第840話 25枚目:進捗加速

 異界の力によって形を変えられている間はインベントリに入れられる、というのは、冷人族の人達の魂が「氷晶の核」になっている間はインベントリに入った、という前例があるから、疑問は無い。

 問題があったとすれば、ワイアウ様によって「何らかの塊」の状態を脱したのが獣人族の人だった場合、渡鯨族の人達を助けた時に一緒に出てきた人と同じく、その場で大暴れするって事だろうか。

 まぁそちらはリリノエ様がフォローしてくれた……霧を司る女神様だから、半端な同調をぼやかして緩めたとかだろうか……し、その内に検証班の人達がファンタジー世界の麻酔を持ってきてくれたので、何とかなったんだけど。


「露樹族の方は、そもそもがデカいから、動くだけで神殿を壊しそうになるしな……」

「初動の抑え込みはともかく、護衛って何だっけ。運搬係?」

「言うな」


 まぁそんな感じなので、エルルとサーニャには大変助かっている。主に露樹族の人を広い場所に連れて行くって意味で。

 さてイベントとしての進捗だが、どうやら掲示板を見る限り、ようやくモンスターに対する火属性攻撃が解禁されたって言う事で、召喚者プレイヤー達の士気が上がりに上がっているらしい。

 その勢いを受けて、タスクの方も非常に順調に進んでいるようだ。イベントページへ移動して確認してみると、なるほど確かに、モンスター関係のタスクが全部9割を超えている。


「と言うか、それなりに残っているタスクは「動物の捕獲」と「住民の救出」ぐらいですね。そちらも順調に達成値が伸びていますし」

「動物の方はこの状態で進んでるのか?」

「進んでるみたいですよ? 環境が一気に変わったので、隠れていた場所から飛び出して右往左往しているのを捕まえているらしいです」

「……なるほど」


 流氷山脈への神による直接攻撃が叩き込まれているから、流氷に乗って攻め込んでくるモンスターの群れもかなり少なくなったみたいだしな。除雪が完了したから、じきにモンスターの出現もなくなるだろうし。

 そして「何らかの塊」の回収も順調らしい。東の海で漂流しているところをモンスターが攻撃したりはしないようなので、船で海の上を走り回って回収してくれているようだ。そして私が海岸線を移動して、回収された「何らかの塊」を受け取って神殿に運ぶと。

 8月ももうすぐ半分を超えるからな。未知のレイドボスが待っていることが分かっているし、そもそも「住民の救出」には時間がかかる事が分かっている。この調子のまま、詰めていこうか。




 途中で社会人召喚者プレイヤーのお盆休み期間が終わってしまったので、ちょっと攻略スピードは落ちた。が、元々住民と召喚者プレイヤーの活動時間の差がある分、司令部は住民主体で動きを考えていた筈だ。

 そのかいあってか、8月があと10日という金曜日の夜には「住民の救出」タスクも終わりが見えていた。他のタスクも順調に完了しつつあるので、明日にはタスクが全て完了するだろう。


「で、タスクが全部完了したら、元凶を殴る事が出来るようになる訳ですが……」


 せっせと「何らかの塊」をポリアフ様達の神殿に運びながら、東の海に浮かぶ流氷山脈に視線を向ける。……相変わらず、大陸南側からの火山弾でボコボコにされているんだよな。

 復活してからぶっ続けで休みなく苛烈な攻撃を続けている火山の女神だが、少なくともぱっと見には疲れ等の変化は見られない。「第一候補」からの連絡もないので、あれで問題ないようだ。

 そして今の所、あの流氷山脈=元凶であり、そのまま未知のレイドボスである、という推測が主流となっている。と、言う事は。


「あの火山弾を掻い潜って戦闘しなきゃいけないとか、それはそれで面倒ですね」


 っていう可能性が高いんじゃないかなって……。

 もちろん「第一候補」の説得の仕方や、「何らかの塊」になった住民の人達の救出状況によってはポリアフ様も動けるようになるだろうから、対策が出来ない訳ではないと思う。というか、出来ないと色々困るだろう。

 それに、未知のレイドボスの能力も未知数だから、なんかこう上手い事火山の女神の力と相殺する感じの何かがあるのかな……という可能性もあるのだが。


「で、お嬢はやっぱり最前線に行くつもりなのか?」

「行かずに済めばいいなーとは思いますが、必要なら行きますよ。環境的な意味でも、一番普段通りに長い時間動けるのは私でしょうし」


 実際どうなるかは分からないけどね。相手がどんな能力でどんな形をしているかもわからないんだし。

 ……だから、そんなにじっとりした視線を向けなくてもいいじゃないかエルル。司令部の人達の判断は大体常に妥当なんだから、出動が掛かったら、それ以外ではとりあえずどうにもならないって事なんだし。

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