第926話 30枚目:封印解放
さてそんな訳で、特殊ログイン時間に入っても中々油断ならない状態が続いたが、それでもタイムリミットというのはやってくる。
真夜中にも関わらず窓から強い光が射しこんできた時は何事かと思ったが、どうやらそれは封印を解除する儀式が進行して、不思議な土地全体が光り出したせいだったらしい。
その光はどんどん強くなり、地面もそれなりに揺れ出した。それでもなお聞こえてくるカウントダウンコールが、ゼロ! となった瞬間。
――――ガッッ!!
と、文字通り世界を塗り潰すような閃光が奔った。
何か妙な感覚があった気もするが、すっかり揺れも収まった事を確認して窓から外を見る。真夜中である事もあってそんなに広範囲が見える訳ではないが、それでも一番大きな変化――あれほど巨大な谷がすっかり消えているのは、はっきり分かった。
周囲に広がる森はそのまま、その中央辺りに高く分厚い壁で囲まれた大きな街が出現している。どうやら封印された時のまま、という予想は正しかったらしく、所々に明かりが灯って、その大きな街を照らしていた。
「……あれが、古代竜族の竜都。まるで現代の夜景ですね」
いやまぁ、建物の構造とかはよく見た感じなんだけど、密集した感じとか、真夜中になっても灯りが見える所とかがね。他の場所だとそうそう見られないから。それだけ発展してたって事なんだろうけど。
けど、流石にエルルでも記憶の混乱ぐらいはあるだろうし、そもそも竜都自体が状況を把握するのにもしばらくかかるだろう。つまり、普通に1月1日の午前中ぐらいまで、事態は動かないと見た方が良い。
「ま、それ以前に、まず一当てしないといけないようですが」
……広がった森の中で蠢く、ここから見る分だけで相当な数の、何かの群れが見えた以上、対処は必要なんだけど。
竜人族の人達も、竜都の中に放り出されたって訳じゃないだろうし、行方を探さないとな。
で、1月1日は予定通りに起床。例によって外出は昼前という事なので、午前中にログインだ。……年末年始でも土日だとなんかその辺影響を受けるらしく、ちょっと早めに出ると言われた。
その分だけ時間が削れる訳だが、まぁ仕方ない。まぁまずは防衛状況の確認だな、と、ログインすると同時にクランメンバー専用掲示板を開く。
と。
「………………んん?」
ちょっと理解が追い付かない内容が書いてあったので、目をこすってもう一度見直す。が、書いてある内容は変わらない。どうやら見間違いとかそういう感じじゃ無かったようだ。
どうしてこうなった、というのは、うん。何と言うか。そう来るかー、と、流石だわー、が同じくらいに来るので良しとして。うーん。もしかしなくても、私の仕事、なくなったか?
ちょっと混乱が収まらないが、まぁつまりどういう事かと言うとだな。
「……たぶん、エルルとヘルトルートさん経由ですよねぇ……」
現代竜族の竜皇様がな。古代竜族の竜都を電撃訪問して、さっさか竜族を纏めたんだと。
で、一丸となった竜族が最初の大陸を巡って、とりあえず出てきてた分のモンスターの群れは殲滅したんだって。
なお今は現状の確認をしながら、
「有能。間違いなく有能。流石エルルです」
うん。良い事だ。……ちょっとばかし、私がわざわざ、最初の大陸に戻る時に時間をかけた意味は……? ってなったけど。話がスムーズに進むんなら、それは良い事だ。
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