第878話 26枚目:話し合い完了

 どうやらシュヴァルツ家というのは、お屋敷に住んでいても、家の事は家族で分担してやっているらしい。フィルツェーニク君がニーアさんと一緒にお茶の準備をしてたからね。何でも出来るようになる英才教育か?

 とりあえずそこでお茶を頂き、裏でウィスパーとクランメンバー専用広域チャットで封じられた竜都について打ち合わせしつつ、見た目はのんびりと過ごす。いやー、お茶もお茶菓子も美味しい。

 で、そこからフィルツェーニク君がサーニャに稽古をつけて欲しいって言いだして、庭に移動。……なるほど。庭の真ん中は芝が無いんじゃなくて、日常的に手合わせをするからすり減って無くなったんだな。


「ん?」

「どうされました?」

「えーと……あぁ、たぶんエルルの方の話し合いが終わったんですね」


 あれでサーニャも普通に強いし何かと器用なので、槍と長剣という差はあっても上手く教えているのを見学しつつまったりしていると、なんかどっかから、感覚的な揺れが伝わって来た。

 何だこれ、とは思ったものの、原因はすぐに分かる。あの部屋にかけてきた封印魔法が揺れたのだ。だからたぶん、エルルとヘルトルートさんの話が終わって、ノック代わりに内側から殴ったのだろう。

 もっとのんびりしてもいいのに、と思いつつ封印魔法を解除。そのまま上を見上げると……あ、あの大きな窓があの部屋か。お、内側から開いた。って、うん?


「っと……。しかし、話を途中で放り出した割には寛いでるな、この降って湧いた系お嬢は」

「放り出してません。休憩です」


 その開いた窓から飛び出して庭にショートカットしてきたエルルは、私達の様子を見て開口一番そう言った。にっこり、と笑って返すと、深々と溜息を吐いてしまう。

 えー。サーニャは手合わせ中だけど、ちゃんとカバーさんとニーアさんが側にいるじゃん。護衛をまいてどっかに行った訳でも、手合わせに混ざってる訳でもないぞ? 何せ正式に皇女として認知されたからね。

 ……が、まぁ、なんかどっかすっきりした感じというか、軽くなった感じがするので、ちゃんと話は出来たのだろう。良かった良かった。


「とは言え、話をする必要のある事は大体全部話し終わっていますからね。そもそもシュヴァルツ家に直接来たのも、半分ぐらいはエルルがいるからでしたし」

「そうだったのか!?」

「そうですよ?」


 うん。必要な分の話し合いは終わってるんだよな。封印された竜都が封印されてからどれくらい経っているのかっていうのと、その封印を解く為のあれこれに対する協力、この大陸での防衛戦争を攻略する方向性。

 っていうか、エルルも話自体は聞いていただろうし、個人的な事に関する部分以外は予定だって聞いてただろうに。

 ……その聞いてなかった個人的な部分の衝撃が大きすぎて他が若干吹っ飛んだ? それはごめん。


「いやー、それにしても驚きましたよ! エルルリージェさんがかの最年少大隊長だったとは!」

「…………就任の時にちょっとごたごたがあって、予定外にな……」

「それでも文章に残されたそこからの第7番隊の成果を見る限り、これは指揮官の功績だなって皆言ってますよ! サインもらっていいですか!?」

「断る」


 ニーアさんからそんな話も出てきて、再びものすごく複雑そうな顔になってたけど。もうちょっと喜んでいいんだよ、エルル。

 しかしまぁ、防衛戦争が続いている状態、っていう非常事態だからか、エルルとサーニャの色についてあれこれ言う奴がほぼいないのは嬉しい誤算だな。それどころじゃないって事だから、余裕って意味だとあんまり良くないんだけど。

 とは言え、現在2回目の日曜日の夜のログインだ。この大陸で現在行ける範囲は大体全部行けただろうし、防衛戦争にも召喚者プレイヤーが参戦し始めて、竜族の人達もだんだん付き合い方に慣れてきた感じの話を聞いている。


「(とは言え、召喚者プレイヤーが参戦したことで「モンスターの『王』」の攻勢に変化がないとは言えないし、戦力を補充するって意味でも横やりを防ぐって意味でも、やっぱり色々急いだ方が良いな)」


 だって封印を解くとなると、あの謎のドラゴニアン(仮称)との接触は避けられない。現在もあの封印された竜都がある谷の周囲は探索されているし、そこから既に、ドラゴニアン(仮称)の集落の位置も大まかに予想されている。

 ……かなり長い間放置する事になったが、ようやくこちらの謎も解けるな。あのどこからどうやって発生したのか分からない、竜族の近縁種族のルーツが。

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