第873話 26枚目:合流と訪問

 そんな騒動(?)があったにはあったが、ようやくここでエルルとサーニャに合流だ。結構長かったな。というか、過去最長では?


「で、エルル。私の追加護衛候補の皆さんはどうでした?」

「追加って事は俺らを外すつもりは無い訳だなこの降って湧いた系お嬢。…………気合は良いが、もうちょっと基礎を固めてから来いって感じだった」

「当たり前です。で、サーニャは?」

「経験が足りないね! フェイントに引っ掛かり過ぎ! ボクのフェイントはフェイントになってないって散々怒られてたのに!」

「なるほど」


 基礎も経験も足りないってダメなのでは? と思ったが、比較対象が悪いんだろうなという気もする。少なくとも、現代において通常の護衛をする分には十分な実力がある筈だし。

 何をしたかと言うと、ニーアマルカさん……頼み込んで、ニーアさんと呼ばせてもらう事にした。が日程やらを調節してくれて、いつかのクラン加入試験みたいな感じで護衛候補者達とエルル&サーニャが手合わせをしたのだ。1対1、魔法無し強化無しに加え、エルルとサーニャは寸止めしないと負けだが、挑戦側は初見殺しもありで傷を負わせたら勝ちだ。

 ……で、結果はこの会話の通りなのだから、まぁ、うん。現代竜族と古代竜族の実力差は大きいって事なんだろう。


「いやー、あれは酷かったですね。ルミル様が懸念されるのもよく分かりました。まぁ訓練への気合が一段違うようになったので、それは良かったと思いますが!」


 なお、ニーアさんには更に頼み込んで、名前の前につく「皇女」を外して貰った。流石にね。様付けでも結構あれなのにいちいち皇女ってつけるのはね。こっちの緊張が謎に高まるから勘弁してほしいんだよね!

 あとその手合わせの結果か、色が逆転しているエルルとサーニャに向けられていた「?」と言う視線が、実力者を見る憧れに近いようなものに変わったらしいので、手合わせはやって良かったと言えるだろう。

 で、久々の2人との合流にカバーさんとニーアさんも一緒でどこに向かっているかと言うと、どうやらあの世界規模スタンピートの時から現在までの生き証人……そう、当時から現在までを生きてきた人に会いに行くのだ。もちろんお城には記録が残ってるしそっちを調べても良かったんだけど、何でわざわざこっちかというと、だな。



 ……シュヴァルツ家の最年長の人なんだよ。

 つまり、高確率で、エルルの親族。もしくは、家族。



 お陰でエルルの顔色が悪いどころじゃないんだよね……!!

 いや、一応私は聞いた。先に紙の資料を調べて覚悟してから行く? って聞いた。だって当時を体験して生き残ってるのがその1人だけだって聞いた時点で、絶対竜族的にも相当な時間が経ってるのが確定してるんだよ……!

 けどものすごい長考の後、エルルは先に会いに行くと言ったのだ。なので私もカバーさんもネタバレ無しで向かっている。ニーアさんはと言うと、資料がある事は知っているが、そんな古い物の年代まで確認していないとの事。


「そもそも自分の年齢もあいまいですからね。特に年代的な事はあんまり細かい事は資料を調べても分からないと思います。経験者の話を聞く方が私としてもお勧めです!」

「……資料としては残っているんですよね?」

「引継ぎに使うとか経過を残す必要があるとか、そういうものは細かく残すんですよ? ただその季節の移り変わりによる変化とかならともかく、年単位の経時記録とかは私も作った事ないですね!」


 北国の大陸に残されていた細かい資料は、あの引継ぎ資料を作ったアキュアマーリさんの性格が几帳面だっただけ、という可能性が出て来たな。残ってた日記部分に、自分でやらないと、という一文があったし。

 どうしてこう、妙な部分で雑なのか。と、別の意味で頭が痛くなったが、それはともかく。


「ところで、サーニャはエルルと幼馴染だそうですが、家族については聞いているんですか?」

「ごめんね、さっぱり分かんないや。エルルリージェ、ほんとに自分の事は一切話さないからなぁ。確かお兄さんが2人いて、そっちが暫定跡取りってぐらい? 弟も妹もいるらしいけど、人数は知らない」

「それは結構知ってるうちに入るんじゃないですか? 普通はよそのお家の兄弟の人数とか知りませんし!」


 と言う事で、私もマジで事前情報が一切無い。しかしエルル、上にも下にも兄弟が居たのか。初耳だぞ? 竜族ってやっぱり兄弟が多いみたいだな。長命種なのに。……何かの理由で大人になれる確率が極端に低かったりするんだろうか。

 とか話をしている間に、目的地に到着したらしい。……今更だが、私が正式に皇女として認定されたので、移動手段は馬車っぽいものである。何せ引いてるのが馬じゃなくて亜竜の類だから。フリアド的にはこれも馬車でいいんだろうけど。

 馬車から降りる時に、御者さんにエスコートしてもらったけど、慣れないんだよなぁ……と思いながら顔を上げると、そこには結構大きなお屋敷があった。わぉ。


「ちなみにエルル、見覚えは」

「…………ある」

「ですかー」


 うん。何らかの理由で、別の家がシュヴァルツ家を名乗ってるとかでもないようだ。まぁ元々その可能性は低かったけど。フィルツェーニク君を見る限り。

 ……とりあえず、エルルの様子にも十分注意しながら、貴重な生き証人の話を聞きに行こうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る