第921話 29枚目:調査進捗

 さてそこから私は生産作業をしていた訳だが、どうやらこのログイン時間いっぱいを魔力の励起につぎ込んだかいはあったらしく、財宝に掛けられていた罠は解除できたのだそうだ。

 ……ただし、骨の方は解除できていない。なのでうっかりその注意を聞き逃して谷に突入した召喚者プレイヤーの一団が、骨の群れにタコ殴りにされて死に戻ったらしい。

 骨の仕掛けは財宝のものより難しく、イベント期間内に解除するのはそれなりに無謀らしい。しかし谷の内部を調査する為には、スクリーンショットやウィスパー、掲示板を使っての素早く正確な情報共有が肝心となる為、召喚者プレイヤーの人手が必要となる。


「で、また私が大人気になる訳ですね。色々な意味で」


 じゃあどうすればいいかというと、種族名に「竜」が入る誰かの同行者枠に入れば良い訳だ。が。どうやら竜人族の人達だと、彼らが襲われないだけ。現代竜族の人達(近衛の人達)だと、範囲攻撃をしなくなる程度で、戦闘は発生するようだ。

 なお古代竜族(エルルとサーニャ)だと、骨自体は動いて視線(?)は向けてくるが、その半径3m以内で歩調を合わせて行動していれば襲われないらしい。私の場合は「第一候補」と一緒に来た時を参照だな。

 この結果を受けて、じゃあやっぱりこの辺りの野良ダンジョンを攻略すれば古代竜族の人が仲間になるのでは!? と気合の入った召喚者プレイヤーもそれなりにいたようだが……。


「ところでカバーさん。それっぽい遭遇例ってありました?」

「今のところは確認されていませんね」


 と言う事だ。……うん。流石に私が例外過ぎると思うんだよ。

 ちなみに一応試すだけは試してみたのだが、【調律領域】のお札は作れなかった。まぁ普通にぶっ壊れスキルだもんな。誰でも使えるようになったら、そっちの方が問題か。

 なので、私は相変わらず大きな竜の骨の近くで待機と言う名の生産作業をしている。まぁ場所が場所なので、丁度良い感じで安全地帯にもなってるみたいだし。


「しかし末姫様。行動がしやすくなるとは言え、思い切りましたね?」

「いつもの事ですし」

「護衛を貸し出すのがいつもの事なんですか!?」


 正しくは別行動の方なのだが、まぁ間違ってはいないな。どっちにしろ、自ら護衛と離れる行動には違いない。それでエルルに何度怒られた事か。

 と言う訳で、現在私の近くにいるのはニーアさんとカバーさんだ。エルルとサーニャ、そして近衛の人達は、召喚者プレイヤーの集団と一緒に行動してもらっている。

 戦闘が発生すると言っても、巻き込み型の攻撃が無くなるだけで難易度は大分違うとの事。なお撃破までいかなくても、しっかりダメージを入れて逃げる事を繰り返せば、調査自体は出来るのだそうだ。


「まぁ、かなりキツいでしょうけどね。励起された魔力の流れを調べて記録するだけとは言え、かなり厳しい防衛戦ではあるでしょうし」

「そうですね。しかし、この後に大規模な防衛戦が控えているのは確定しています。なので、その予行練習として人数が集まっているようです」

「護衛と防衛戦は大分違うのでは? と思いますが、まぁ守る戦いという意味では一緒ですか! こうして休憩できる場所もありますしね! 末姫様のお陰で!」


 …………。そうか、種族特性だから私のお陰か。【調律領域】の影響もあるから、ボックス様のお陰でもあるんだけどな。


「とはいえ、残り時間との勝負ですからね……」

「ええ。残り3分の1を切りましたので、かなり進捗は厳しいと言わざるをえません。人的リソースは徐々にこちらへ集まっているので、ペースは上げられる筈なのですが」


 その人的リソースに細工がされていなければ、という但し書きが付くからな……。

 ちなみに、現在も大陸を問わず、各地で各地なりの騒ぎというか、小事件は頻発しているらしい。つまり邪神の神殿が建てられたり、秩序属性の神の神殿が破壊されたりだ。しつこい。実にしつこい。

 そちらの警戒も怠る訳にはいかず、しかしそちらに手と目を取られてしまえば、高確率で邪神関係の封印が解かれてしまう。司令部は本当に忙しいだろう。


「何が厄介かと言えば、封印を解除する流れになっているだけに、解除の難易度が普段より下がっているという事なんですよね……中に封じられている存在を問わず」

「全くです。もちろん、警戒の手を緩める事はありませんが、どんな手段を使って来るのかが全く読めないというのは、本当に厄介ですね」


 うん。邪神がらみならば一般住民の助力も得られるとは言え、その助力自体も警戒ポイントだから、本当に気が抜けないんだよな。

 こうやって神経と注意力を削り取るってだけでも、向こうからすれば一定の成果だ、というのが分かっていても。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る