範囲を凍らせては砕きつつ、再びこっちに来た頭を避けて後ろ足の方へ滑り降りる。えぇいしつこい。いや私の適性ポジションはタンクなんだから、注目を集めるのは良い事なんだけど。

 削っても削ってもすぐ元に戻る鍍金の竜をちまちま砕きつつ、背中と後ろ足を行ったり来たりしていると、背中に戻った時に、足場にもしている土の一部が、ラッパのような形に変化した。うん?


『よーしよーし「第三候補」聞こえるか? 聞こえるな? てーか聞いて。なおこの言葉は一方通行でそっちの声は聞こえないんで宜しく!』


 どうやら「第四候補」からの伝言らしい。……なるほど確かに、追い回されている状態で離れたら逆に危ないか。


『そのまま出来れば往復してて! そっちに気をとられてる間前足がお留守になってるから、神経毒で感覚消して切り落とすってさ! 足場の補助はするから頼んだ!』


 そして本当に一方通行の言葉というか指示を投げて、ラッパ型の土は元の状態に戻った。なるほど。


「まぁ実際やってる事は、正面戦闘してた時とあんまり変わりませんからね。了解しました」


 よーし頑張るか。砕くとダメージになるが、砕かなくてもイラつきは誘えるみたいだからな。凍らせてヘイトを蓄積して、時々大規模に砕いてやれば飽きずにこっちを追いまわしてくれるだろうか。

 問題は「氷砕ハンマー」の耐久度だが、まぁこちらはしっかり「月燐石のネックレス・幸」の鎖を巻きつけている上で供給対象に指定しているので、耐久度の回復速度はかなりのものになっている。なんとかなるだろう。

 さーて。たぶん前回の事を考えると、この鍍金の竜もあの「誰か達」なんだろう。一緒になっていないって事は何かが違うんだろうが、この戦闘だけでも相当にダメージが入ってるからな。


「こっちを見なさい。決着のつくその時まで」


 反省が欠片も無ければ話は別だが。

 それでも、あのアキュアマーリさんが逃がそうとする程度には……竜族と言う、明らかに桁がいくつか違う取扱注意の力を分け与え、仲間として認める程度には信頼されていたんだろう?

 他の人達……恐らく仲間達も、無関係な筈の子供達も十分に罰を受けた。だったら。


「――ここで、終わらせます」


 もう、幕を下ろしても、いいだろう。

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