第939話 30枚目:火力交代
何度か言ったが、この野良ダンジョンは難易度が高い。深さはあっても広さはそうでもないから戦闘に時間を割いてもそれなりに進むことが出来るが、時間がかからない訳ではない。
だから90階層から挑んで100階層に辿り着いた時点で、前準備と待ち合わせの時間を含めて2時間ほどが経過していた。そこから小休憩と、鉢合わせた
本来なら大分余裕のあるペースだ。このダンジョンアタックの条件は、ログイン時間をリアル2時間合わせる事。だからボスに挑戦を始めた時点で、残り時間は5時間ぐらい残っている。
「うぬっ!?」
「どうし、ましたっ!?」
そして同行希望の
小さい場所にピンポイントで当てれば、流石に小さな鱗がばらっと飛び散る程度のダメージは入る。神経の集まっている場所に傷がつけば、他の場所よりずっと気になるようで、再び小さな私を飲み込もうと巨大な口を開いた。
細かくヘイトをとっては回避行動と防御で注意を引きながら「第二候補」の方を見ると、しゅばっ! と部屋の隅っこまで移動していた。え、本当にどうした、武器でも壊れたか? と、思ったら。
「すまぬ、急患じゃ!」
「はいっ!?」
「お爺さんお医者さんだったんですかっ!?」
そのまま、しゅっと設置したテントの中に姿を消した。
えっ、いや、ちょっ、今!? いや、確かに患者を放置して遊んでるのは医者としてダメだろうけどもね!? よりにもよって今!? このタイミングで!? 嘘でしょマジで!?
いや、うん。人命優先。それは間違ってない。間違ってないけどもっ!
「よーしお待たせ! ここからは俺のターン……あれ? 「第二候補」は?」
「リアル急用だそうですっ!」
「マジかっ!?」
「なので何かやるなら早めにお願いします!」
「オーケー了解! ここからは俺のターンだ! カモン、ヘルスイーターっ!!」
割と全力で攻撃を捌き続けているのでツッコミを入れる余裕は無かったが、何だヘルスイーターって。直訳で健康喰らい? この鍍金の竜相手にか?
まぁあれだけ自信満々なのだから効果はある、もしくは、ありそうなんだろう。と思いながら、振り下ろされた前足を、指の隙間に入り込むことで回避。爪の根元に蹴りを入れて、そのまま飛び上がって顎にも蹴りを入れ、三角跳びの要領で少し離れた所に着地。即座に振って来たもう片方の前足を、今度は横っ飛びに回避。
ガチン! という音は顎ではなく、開いた状態で振り下ろされた前足の、爪同士がぶつかる音だ。さっきと同じように避けていたら、ぷちっとなっている。そこを瞬時に見極めて避けないといけないから、本当に面倒くさい。
……と、思いながら見上げた鍍金の竜の、更に後ろに、ぬうっと大きな影が現れた。
その大きな影が手のような部位を振り上げている、とみて、即座に私は距離をとった。素早く周りを見れば、ソフィーさん達も、カバーさんとスピンさんも無事離脱できたらしい。
うろちょろと纏わりついて来ていた小さな存在が急に離れたことで、鍍金の竜はソフィーさん達の方を向いた。今までのパターン的に、大技が来ると思ったのだろう。長い時間戦っているから学習されている。
だが。学習したという事は、パターンを外せば痛打が入ると言う事でもある。そう、今回のように。
「いっけー!!」
ノリノリな「第四候補」の声と共に、鍍金の竜が、埋まった。
……ん? と自分でも思ったが、どうやらあの大きな影は土で出来たゴーレムだったらしい。土砂崩れに押しつぶされたような形になった鍍金の竜だが、苦しげな声を上げるだけで起き上がってくる様子が無い。
まぁ、こちらから手を出す事も出来ない訳だが。何せ完全に土に埋まっているから。
「まぁ小休憩にすればいいんですけど。で、あれは何なんですか」
「えっとなー。まずここ周り全部土じゃん? 削ったらワンチャンないかなと思って削ったらいけたからー、この部屋限定で無限再生するゴーレムが爆誕した訳だ。ついでにあいつから剥がれた鱗も削って粉にして固めたら扱えたから、大出力の核が出来て、あのサイズになった訳だな!」
「なるほど。で、何やってるんですか、あれ」
「「第三候補」のとこの羊っ子達に色々貰ってたからー、それを全部ぶち込んだ上で、重さで押さえ込みつつ鱗を剥がしながら毒を擦り込んでいく感じの行動パターンを延々繰り返すように設定してみた!」
「あぁなるほど、それで健康を食らうと……。……待って下さい。ルディルではなく、ルフィルとルフェルから貰ったあれこれを使ったんですか?」
「おう! いっやー、可愛い顔してえっぐいなあの双子! 俺でもちょっと生身相手には使うの躊躇うレベルの嫌がらせグッズが充実し過ぎだろ! 何だ痒みに特化した毒薬って!」
あぁ、なるほど……。しかし、それを全部使う「第四候補」も酷いと思うよ。だってあの双子が使うんなら、一度に何種類も使ったら、何か相乗効果が起こるようになってるだろうし。
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