第869話 26枚目:関門突破条件

 結局私は異世界散歩(戦闘付き)を満喫するばかりで2度目の土曜日が終わり、その夜のログインでようやく向かって左側の砦に召喚者プレイヤーが到着する事が出来たようだ。

 どうやら参戦試験とでも言うべき関門に必要だったのは、攻撃力よりも耐性であり、いかに指示を聞き逃さず素直に行動する姿勢を見せられるか、という部分だったらしい。なるほど、今までは司令部からの指示こそあったが、ざっくりとした方針に近いものだったもんな。極論従う義務は無かったし。

 無数のチャレンジの果てにどうにかそれを読み取って戦力にカウントされた召喚者プレイヤーだが、その先で実際に戦闘に参加(ただし支援として)してみて、真っ先に掲示板に書き込んだのが、こちら。


『いやあれはダメだわ。別次元過ぎる。1人2人足したところでどーにもならん。ある程度固まって1つの集団として動けるようになるのが大前提。個人技じゃ何と言うか色々無理』


 ……一体どんな戦いが繰り広げられているのか、と、結局指示に従って駆けずり回ってスクリーンショットを取る暇もなかったらしいその召喚者プレイヤーの書き込みに、改めて「ヤバい」という共通認識が出来たらしい。

 とは言えその召喚者プレイヤー曰く、指示をちゃんと聞いて実際その通り動けているなら評価されるし、その分だけ日当として報酬が出るし、移動や休憩なんかでは手厚いフォローがあるし、環境としてはとても良好だったとの事。

 どうやらこのまま実績を積み重ねていけば、竜都で装備を作って貰うとかも可能になりそうな手応えもあるとの事で、覚悟を決め直した召喚者プレイヤー達は主に支援する側として動く為の準備を整えて挑戦を再開したようだ。


「まぁ火力も、ちゃんと見せれれば上手く組み込んでくれるとは思いますが。とりあえず即戦力として合格のハードルが低いのは支援側ですよね」


 ちなみにその後の経過で、ほぼ一発合格が確実なのは【○○属性魔法】スキルを2段階進化させたデバフをメインで使う、デバッファーというのが分かったらしい。……通るのか、デバフ。確かに竜族が使うイメージは無いけど。私も苦手だし。バフは得意なんだけどな。やり過ぎる位に。

 あとは、生産スキルのレベルが高い召喚者プレイヤーも歓迎されているようだ。……せやな。としか言えないが、特にポーション類を作る【錬金】の派生スキルが高いと合格までが早いらしい。

 私達は砦の手前まで辿り着いたところでしばらくマリーのレベリングをして、私とマリーが引っ込み、ソフィーさん達とフライリーさんはそれぞれ個別で参戦試験を受けに行った。私はこのままマリーと一緒に、ちょっと引き返したところで待機だ。


「とは言え、いつまでも正体を隠している訳にも行きませんからね。エルルとサーニャとも合流したいですし」

「そう言えばあのお2人はどこで待機されておりますの?」

「動くとどうしても目立つって事で、渡鯨族の港町から出てない筈です」


 サーニャの実家ことヴァイス家はあるかどうか分からないが、エルルの実家ことシュヴァルツ家は現代まで続いてるのが分かってるからなー。つまりそれは、エルルの親類の誰かが封印を逃れて普通に時間が経ってるって事だ。

 それが叔父や叔母といったちょっと離れた親戚でもいい加減ショックだろうに、それこそ直接の親自身とか、下手したら自分の兄姉きょうだいだったりしたら、ちょっと立ち直れないんじゃないか? っていう危惧があったりする。エルルの詳しい家族構成知らないけど。

 まぁ、それは本人も分かっていたし、だからこそあそこまで顔が固まっていたんだろうが、覚悟したと言ってもしきれるものではないし、分かっていてもショックは受けるだろうからなー……。


「と、カバーさんからウィスパーですね。ちょっと集中します」

「分かりましたわ」


 うーん、と考えながらもポーションを作っていると、ウィスパーの着信音が響いた。作業を一旦止め、同じ部屋にいるマリーに一言断って応答する。


『はい、どうかしましたか、カバーさん』

『今回の防衛戦争について、召喚者や情報の扱いについて協議を重ねた結果、竜皇様との謁見が許可されました。暫定召喚者代表として『アウセラー・クローネ』代表者全員での謁見となりますので、これからお迎えに参ります』

『分かりました』


 どうやら、そういう事になったようだ。そうなる?

 まぁでもやっぱり代表者との話し合いと情報共有は必要だし……覚悟決めるかー。

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