第940話 30枚目:詰め方相談

 見上げるような大きさの竜が、それ以上の体積の土に埋まってもがいている。……ようにしか見えないが、しばらく見ていると土が自ら鍍金の竜に絡みついていっているのが分かるので、どちらかというと取っ組み合いなのだろう。

 本来なら、こうして動きを封じている間に、メイン火力にダメージを叩き込んでもらうつもりだったのだろうが、そのメイン火力こと「第二候補」はリアル急用でログアウト中だ。あと内部時間2時間は戻ってこない。ログイン制限で。

 なので、巨大な土塊、もとい土ゴーレムことヘルスイーターとソフィーナさんにお任せしてちょっと休憩兼作戦会議だ。食われて取り込まれた召喚者プレイヤー達も、土が邪魔でこっちは見えないだろうし。


「残り時間の問題もありますし、どうしたものですかね」

「流石にこの後もログインってのはきつい感じだしなー。一応ヘルスイーターはフルオートで動くようになってるけど。剥いだ鱗を磨り潰して動力に変える感じで」

「半永久機関では? この戦闘限定という条件は付きますが」

「他の場所じゃ危な過ぎて使えねーって! 絶対暴走する奴じゃん!」


 そうだな。相手を削る事をメインに動き、その削ったものを動力源にするとか、場所と相手を限定しないと災害待ったなしだな。

 と言うのはともかく、問題は火力が足りないって事だ。まさかこのタイミングで「第二候補」が離脱するとは思ってなかった。いやまぁ、リアル人命優先なのは当然なんだけど。ちなみに、現在は平日の夜だ。

 だから、出来ればこのログイン時間内に仕留めてしまいたい。……それが難しそうだから、こうして悩んでいる訳だが。どうしようかね。まさか特級戦力、それも戦闘向きの3人が揃っていて火力不足になるとは思っていなかった。


「まぁ1人抜けたから火力不足になってる訳だけどな? しかし削りダメで倒し切れるような気がしないんだよなー」

「ソフィーナさんの魔法もありますし、私の【調律領域】もありますから、あのゴーレムも加えれば全く削れていない、という事は無い筈ですが……時間がかかりそうですよね」

「その時間が問題なんだよなー!」


 叫ぶ「第四候補」には、それな、と同意しかないが、叫んだところでステータスが上がったり超火力の武器が出てきたりはしない。


「カバーさん。あれの体力は減ってますか?」

「はい。どうやら鱗を剥ぎ取ると、極小の部位破壊という扱いになるようです。1枚2枚では目に見えるダメージにはなりませんでしたが、指揮官さんのゴーレムで一気に何十枚も剥ぎ取れば、ダメージソースとしては有効かと」

「おっ、それは嬉しいな。つっても有効止まりだと厳しいって事だろ?」

「そうですね。しかし、ちぃ姫さんの手が空いたという事は、特殊な装備の制限も解禁されると言う事ですので、もう少しペースは上げられるかと」


 と言って、ぽん、と軽く自分の腰のあたりを叩いて見せるカバーさん。……なるほど。私がのんびりしていられるなら、「複頭竜の剣」の耐久度を「月燐石のネックレス・幸」で回復できるもんな。つまり、あの凶悪な毒が使い放題と言う事になる。

 それにカバーさんの事だから、傷が治らない、治りにくい、広がっていくとなれば、傷口がある事で被害の広がる……例えばいつもより出血が激しくなる毒とかを併用するだろう。もちろんルディル製の。

 恐らくは生きながら解体されるように、非常に効率的にダメージが入るんだろうなぁ……と思いながら頷くと、何か視界に違和感を感じた。


「ん?」

「どした?」

「いや何か、微妙に違和感が……」


 なんだ、と思いながら周囲を見るが、特に原因になりそうなものは見当たらない。鍍金の竜はこちらの事を忘れたかのようにその場で大暴れしているので、何かされたという訳でも無いだろう。

 じゃあこっちの問題か、とメニューを開いて展開中の【調律領域】を確認。ここまで連続使用したのは初めてだからな。なんか問題でもあったか?


「……全員に聞きますが、「複頭竜の剣」と同様、耐久度を消費する特殊能力を持った装備ってあります?」

「え。なにどした。あるぞ?」

「ありますね! 切り札扱いですけど!」

「私もソフィーナも持ってますよ」

「そういうちぃ姫さんも、確か2つ程お持ちでしたよね?」


 カバーさんの確認に頷く。そうだな。持ってるな。使い方によっては必殺のハンマーを2つ。

 何が条件だったのかは分からないが、【調律領域】の設定画面に変化が生じていたのだ。恐らく、さっきの違和感はこれが原因だろう。とりあえずその画面の変化した部分をスクリーンショットに撮り、全員に見せる。


「――ぶっはははははは!! すげー! なぁ「第三候補」このスキルぶっ壊れにも程がないか!?」

「私もちょっとそう思ったところです。元となるスキルがどうして入ったのかも分かって無いんですよね、これ」

「あぁ、なるほど。だから余計に、かも知れませんね。ちぃ姫さんの場合、色々前提条件が特殊ですし」


 爆笑されるのは分かっていたので「第四候補」が居る方の耳は塞いでおいた。カバーさんも感心顔なので、やっぱりこれはぶっ壊れでいいらしい。神の祝福ギフト付きの【魔力練化】があったとはいえ、【吸引領域】も大概だったからな。

 いやでも、流石にこうなるとは思わない。何のきっかけでそう変化したのかは分からないが、私だって想定外だ。自分が需要資源扱いされる日もそう遠くないと言うか、たぶんこの事実が知られれば、もう誘拐してでも欲しいと思う奴は山ほど出てくるだろう。

 ……まさか、装備相手にも魔力を供給できるようになっているとは思わないじゃないか。つまり、私が居る限り、耐久度を消費する特殊能力すらも無限回復って事だろう?

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