第907話 29枚目:探索変化

 立ち入る事が出来ない不思議な土地に踏み込んでから、警戒しながらの道中だったが、警戒の割にはとても順調だった。戦力自体は連携含めて現状最前線で十分通用するレベルだし、時々出てくるモンスターは最初の大陸のものだからだ。

 楽勝ムード、とまではいかないが、それでもさくさく進むことしばらく。距離と方角からして、たぶんそろそろ谷に辿り着くんじゃないか、という辺りまで来たところで、エルルとサーニャが何かに気付き、同時に警戒レベルを跳ね上げた。

 一瞬遅れてニーアさんが気付き、その様子を見て近衛隊の人達と召喚者プレイヤーの人達が警戒を強める。私? たぶんニーアさんと同じタイミングで、何か違和感は感じたんだけど、それが何かは分からないな。


「まぁでも一応。[我らが仲間に、守りの力を――エリアシールド]!」


 が。分からなくても警戒が必要なら、と、一定範囲内にいる味方全員の防御力を上げるバフを使っておく。ステータスの暴力が大変捗っていた時とほぼ変わらない威力がある筈だから、余程の一撃であってもギリギリ耐えられるようになった。と思う。

 まぁそもそも私の種族特性で、近くにいるだけでバフがかかるからね。道中の戦闘はその感覚に慣れるって面もあったりした。なので、それこそエルルのあの本気の一撃レベルの攻撃が来ない限りは大丈夫だと思うんだけど。

 で、さて何が来るか……と警戒していると、何故か違和感が消えていった。うん?


「……退いたか。厄介だな」

「そうだね。それなりには回る頭があるって事になる」


 私は違和感しか感じられなかったが、どうやら2人はもうちょっと細かい事まで分かっていたようだ。警戒を、道中よりは強め、まで緩めて、そんな会話をしていた。

 ……奇襲でも仕掛けようとしてたのかな? で、こっちが気付いている事に気付いて、奇襲を止めて撤退した、と。うーん。


「……つまり、この先で籠城を始めている可能性もあります?」

「というか、まずしてるだろ」

「流石に石で出来た砦までは無いと思うんだけど、分かんないなー」


 どうやらその予想で合っていたらしい。そうか。相手が籠っている場所がどのくらい頑丈かは分からないけど、それは結構面倒な事になりそうだな……。

 召喚者プレイヤーの人達もちょっと相談タイムだ。まぁこっちにはカバーさんがいるし、戦力比で行ったら3倍どころじゃないから大丈夫だと思うんだけど……と思っていると、じっとしていたニーアさんがぱっと顔を上げて、ぱちん、と手を打った。


「よしっ、捕まえました! ……あ、結構近いですね。数は結構いるみたいですけど、今は慌てているようです。どうします?」


 なんのこっちゃ。と思ったが、今の流れ的に、推定奇襲をかけようとしてきたドラゴニアン(仮)の動きだろうか。え、すごい。


「捕まえたって、結構隠蔽はしっかりしてたぞ、今の気配」

「……。とりあえずそちらに向かいましょうか。用心はしながらですが、今回私達は協力を求めに来たのであって、攻撃しに来たわけではありませんし」

「ふっふっふ。一度捕まえてしまえば呼吸をして動いている限りは逃がしませんからね! 分かりました!」


 それ、ほとんどの生き物は逃げられないって事なのでは? フリアド世界には霊体種族も物質種族もいるから、若干例外はあるだろうけど。

 風属性ドラゴンさんすごい。……と思ってちらっと近衛隊の人達の方を見たのだが、彼らも結構驚いていたので、これはニーアさんがすごいということらしいな。

 ……やっぱり過剰戦力だな? と、既に分かっていたことを内心でこっそり確認したが、まぁ、仕方ない。事前情報が少なすぎる上に良いとは言えないんだし。


「最悪、制圧する形で力を示さないと、そもそも話を聞いてすらもらえない可能性がありますからね……。そこまでの事は、出来ればしたくないんですけど」

「だが十分有り得るんだろ」

「残念ながら、有り得るんですよね」


 まぁエルル曰く「攻撃力は残念」らしいので、大丈夫だとは思うんだけどなぁ。ドラゴニアン(仮称)が外の様子に気付いたり、ティフォン様の復活の影響を受けて強化されたりしていなければ。

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