第906話 29枚目:探索道中

 しばらくすると打ち合わせ、というか情報と方針の共有が終わったらしく、行動開始となった。うーん、周りの人数が多い。うちの子だと気にならないのにな。うちの子だからか。そうか。

 私は今回森の中を歩くって事で、サイズを直して銀色装飾で飾るというマイナーチェンジをしてもらったあの探検服を着ている。……子供服を仕立て直して貰ったんだよ。少なくとも、防御力って意味だと私が持ってる中だとあれが一番だし。

 最初は後ろで大人しくしておいてほしかったらしいエルル達も、服(装備)の性能とその素材を知ったら、私が居る事によって周囲にばら撒かれる種族特性支援バフを受ける方が勝ったようだ。……まぁ私自身のステータスが下がったとは言え、少なくとも近衛隊の人達よりは強い、程度だからなぁ。


「しかも今だと私の周りにいる限り強化されるので、大体同じくらいになっているという」

「自分で自分に強化を掛けなければ、だろ。お嬢の場合は特に」


 近衛隊の人達は会話に入ってくれないので、会話はそこそこにしながら森の中を進む。んー、獣道の跡っぽいものを辿ってる筈なんだけど、他の場所との違いがさっぱり分からないな。

 森の中を谷に向かって進むと、ある場所で進めない、というか、透明な壁があって弾かれるという話だ。谷を出入りする時、私とエルルだけでは気付かなかったことから、カバーさんを含めた人間種族召喚者プレイヤー数名が壁を確認する為に同行してくれている。

 あの時も、ルチルが弾かれて初めて謎の結界に気が付いたからなぁ……。と、思いながら進んでいたんだが。


「……すみません、ちょっと止まって頂けますか」


 何故か、その途中でカバーさんがストップをかけた。もちろんそれはそのまま何かあったって事だから、素直に全体が止まる。

 カバーさんは周囲を見回し、メニューを開き、たぶんオートマップと周囲を見比べているんだろう。かと思うとインベントリから紙の地図を取り出して、恐らくオートマップを見比べている。

 その様子を見た他の召喚者プレイヤーも似たような動きを始め、何かに気付いたらしくざわざわし始めた。え、何かあった?


「……そうですね。そうでした。この場には、居るだけで周囲へ、加護に近い力を振りまくちぃ姫さんが居ますから。恐らくその影響でしょう」

「あー……。何となく察しましたが、どういう事でしょうか」

「先ほど我々が通り過ぎた木に、透明な壁がある事を示す目印がつけてありました。ですから本来我々は、そこで弾かれている筈です」

「なるほど。そしてそれが、誰1人弾かれていない、となると……まぁ、そうですね。私の影響でしょう」


 どうやら、既に壁があった場所を行き過ぎていたようだ。確かにイベントのお知らせには、封印されている誰か或いは何かに類する神の加護か信仰値があれば内部の存在と意思の疎通が出来る、ってあったけど、不思議な土地内部へ入る為の資格でもあったようだな。

 ちなみに、全体でちょっと戻ってから召喚者プレイヤーの1人が単独で進んでみると、やっぱり壁に弾かれたんだそうだ。で、今度は私とカバーさんで進んでみると、何の抵抗もなく通れる。うん。確定だな。

 思わぬ収穫というか発見があったが、それならそれで壁のあった場所に何人か召喚者プレイヤーが残って貰い、連絡が取れるかどうかという確認をしてくれるらしい。


「とりあえず私も加護特典の地図に場所を書き込んでおいてと……。何かあったらここに来れば、とりあえず外に連絡がつくという訳ですね。見えない壁が突然不透明になったりしない限りは」

「ここまで大掛かりな封印ともなると、細かく機能を切り替える事は出来ない筈です。なので、ここさえ超えてしまえば大丈夫かと」

「なるほど。交渉が決裂して、なんかヤバい手札を相手が切ったら、ここまでお嬢を逃がせばいい訳だな」

「……全員が逃げるまで私は逃げませんからね?」

「そこは素直に逃がされてくれ」

「嫌です」


 ニーアさんと近衛隊の人達は死んだら終わりなんだぞ。そんな凶悪な手札があるとは思いたくないけど、残るんなら死んでも死なない召喚者プレイヤーだろう。万が一だが、竜族特攻の何かが無いとも限らないのだから。

 その場合は、一緒に来てくれている召喚者プレイヤーの人達とカバーさんに頼る事になるな。そういう意味でも一緒に来てくれてるんだろうし。

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