第841話 25枚目:レイドボス出現

 ワイアウ様を応援する意味でやっていたお供え物がポリアフ様の力にもなったのか、土曜日の昼頃にはタスク「住民の救出」のバーもほぼ100%になっていた。午後には元凶を殴りに行けるだろう、というのが司令部の判断だ。

 なので特級戦力わたしはいつもより早めにログアウトして、外部掲示板で様子を見ながらの参戦、という事になった。元凶の仕様によっては、単騎で突撃(エルルとサーニャはセットの前提)って可能性もあるからね。

 と言う訳で早めのお昼ご飯を食べて、そわそわと外部掲示板を数秒おきに更新しながら眺めながら待機する事、2時間弱。


「お。やっと情報が出はじ、め……」


 外部掲示板の流れが変わった事に気付き、すぐにその流れを追い始めたのだが。


「…………そうくる?」


 しばらく読み進めてみて、出てきたのはそんな呟きだった。いや、これは、うーん……。



 えーとまず、無事にタスクの達成値として表示されているバーは全て100%を達成したらしい。となると元凶こと流氷山脈に何かが起こる筈だと、司令部を始めほぼ全ての召喚者プレイヤーが東の海で火山の女神に攻撃されまくっている氷の塊に注目していたらしい。

 予想通りと言うか何と言うか、推定流氷山脈から流れ出てくる「何らかの塊」の数が減り、確認できる範囲では最後の1個を神殿に運び込んで、ワイアウ様の権能によって本来の姿に戻った所で、流氷山脈が不自然に揺れ始めたそうだ。

 流石に気配が変わった事を感じたのか、火山の女神も攻撃を一旦中止して様子を見ている感じの空気の中、揺れによって欠片を落とし、落とした欠片で海を凍らせて、主に体積を増やす方向で形を変えた流氷山脈。その形は……全体のバランスで言えば、犬か狼のようなものだったらしい。



 器用に氷の柱を飛石のように残した上に立った、ある意味巨大な氷像とも言えるその姿の変化が止まった所でシステムメールが届き、レイドボスの出現を告げたらしい。もちろん即座に【鑑定】が試され、分かった名前は「沈め捕える無温の氷晶」だとの事。

 システムメールによれば、今回のレイドボスは「強力な凍結能力」と「特殊能力」を持っているらしい。……凍結能力はそのまま再生力に使えるんだろうなぁ、と、大体の召喚者プレイヤーは思った事だろう。

 なお下に続く注意事項の部分に「凍て喰らう無尽の雪像」のものから、前略逃走します、の一文を除いたものと同じ文章があったとの事で、特殊能力を解除する方法をまず割り出す事にしたそうだ。


「沈め捕える……足元の飛石みたいな氷に叩きつけられるか、その間の海に落ちたらアウト、とかか?」


 この推測が正しい場合はまた近接攻撃職が泣きを見る事になるが、ともかく。司令部は検証に入ったらしく、暗号化された合図を含む非常に遠回しな書き方で特級戦力わたしの参戦が要請されていたので、ログインするとしようか。




[件名:イベントメール

本文:イベント条件が満たされたため、レイドボスが出現しました!

   このレイドボスは強力な凍結能力と特殊能力を持っています。

   プレイヤー全員で力を合わせて退治しましょう!


   ※レイドボスの再生力は環境によって変動します

   ※レイドボスの特殊能力をイベント期間内に解除出来なかった場合、特殊処理が発生します]


 ログインをすると視界の端に主張の激しいメールアイコンが点滅していたので、開いてみたら外部掲示板にもあったシステムメールだった。ログインしてなくても届くのか。今までは全部リアルタイムで受け取ってたからな。

 ログアウト場所は元竜都のお城の一室だったので、素直に扉から出て、一番高い塔の屋根まで移動する。そしてそこから東の海を見る、と。


「うーん実に分かりやすい。っていうか、でかいですね。分かってましたけど」


 グルルルル、と、めっちゃ威嚇している、巨大な氷でできた狼が海の上に立ってる訳だよね。透明さが斑になってるので、青みはそこまで感じない。

 その足元や上空で動いている小さな点は、検証を兼ねて攻撃している召喚者プレイヤー達だろう。こうやって見ると、氷の狼の大きさがよく分かるな。流氷山脈として見えていた分より大きいので、海の下に沈んでいた分も出てきたんだろうか。

 ざっくり現状を確認して、クランメンバー専用掲示板を開く。最新情報があるとするならここだし、指示があるとしてもここだからね。


「えーと。氷属性と水属性は回復、光属性は反射、土属性と闇属性は半減、火属性と雷属性が倍、他が等倍と。まぁ属性相性としては妥当な所ですね。……うわ、塊で削ったら海に落ちた分がモンスターを乗せた流氷になるんですか」


 どうやら攻撃に関してはそういう感じらしく、足場になっている飛石状の氷の柱に攻撃すると、その威力を問わず迎撃をしてくるらしい。しかもその迎撃方法が、海面に吠えて高波を起こすというものらしく、近づけなくなるのだそうだ。

 そこまで反応するなら何かありそうなものなのだが、もしかすると海に落ちるのがダメっていう可能性もあるかも知れない。……海に落ちたら手に負えなくなる、とかじゃないといいんだけど。

 どういう心境の変化なのか、火山の女神様も様子見のまま動いていないらしい。黒煙はもくもくと立ち上っているし、一番高い火山に目を向ければ、その火口の上に浮いている姿は見れるので、まだまだやる気ではあるようだが。


「ふむ。……飛石状の氷の柱を、引っこ抜いたりできれば何か分かりますかね?」


 とりあえず、しばらくは情報を集めるターンかな。別にあの巨大な氷像の狼に風穴開けてもいいんだけど。

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