第856話 25枚目:最後の関門

 一瞬「築城の小槌」が壊れたかと思うほどの衝撃が手に返って来たが、目を向けると皹が入っているがギリギリ形は保っていた。ありがとう「月燐石のネックレス・祝」。ありがとうボックス様。ありがとうナヴィティリアさん。

 魔力を込めれば込めるほど出来上がるお城は大きくなる。そして今回私は、地下が本体じゃ無いのかという感じのお城のイメージを持って「築城の小槌」を使った。

 咆哮が響いている中と言う事で抵抗が強まっている可能性もあったが、幸いそういう事は無かったらしく、ほぼ直線でレイドボス「沈め捕える無温の氷晶」の中心部分へ続く地下通路が出現する。


「ちょっと飛ばしていきますよ……!」


 ほとんどが階段となっているその通路を半ば飛ぶように駆け下りて、最後の一歩を踏み出す前にインベントリを操作。積層式装備の足の方を装備して、最後の一段を降りた勢いをそのまま、


「――――[震脚]!!」


 全力で、床を踏み砕いた。

 恐らくシステムロックと言う名の謎の反射能力が無いのであれば、いくら巨大でもただの氷の塊だ。さっきから火山の女神が攻撃しているらしい振動が響いているし、攻撃さえ通るようになったんなら、竜族の皇女わたしの敵ではない。

 ゴガッッッ!!! と凄まじい音を立てて、直径3m程の穴が直線で開いた。積層式装備を解除して、その穴の縁を蹴って駆け下りていく。


「お嬢! やり過ぎだ!」

「ここら一体全部敵ですし、遠慮はいらないじゃないですか」

「そうじゃなくて、救出対象にダメージが入ったらどうする!!」

「大丈夫ですよ。謎の空白部分は避けるように角度をつけましたから」

「そういう問題か!?」


 まぁエルルもそう言いつつ、どうやら行く道が見つからなかった未探索領域、そこから出てきたらしいモンスターを片っ端から切り捨ててるんだけど。しかし流石にうるさいな。咆哮の大元だから仕方ないんだけど。

 モンスターを道標にして、完成されていた地図に無かった道を進んでいく。いやー、声に出さずとも会話が出来る同族補正って便利だね。むしろこれが無かったら連携とか無理じゃないか?

 ともあれ、私とエルルを相手に普通のモンスターなんて時間稼ぎにもならない。罠はあっても効かないし、残った場所がそう広くない以上はすぐに踏破出来る。


「さて、やっぱりありましたね。若干耳が痛いですけど。エルルは大丈夫ですか?」

「大丈夫ではないが、無事ではあるな」


 で、他の場所にあったものより、一回り大きく豪華になっている青い扉を発見。オートマップを見ると、やはりここがレイドボスの中心のようだ。とりあえず扉のスクショを取り、エルルに扉を開けて貰う。

 扉を開いた途端に咆哮が強くなったような気もするが、そこはステータスの暴力でスルー。もちろん、直撃を食らい続けているようなものだから、楽では無いんだけど。

 今までのパターンであれば、ここもまた敵対する様子を見せなければ「お嬢様のギャラリー」を説明付きで観覧して、その説明者と「作品」を持って帰れるはずだが……。


「……なるほど。最後ぐらいはまともに戦え、と」


 と思いながら開いた扉の向こうを見る。と、そこにいたのは、大小様々……と言っても最小サイズで大型犬ぐらいはあるが……な、狼の姿をした氷像の群れだった。

 高さも広さも今までの倍以上あるだろう部屋の一番奥には、【人化】を解除したエルルぐらいの氷の狼が控えていた。……若干の違和感を覚えてよく見てみると、どうやらその腹の中に何かあるようだ。

 空気が入って曇った白と、出所不明な青で不透明になっている為、透かして見る事は出来ない。が、他にもちらほら、色がついている大型の氷像は居るので、恐らくあれが「目標」なのだろう。


「ま、戦闘力を求められたところで何も問題は無い訳ですが。エルル、謎の凍結と室内の気温、及び推定救出対象を抱えた個体に注意してください」

「了解。ただ、お嬢もあんま前に出るなよ」

「後方支援に徹していますよ。火属性攻撃が解禁されていますからね」


 部屋に踏み込む前にエルルに主に防御と耐性を上げる支援バフをかけて、自分のバフも更新する。簡単に全身を見直して【寒冷地行動適性】のついた装備がしっかりとある事を確認。

 インベントリに保険の雪玉もある事を確認して、こちらを揃って威嚇してくる、氷像の狼の群れが待つ部屋へと、踏み込んだ。

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