第844話 25枚目:発見報告

 私はレイドボス「沈め捕える無温の氷晶」である巨大な氷でできた狼の口の中に特大の城を作る事でその口を封じつつ、指示が来たらレイドボスの背中に移動して、内部探索をしている召喚者プレイヤー達の探索限界の先に、地下室をメインとした砦を作る事で、中継地点兼侵入経路を作っていた訳だ。

 途中で繋げる先があまりに深くなって地下への通路が届かなかったり、背中に建てた砦や城がある程度以上になったら身震いで一気に全部壊されたりしたが、まぁそれは想定内。全部壊された所ですぐに建て直せばいいし、届かないなら地下室に更に小規模な砦を作ればいい。

 それでも相手が大きい上に、内部の環境が厳しいし、重量が増していくというリスクもあるから、中々探索は進まない。今の所やたらと折れ曲がって分かれ道の多い通路ばかりで、発見らしい発見が無いのも困ったポイントだ。


「……足元、というか、足場になっている飛石状の氷の塊が調べられた、のは、いいんですが……」


 で、そんな中である程度成果のある報告が上がったのは、私が口を封じた分だけ調査が進んだ、足元にあってレイドボスの足場となっている、飛石状の氷の塊を調べていた召喚者プレイヤーのグループだった。まぁ妥当なんだよな。

 そして具体的に何が分かったかと言うと、まずこの飛石状の氷の塊、レイドボス「沈め捕える無温の氷晶」が乗っていると、破壊不可能になるらしい。足元を崩して海に落とすのは出来ないようだ。

 なら乗っていない氷の塊はと言うと、こちらは耐久度があって、削る事自体は出来たらしい。だが耐久度を削るとモンスターの群れが発生し、しかも削った量と出現する量が明らかに釣り合わないんだそうだ。


「拳1つ分を削ったら、ちょっと大きめのモンスターの群れが乗った流氷になる、と。しかも岸まで流れ着いたら、流氷自体もモンスターになると来ましたか……」


 けどまぁ、それでも、言ってしまえばただのモンスターだ。ある種のカウンターに属する取り巻き召喚と考えれば何もおかしい事は無い、と、大陸に再建された防衛陣地で待っている召喚者プレイヤーに後の事を託し、そのグループはガリガリと氷の塊を削っていったとの事。まぁ削るよね。

 ところが削っていくと、どうも内部、海面より下のほぼ中心となる場所に、芯のような形で破壊できない部分があるらしい事が分かったという。

 ただ、単なる芯としては何だか違和感がある、と、そのグループは破壊可能な部分を削っていき、その破壊できない部分の形を浮かび上がらせていったみたいだ。何せ相手は氷だから、削って上の部分が小さくなれば、浮いてくる。


「で、半分ほど削った所で、その「芯」の形が見えてきた。のは、良いとして」


 問題は、その「芯」の形だ。色味と手応えこそ周りと同じ白く曇った氷だから分からなかったが、石の塊からノミとハンマーを使い彫刻を作るようにして出てきたそれは、何だったか、というと。


「雄々しく威嚇する姿勢の、トナカイ。……まぁ、間違いなく、未救出の住民の方ですね……」


 そうと気づいた時点でそのグループは、その氷の塊を大陸の方に引っ張っていこうとしたらしい。だがそれはレイドボスによる攻撃……後ろ足で蹴って来たらしい……によって中断。慌てて逃げたものの、半分ほど削り出せていたその氷は、再び海の下に沈められたとの事だ。もちろん、攻撃に使われた後ろ足に踏まれる形で、海面の下へ押し込まれて。

 さてここでレイドボスの名前をもう一度確認してみよう。――そう。「沈め捕える無温の氷晶」だ。


「本命は下でしたか。もっとも、上を自由にさせていては、下に対する動きが徹底的に妨害されるんでしょうけど」


 なので今は、「芯」として見えていた大きさを参考に、完全に削り出せれば乗せられる大きさの船を待機させつつ、別の氷の塊を削りだしているらしい。大陸の方も忙しいようだが、今はレイドボス戦の真っ最中だ。それくらいで妥当だろう。

 飛石状になっている氷の塊は、大小こそあるものの結構な数だ。これを全て削り出すのが早いか、レイドボス自身の内部を探索し尽くすのが早いか……微妙な所だな。

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