第928話 30枚目:皇姉の話
まぁこっそりも何も私がこの場を離れれば、種族特性のバフの積み込みが止まるからすぐに分かるんだけど。なのでまずカバーさんにお呼びだしがあった事を伝え、出来ればこっそりになるような言い訳をお願いした。
あの隠し部屋の内容を知っているカバーさんは、相手がアキュアマーリさんという事で私と同じく「何かある」事を察してくれたらしく、すぐ情報操作、もとい、全体連絡に動いてくれた。
実に素早く情報が伝えられ、私が動けるようになる。助かるんだよなぁ。
「それにしても、この緊急事態の最中にお呼び出しとは、一体どんなお話なのでしょうね?」
「それこそ、お話を聞いてみないと分かりませんねぇ……」
何となく察するところはあるが、平和で済むなら済ませたいじゃないか……。
こっそり、と言いつつ皇族基準のこっそりなので、普通に迎えに来てくれた馬車(?)に乗って移動だ。……うわすごい、現実の車より揺れないとかすごい。あれか。これが皇族専用のお値段付かない超豪華な馬車なんだな?
現代竜族の竜都で乗った時は現実の車ぐらいだったから、その辺竜族も技術の失伝があったのかもしれない。……いや、祝福と加護が無くなっていたんだから、普通に技術者の後継が育たなかったか、技量不足になったっていうのもあるか。
「(そして速度も出るからあっという間に到着すると。覚悟する時間が足りない)」
ちなみに、こちらのお城に来ること自体は初めてではない。家族()との顔合わせは既に済ませてるよ。……【成体】になってからの顔合わせだが、【才幼体】から進化してそう経っていないって事と、キャラメイクでの低身長で、扱いとしては子供だった。いやまぁ良いんだけど。
そのままニーアさんと一緒に案内されたのは、アキュアマーリさんのプライベートゾーンだった。一応分類としては「私室」になるんだが、お城の一角を丸ごとなんだよな。……個人の建物がある首都よりマシ、と思っているあたり、私もだいぶ感覚が麻痺している。
まぁお城自体の大きさが、そこそこ有名なショッピングモールぐらいはあるからな……。そんな中を歩いて移動して大丈夫なのかと言うのは、利用者がほぼほぼ竜族なので。
「いらっしゃい、ルミルちゃん。忙しい時に、ごめんなさいね?」
「いえ。優しい姉に呼ばれて来ない妹はいませんよ」
「ふふ。――――あーもう可愛い~!」
で。応接室的な場所まで辿り着いて声を掛けられ、それに、にこー。と満面の笑みを浮かべて返した私を、その人は実に優雅な、しかし素早い動きで、そのまま抱き締めてきた。ははは。大体皆こうしてくるからもう慣れたよ。
抱き締めやすい大きさなのかな……とか思いながら、最初のおっとりしながらも気品のある姿は何だったのか、という猫可愛がりっぷりを見せている、このおっとり系な銀髪銀眼の美女さんが、アキュアマーリさん……アキュアマーリ・ロア・ヴェヒタードラグ第二皇姉殿下だ。
おっとりとした見た目通り、温和で穏やかな人だ。が、そのプレイベートエリアは誰より片付いているし、圧倒的に本が多い。あの引継ぎ部屋は単にこの人の性格だったのでは、という私の推測は当たっていたようだ。
「……ところで、お姉様。御用と言うのは一体……?」
「あらいけない。そうそう、ルミルちゃんにちょっと大事なお話があったんだったわ」
見た目と性格はそうでも竜族の皇女なので、そのステータスはお察しなんだけど。なので文字通りぬいぐるみのように私を抱えたまま持ち上げ、ソファーまで運び、極自然な動作で自分の膝に乗せた。……やはり大きさか? 小さいから可愛い補正でもかかってるのか?
まぁ綺麗で優しいお姉さんは大好きなので、そのまま大人しくしてるんだけど。そして私を抱えたまま、アキュアマーリさんは机に地図を広げて見せた。
「私達が始祖と共に封印されていた、というのは、疑いの余地が無い事。とても驚いたけれど、それはいいの。ただ……」
「ただ?」
たぶんカバーさんかソフィーさん達が居たらスクショ連打してるだろうなーとか頭の隅で思いつつ、広げられた地図……最初の大陸の竜都周辺の、非常に詳細な地図を見る。
擬音表現は避けるが、私を膝に乗せて抱え込んだまま、アキュアマーリさんはちょっと前のめりになった。そのまま、地図の一点を指す。
既に現代に合わせて修正が入っている地図の上で示されたのは、封印があった頃なら、崖の縁と言える場所で……封印が解かれた現状、竜都からは、森や見え辛い起伏の関係で、ギリギリ竜都が見えない場所だった。
「……その封印を、維持していた種族が居たのよね。私はまだ会っていないけれど、この辺りに住んでいる筈の。ただ、ね。始祖からのお言葉では、そんな種族は知らない、という事だったわ」
「そうですね。実際、私達はそのお言葉を受け、まずは調査から入りましたし」
まぁ分かっていたが、竜人族の人達の事だ。どうやらあの後の調査によれば、いつもの儀式と違い、終了と同時に全員が集落へ移動していたらしい。今は
非常に嫌な推測は立っていたが、どうやらこのお姉様も同じ結論に至ったらしい。地図から指を離し、むぎゅっと私を抱き締めた。扱いがぬいぐるみ以外の何物でもないが、まぁ良しとして。
「そして、封印が解かれてから、改めて始祖に問いかけてみたのだけれど。……始祖が言うには、彼らは、神器を持ち去った人達の子孫であるそうなのよ」
うん。知ってた(諦め)。
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