第922話 29枚目:準備着々
流石に今年のクラスは冬休みだからと盛り上がる空気がなく、ピリピリしたまま粛々と終業式が終わった。他の学年との温度差が酷い事になっている。まぁ去年の先輩達もそうだったんだろうけど。
で、イベントの進捗はと言うと、大半の封印では封印を解除する方法が確定、早い所では不思議な土地を囲む形の防壁型砦の建設も終わったという事で、ここから追い込めば何とかギリギリ間に合いそうだ、という感じとなっている。
一方私が常駐している封じられた竜都がある谷はというと、なんとか封印の全容が分かった所だ。つまりここから封印を解く方法を考える事になる。
「術式的な事は、ティフォン様達は苦手ですからねー……」
……ただし、そういう事なので、「第一候補」による神への直接の問いかけという最終手段が使えない。使っても効果が無い、というのが正しいが。
幸いと言うべきか、頭脳労働組の
それに加えてどうやらニーアさんが何か報告を入れてくれたらしく、現代竜族の竜都から、非常に珍しい魔法メインの人をこちらへ派遣してくれることになったようだ。ありがとうお父様(仮)。
「で、姫さんは何してんの?」
「皆でお揃いのアクセサリを作る練習をしています」
なおそういう段階になって、私は谷に常駐したまま、大神殿経由でクランハウスである島とちょいちょい行き来しつつ、とあるものを作っていた。
うちの子は人間種族がほぼいないから、皆で共通、となるとなかなか難しいんだよな。いろいろ意見を聞いて考えた結果、何とか方向性が決まったから、まずはそちらの生産スキルを鍛えている。
もちろん合間に武器を使った訓練もしているし、建材目当てで谷の中に出現する野良ダンジョンを攻略したりもしているから、結構忙しいんだよな。冬休みになって良かった。
「とは言え、全く同じ形、というのは無理がありますからね。メインパーツをお揃いにして、そこからそれぞれに合わせた形に変える、という感じになります」
「まぁ色々いるもんね。【人化】した状態と解除した状態でも変わるし」
ちゃんと装備している、という判定になれば壊す心配はないから、品質はしっかりしなきゃいけないんだよな。もちろんずっとつけて貰うものなんだから、可能な限り性能も上げたい。
そうなると、私のスキルレベルだと足りないので、こうやって練習してる訳だ。
「……ところで姫さん、1ついいかな」
「なんでしょう、サーニャ」
「さっきから編んでるそのレース、なんか、銀色に光る糸が混ざってる気がするんだけど……?」
「綺麗でしょう? 私と言えば銀色ですし。使い道はこれから考えますけど、たぶんそんなに大きくないので小物になると思います」
「うん。うん?」
え、銀色に光る糸の正体? 私の髪の毛だ。といっても自分で採った分ではなく、ニーアさんに髪を梳かして貰った時に出た抜け毛だ。なので怒られるいわれはない。……一応この練習に使っている分は。
ちなみにこのレースはこの後ハンカチに縫い込むようにして組み合わせて護符っぽくする。実用品だけど、ハンカチじゃなくてお守りだな。練習の品なのでエルルに渡すものではない。
うん? と首を傾げているサーニャには悪いが、流石私と言うか、高レア素材を使ってる扱いになるらしく、【裁縫】のレベルの上がり方が凄いんだ。時間が無いので、その辺加速を掛けられるんならかけておきたいんだよ……!
「サーニャは何か希望とかあります? ぬいぐるみはまだちょっと難易度高いですけど、そろそろ刺繍には挑戦しようと思っていますし」
「うーん、ボクは今の所特にないかなー。全員一緒に貰うやつを楽しみにしとく!」
「分かりました。しっかり腕を上げてから心を込めて作りますね」
と、話を逸らしながらレースを仕上げ、インベントリから次の素材を取り出す。模様が変わると別扱いになるみたいだから、しばらくレース編みなんだよな。
……ちなみに、何のお守りかと言うと、無事の帰還を願うものであり、リアルで言うところの交通安全祈願に近い。
フリアドでは、外出=危険だ。そこには色々な危険がある訳だが、そこに対する安全を願うという事で、割とポピュラーなお守りとなっている。作ったのは私だが、素材とステータス(信仰値含む)的に、それなりに効果はあるんじゃないだろうか。
で、なんでそんなものを作ってるかって言うとだな。……単独行動を禁止しているのに、何故か、また、ルイルが迷子になりかけたからだ。……迷子防止も含まれるので、ちょっとでもマシにならないかな、と。
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