第868話 26枚目:イベント進捗

 渡鯨族の港町周辺は既に先行した召喚者プレイヤーによって探索されているので、最初の方はそれこそスタンプラリーのノリで進むことが出来る。もちろんモンスターとの戦闘が無い訳ではないし、竜族基準なのか結構手強くはあったが、所詮は通常モンスターだしな……って感じだ。軒並みマリーの経験値になった。

 動物系の魔物種族と獣人族が1つの村で暮らしていたり、町の広場で森人族(エルフ)と山人族(ドワーフ)の喧嘩をスライムが仲裁していたり、何と言うか、まさしくファンタジーと言った感じの光景が先々で見れた。

 ……1回だけ近くの建物で爆発が起こって、恐らく第1か4番隊の【人化】した竜族の人が目の前を走っていったときは危なかったけど。周りの話を聞いた限り、どうやら魔族の人が何か研究で失敗したらしい。


「いやー……すごくファンタジーね。まさしく異世界だわ」

「そうですね。私達は可愛いを探してこの世界に来ましたけど、これはこれで素晴らしい光景です」

「大変弾力のある触り心地の良いお肌でしたわ」

「ちょっと目ぇ離した隙にスライムの人をぷにりに行くとか、自由っすねこのお嬢様」

「そこで持ち帰ると言わないだけ常識を学んだんですね、マリー。相手の許可は取りましたか?」

「勿論ですわ。流石にもう子供ではありませんのよ?」


 今回一緒に行動しているのは全員召喚者プレイヤーなので、リアル都合と言うものがある。だから実際の探索時間はそれほどでもないが、いっやー、探索と言う名の散策超楽しい。ザ・ファンタジーなんだもん。こんなの永遠に散歩してられる。

 とはいえ、竜都がある大陸中央、輪の形になっているという険しい山に近付くにつれて、町や村の雰囲気もピリピリしたものに変わっていくのが分かるので、やっぱりこの平和はギリギリって事なんだろう。

 最初の土日でそれなりに距離を稼いだとは言え、1日に全員で行動できる時間は限られている。なのでほとんど新発見は無く、既にある程度実績と信用と好感度が稼がれた場所に、それらを上乗せしていくという形になる。


「というか今回、さらっと競争要素無しに全召喚者プレイヤーで目標の達成値が共有されてるんですよね」

「あ、そう言えばそうっすね。あれだけ競争を煽りにかかってたのに」

「まぁあのバックストーリーを読んだら……ねぇ?」

「そうですね……流石に、競争とかしてる場合じゃないって、思ってくれたんじゃないでしょうか」

「判断が遅いのですわ」


 ははは。竜族への信頼()ってとこだろうか。

 それはともかく。イベント開始から5日が経過した現在、その共有されている目標は、どうやら竜都及び2つある防壁型の砦の手前で止まっているようだ。流石にそこは難易度が高いと言う事か、或いは現在調節中なのかも知れない。

 事前準備が出来ていたことを考えれば、竜都ぐらいは「第二候補」によって達成されていてもおかしくない筈だが、それもない。と言う事は、恐らく「戦力として」認められなければならないのだろう。


「竜族が長年苦戦している相手、という時点で、戦力になるかどうかというハードルがものすごく高いのは当たり前なんですよね。……流石に、本気モードのエルルやサーニャに1対1で勝つよりはマシでしょうけど」

「先輩、比較対象の難易度が高すぎてマシでもなんでもねーっす。というか本気モードの2人ってマジ強いっすよね?」

「戦闘そのものへの経験値が違いますからね。サーニャも普段はともかく、本気になったら油断が一切無くなりますから普通に強いですし」

「……ルシルさんぐらいは呼ばないと無理だと思うんすけど」

「あの子はあの子で特化してますから、戦場全体にばら撒かれる状態異常で沈むんですよ」

「むしろその耐性の辺りで落とされてる気がしてきたっす」


 なるほど。それも有り得るな。竜族が苦戦している理由がまさにそれなんだし。

 とは言え、現代竜族の平均種族レベルにもよるからなぁ。リアル去年の5月時点とはいえ、若くて見習い相当だしても一応職業軍人として働いているフィルツェーニク君が、種族レベル1000以下だったんだし。

 んで、確か現在、人間種族召喚者プレイヤーで一番総合レベルが高い人で、種族レベルカンスト=1000、それに加えて【成長因子】スキルのレベルが確か、500の壁が分厚いとか聞いたから、実質種族レベル1500ぐらいの筈だ。


「……魔物種族の場合、第1陣ならそこに大体300から500の上乗せがされている筈です。第2陣と同じタイミングで魔物種族に転生しても、周りの協力がある分追いつくのは早い筈ですし……」


 私と言う例外はいるが、フリアドにおいて、ステータスというのは基本的に装備で補うものだ。その上でスキルレベルを上げて出てくる補正の高いアビリティを、プレイヤースキルできちんと狙って当てれば、種族レベルが低くても相当なダメージを叩き出す事は出来る。

 その上に神の加護や祝福が乗っかり、さらにその場で支援バフを積んだら、それこそ単純な種族レベルの差だけなら数百は軽く埋められる(『アナンシの壺』公開情報より)のだ。

 ……だから、戦力にはなる筈なんだよな。現代竜族の平均種族レベルは、古代竜族のそれよりかなり下になっている筈だから。もちろんそこまで時間が経ってなくて、古代竜族の生き残り世代がそのまま最前線を張り続けている、とかなら話は別だろうが……。


「先輩? どしたっすか?」

「……いえ、何でもありません」


 結局、問題はそこに戻って来るんだよな。一体古代竜族と現代竜族が分かれてから、どのくらいの時間が経っているのか。

 野良皇女わたしが正式に姿を見せるタイミングは「第一候補」と「第二候補」がメインになって探ってくれる筈だ。……が、戦争の情勢によっては、不意打ち気味であっても早回しにした方が良いかも知れないな、これ。

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