第908話 29枚目:発見
そこからニーアさんの道案内で進路をずらしつつ進むと、本当に割とすぐ、砦……というには色々足りないし小さいので、精々関所だろうか。そんな感じの、外から人を招く感じでは無い建物が木々の向こうに見えてきた。
こちら側は(万が一の保険としての)数名を除いて特に気配を隠したりはしていないので、近づいてくるのは普通に分かっている筈だ。まぁニーアさん曰く、息を潜めてこちらを窺っている、らしいけど。
その建物の周りは切り開かれてそれなりに開けた空間があるのだが、念の為、その手前で立ち止まって様子を見る事にした。
「……基礎の辺りが石で、上に乗ってる建物が木。実に見慣れた建て方ですね……」
「神にも謎の種族扱いされてるとは思わなかったけどな」
「まぁでも、これでボクらにかすりもしてない種族だっていうのは無理があるんじゃない?」
「それにしても随分技術が拙くなっているみたいですけどね。ほらあそこの角とか、直したつもりみたいですけど、隙間風がめっちゃ入ってます! 楽でいいですが!」
印象としては、昔の遺跡をそのまま使っている感じに近いんだよな。出来るだけ丁寧に壊さないように使いつつ、壊れた所は自分達に出来る範囲でツギハギでも直しながら生活している感、というか。
ニーアさんが指摘した、壊れて直し切れていない角、というのは、石造りの部分だった。木造の部分にそういう部分は(外から見る分には)見当たらないので、そちらはもしかしたら直せるのかもしれない。
そんな感じで様子を見ていたのだが、向こうからの動きが無い。……まぁ分かってたけどさ。出来ればどっか行ってくれないかと期待しているのか、それとも何かの機を窺っているのかは分からないが。
「しかし、いつまでもこうして様子見ばかりをしている訳にも行きませんし……ニーアさん。あの内部って混乱してます?」
「恐慌一歩手前っていうのがたぶん一番正確かと。全く、こんなにルミル様は可憐でいらっしゃるというのに失礼ですね!」
「現状として、私達が彼らの生活圏に侵入しているのは事実ですからね。侵略や攻撃の意図は一切ない、というのも、向こうからすれば分からないでしょうし」
そもそも、結界をすり抜けて大人数が入って来るって事自体がこの1万年無かっただろうしなぁ……。外に出ていく事も無かったんなら、その間ずっと完全に外との交流が途絶している事になる。北国の人魚族といい勝負だ。
それだけ隔絶しているのなら、もう文化的には異世界と言っていいだろうし。……もうこれは、こっち側の全員に備えて貰って、私が魅力ステータスを開放する方が早いか?
でも一応言葉は通じる筈だから、言葉でどうにかしたいんだよなぁ……と悩みつつ様子見を継続していると、ニーアさんが首を傾げた。
「……動きがありますねー。たぶんまとめ役みたいな誰かが、周りをなだめながら出てくると思います。どうしましょう?」
視線は建物に向けたまま、私に問うてくるニーアさん。……そうか。現状一番立場が偉いのは私だった。
「向こうから接触する動きがあるのはありがたい事です。他の人達に信頼を得ている人と話せれば、こちらへの警戒を解くのも早そうですし。まぁ最低限の警戒はしますけど」
「分かりました! では警戒は続けておきますね!」
なお、建物が見える位置に付いてからの会話は全て小声の上、ニーアさんが風を操って遮音してくれている。流石に会話をそのまま聞かせる訳が無い。後ろでカバーさん達も小声で相談してくれてるし。
しかし、向こうの代表者(仮)が出てくるなら、探検服じゃなくてドレスを着ていた方が良いのかなぁ、とか思っている間に、私でもざわめきの変化が聞こえるようになった。そう間もなく、建物の正面にある、大きな扉が内側から開かれる。
そこから出てきたのは、意外な事に、今の私より小柄な少年だった。赤茶色の短髪で、橙に近い黄色の目。そして顔と比べると大きな白縁眼鏡をかけて、本人からすると大分大きな本を抱えている。着ているのは、あれ、名前は知らないけど、大学とかの卒業式で着られている感じの服だ。丸い筒に四角い板を乗せた感じの帽子がセットのやつ。
「どうも、予期せぬお客様方! 彼らは少々人見知りな物で、まずは同じく外の存在であり、少しばかりは先に交流を持つこととなった、この僕とお話しいただければと思うのですが!」
扉から少し離れた所ではきはきと明るく張られた声は、周囲全体に響く程度の大きさはありつつ、私達が居る場所へと向いていた。まぁ気配は特に隠してないしね。
そしてその言葉の内容から、こちらと接触しようとしてくれているのは確定。ひとまずは友好的であり、言葉が問題なく通じるのも好感触だ。
なので私は木の影から前に出て姿を見せ、その少年の正面に立ち。
「――――――なんっってとこにいるんですか!!」
「ひゃっ!?」
まず、思いっきり、怒鳴った。
後ろでエルル達が驚いている気配もするし、向こうの建物で怯えが加速した気配もしているし、少年自身も驚いているが、とりあえず、だ!
「ポンコツと呼ばれているのも納得ですよ! ここまでの経緯、一から十まで事細かく全部説明してもらいますからね! ルイル!!」
「へっ? あれ、何故僕の名前を…………あっ!? マイマスター!?」
そりゃどれだけ探しても見つからない訳だわ!! この迷子はもう!!!
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