第824話 24枚目:深部探索

 で、イベント2回目の土曜日、午前中。


「よし! 探索を進めますよ!」

「姫さんがやる気一杯だ!?」


 テストを乗り越え、気合と共にログインだ。受験対策とか言ってやたらと難易度の高い応用問題をちょいちょい挟み込んで来た数学への恨みをぶつけてやる……!

 とはいえ、現在私が居る【酷寒の凍檻・封】には基本的にモンスターが出てこないし、ダンジョン自体は破壊不可能なので、戦う機会は無いのだが。ちなみにイベントダンジョンはあと2つ見つかっていて、それぞれ末尾の文字が「冷」と「獄」だったそうだ。

 そしてその末尾の文字を難易度順に並べると、氷、雪、冷、凍、封、獄、となるらしい。……読める事は読めるが、意味があるかと言われると微妙だな。


「ようやく異なる理の影響を受けた野良試練も全てが見つかったようですからね。さくさく片付けていきましょう」

「確かに、ここは部屋の仕掛けにだけ気を付ければ、今の所危ない事は無いみたいだけどさぁ……」


 なお現在の攻略状況としては、最初に見つかった「氷」が最下層のボスを撃破してもダンジョンが消えず、現在追加調査中。「雪」から「凍」は最下層を攻略中(ボスを含む)。「封」が9層目、つまり中央の牢獄部分を探索中、「獄」がようやく仕掛けを看破した所、のようだ。

 「氷」でダンジョンが消えないというのが引っ掛かるものの、攻略としては順調だと言えるだろう。……最高難易度の「獄」以外は。だから他をさっさと片付けて、「獄」に召喚者プレイヤーを集中できるようにするべきなんだよな。

 例によってサーニャにごねられてしまったが、それでも素直にエルルとルミを呼んでくれたので、だいぶ慣れて来てくれたのだろう。いやぁ助かる。


「お嬢がやる気なのは、長く寝てた後ならいつもの事だが、もうだいぶ探索は終わってるんだろ?」

「ボスぐらいは居ると思うんですよね、ここまで壊せないもの尽くしだと。別の場所で、ボスを撃破しても野良試練が壊れない、という話を聞いていますから、それで解決するのかどうかは分かりませんが」

「……なるほど。この仕掛けを含めた全部の大元か」

「仮にも試練の形をしているなら、突破できるようにはなっている筈ですし」


 と言う訳で、真面目に鍵を集めて階層を進んでいく。カバーさんは司令部だ。まぁ既に探索済みの階層は、鍵を集める最短経路もすでに確定しているからね。ギミックのある小部屋は、部屋に入る前に声を掛け合えばいいし。

 既に分かっている道順をなぞるだけなのでさくさく進む。これは楽だな。今までは第一陣として手探りする最前線にいたから、道のりや手順は総当たりで見つける物だったし。

 どうやら流石に階層を移動するごとにバラバラにされるという事は無く、次の階層に進む部屋で集めた鍵……5㎝四方のパネルを作って掲げる形だ……を使って、次の階層に移動する。


「……幅はちゃんとありますけど、これ、落ちたらどうなるんですかね」

「召喚者がやってたぞ。来た方向のどこかにある仕掛けの部屋に、出られない状態で転送されるらしい」

「手すりが無いなと思ったらやっぱり厄介な仕掛けがありましたか」


 防壁の間にある階層間の移動経路、通常のダンジョンだと階段や魔法陣に当たる跳ね橋は、そういう事らしい。落ちたらマズいんだろうなとは思ったが、予想通りだな。

 しかも、この橋の上でとどまっていると強風が吹いて、跳ね橋から叩き落とされるらしい。きっちりしてるんだよなぁ。

 まぁ私達は特に調べる事も無いので次の階層に移動して、ここも既に分かっている最短経路を通って鍵を集め、次の階層へ移動だ。これを最深部まで繰り返すだけだな。楽だ。


「まぁ問題は、その一番奥に何があるか、まだ分かり切っていないって事なんですけど。だから調べに行くんですし」


 流石一番奥というべきか、あるいは牢獄本体と言うべきか、【酷寒の凍檻・封】の9層目は迷路の形が立体になっているらしい。それも層ごとに分かれているのではなく、上へ下へ行ったり来たりして進まないといけないんだそうだ。

 そんな構造だから、階段や梯子も通路の一部だし、その先にギミック付きの小部屋があったりするらしい。既に何件か、出合頭に人数が揃ってしまってギミックが発動する、という事故が発生しているという情報があった。

 当然ながら召喚者プレイヤーだけではなく住民もギミックの対象になるので、ステータスで制限がかかるギミックを引いたら、私とエルルとサーニャは特に大変な事になるだろう。何とか回避しないとな。

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