第903話 28枚目:進化の影響

 無事【老体】からの進化を果たしたヘルトルートさんだが、ドラゴン姿の大きさは結局よく分からないままだった。いやー、ステータスの暴力そのままで隠密が得意な種族特性だから、何も分からなかったよ。

 その後、恐らくヘルトルートさんが【人化】して、自分の抜け殻を回収したのは何とか分かったんだが、そこから魔法で灯りを浮かべて貰うまで何してるのかはさっぱり分からなかったからな。

 ちなみに【人化】後の姿はあんまり変わらなかった。……気持ちしわが減ったかな? ってぐらいだ。まぁ寿命が延びても、そんな急には若返らないか。本人、とても嬉しそうに身体を動かしてるけど。


「……ところでお嬢。転移で抜け出してきたのは分かったが、どうやって戻るんだ?」

「え。同じく転移のつもりでしたが?」

「中から外に出る分はたぶん大丈夫だが、外から中だと空間移動対策の防御魔法に引っ掛かるぞ」

「あぁやっぱりそういうのがあるんですね……。……どうしましょう」

「考えてなかったというか、気づいてなかったのか」


 いやー、公認の皇女になったしその辺スルーできないかなーと……え、ダメ? そうか。……どうしようかな。朝までに戻らないと確実に騒ぎになるだろうし、そもそも時間が時間なので出来るだけ早くログアウトしたいんだけど。


「何か考えてるんだと思ってたが、違ったんだな……。仕方ない。ヘルト」

「はい、兄上」

「こっそりお嬢を送り届けて貰えるか。たぶん今のお前ならいけるだろ」

「えっ。いけるんですか」

「そうですな。今夜は新月ですし、何より進化して身体が軽く、良く動く。末姫様を抱えて出入りするくらいでしたら、支障はないかと」


 まーじで? ……と思ったんだが、その後本気で姫抱き状態でお城の部屋に戻れたから驚きだよなぁ……。何か解除してる様子もなかったから、たぶんお城の防御魔法とか警備関係、ぜーんぶ種族特性で回避したって事だろうし……。

 え。これ、誰も止められないのでは……? と思いながらもお礼を言って、とりあえずその場はログアウト。もちろん現実でもさっさと寝る。夜更かししちゃったからね。

 そしてその朝は何とかいつも通りに起きて、案の定振り払い切れない眠気と戦いながら主に受験対策の授業を受ける。……帰って来た時点でもまだ欠伸が出るような状態だったが、つまり学校では寝てないって事だ。


「うん。頑張ったな。もうやらないけど」


 まぁでも今夜は早めに寝るとしよう。と思いながら、どうにかいつもと同じ時間にログイン。

 ヘルトルートさんに「進化結晶」を渡して進化してもらうという個人的重要イベントも終わったし、少なくとも今月いっぱいは武器スキルのレベル上げと、プレイヤースキルを上げる事に集中する感じだな……と思いながら、とりあえずいつものようにクランメンバー専用掲示板を見る。

 と。


「…………。何か、いきなりイベントが捗っているような?」


 そこに纏められている、恐らく分類は探索となるのだろうイベントの状況が、何だか随分と進んでいた。このイベントにおいてネックとなっていたのは、元『本の虫』組と「第一候補」のタッグでゴリ押しできない、つまり厄介な相手から真っ当に資料を手に入れるしかないか、資料の場所自体がほとんど分かっていないor秘匿されている場所の情報だ。

 それが、何だかこの内部時間3日程で、かなりの量が集まった、としか思えない進捗となっている。どういう事だ? 交渉が進んだ、にしてもちょっとその量が多くないだろうか。

 どういう事だ? いや、いい事なんだけど。いくら考えてもなんかそれっぽい理由が思い浮かばないぞ……? と、首を傾げていると、ニーアさんが迎えに来てくれたようだ。すぐに返事をして、部屋から出る。


「あれっ。どうかされましたか、末姫様?」

「あぁいえ、ちょっと。現在召喚者に下された託宣の件について気になる事がありまして……」

「おや、託宣の件……というと、あれですね! 確か、説得が主になっている調査だとか!」

「あ、先輩おはようございますっすー」


 どうやら身だしなみとして髪を丁寧に梳かすのは重要らしく、ログインする起きるたびに髪を梳かして貰いながらそんな会話をしていると、フライリーさんが顔をのぞかせた。今日はほとんど同じタイミングでログインできたらしい。

 そのままフライリーさんにも話を振ると、あー、と納得の声を上げた後、


「あれって確か、エルルさんの弟さんが大活躍してめっちゃ進んだって話っすよね」

「えっ。……そうなんですか?」

「え、先輩何も聞いてないっすか?」


 と、言っていた。うん。聞いて無いんだよなぁ。

 その流れで詳しい事を聞いてみると、どうやらシュヴァルツ家の当主も子供に譲ったし、余命があれだったしと、のんびり隠居状態だったヘルトルートさん。私が渡した「進化結晶」で進化して身体が動くようになったって事で、個人として召喚者プレイヤー……というか、『アウセラー・クローネ』に協力してくれることになったらしい。

 で、その協力というのが……あの、私を抱えてお城へするっと侵入して見せた、とびっきりの隠密能力を全力で使っての、「資料集め」、らしく。


「めーっちゃ捗ってるって、カバーさん達がものすごく喜んでたっすよ」

「…………なるほど」


 いやぁ。

 良い事は積極的にしていくもんだなぁ。(目逸らし)

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