第804話 23枚目:最後の難敵

 で、夜のルーチンという日常を終わらせて、日付変更線ぎりぎりまでログインしていられるタイミングでログインだ。日曜日に入ってから妙なギミックが追加されてたからな。何かあると思っておいた方が良いだろう。

 しっかりと覚悟だけは決めて、ログインだ。


「さて、状況は……と」


 まず部屋から出て、氷の大地にある最奥の砦の屋上(というか屋根の上)へ上って、防衛陣地全体の状況を確認する。うん。迷路はもう元通り、どころか高さと幅が強化されてるぐらいだな。

 召喚者プレイヤーの人数も問題無いだろう。壁の上を忙しなく行きかっている影は多い。そして、その行きかう場所も防衛陣地の先の方だ。防衛状況も問題ないな。で、海の方は……ちょっと待て。


「なんですか、あの巨大極まる氷の塊は……」


 雲に届く、という程はいかないものの、もはやあれは氷でできた山だ。そんな事を思ってから慌てて大陸の方へ目を向けて見れば、大陸の方にも同程度の大きさの塊が流れて行っている。

 そのまま目を凝らして流氷山脈の方を見てみると、こちらは何と言うか、随分と小さくなったな……という感じだ。半分以下の大きさになっているんじゃないだろうか。

 もちろんそれでも十分大きいのだが、何と言うか、余剰の大半を放出した感じがするな? しかしなるほど。イベントの締めであり、最も召喚者プレイヤーの多いタイミングに持って来るだけはある。


「まぁ納得と同程度には加減しろと思う訳ですが。信頼されているのか丸投げされているのか、それとも意地になって退けなくなっているのか」


 イベントは特級戦力無しでクリアできるぐらいで丁度いい。それでなくてもゲテモノピエロっていう不穏分子がいて積極的に妨害してくるんだから、もうちょっと手加減してくれてもいいんじゃないのか?

 と、イベントの難易度に文句を言ってもどうしようもない。今回は目に見える物を殴って解決できるんだからまだマシだな。ゲテモノピエロ案件と違って。


「とは言え、デカいですね……」


 ざっくりそこまでを確認してからクランメンバー専用掲示板を確認すると、私も確認した現状の説明と、あの超巨大な流氷はそもそもの防御力が高い上に、削ってもじわじわ元の形に戻る、つまり回復能力があるらしい。

 エルルとサーニャは大陸南側に向かう流氷をメインに攻撃しながら、日曜日になってから増えた特性の事を考え、あと2つの流氷も傷がついた状態にし続けているようだ。流石に大きさもあるし、出ている分であれなら海の下にどれだけ沈んでるんだって話だから、削るのも限度があるっぽいな。

 なので万が一に備えて雪玉は大陸南側の防衛陣地に集中させ、大陸北側と氷の大地の防衛陣地は足止めをメインとした準備をしているようだ。


「まぁ、氷の大陸には私が居ますし、大陸北側は有力クランの召喚者プレイヤー達が固めていますからね。個人プレーならぬクランプレーの集まりですが、純粋なステータスだけで行っても人間やめた火力ぐらいは出せるようになっていた筈ですし」


 なお、最初の大陸に召喚者プレイヤーの手が取られているのは変わっていない。それでも絶対人数が増えたことと、やはり先月イベントの影響が大きいだろう。装備さえ揃えれば、スキルの鍛え方に関しては効率の良い方法が大体決まって来たからな。

 そしてある程度の基礎を作った所で、似たような相手ばかりを何百何千、下手したら何万も相手に戦い続ければ、いやがおうにも動きは最適化されていく。戦い続けるだけの根性さえあれば、レベリングとしては大変効率がいい状況だ。

 たぶんこのイベントの間に、大陸の南側から北側に移った召喚者プレイヤー、そして同じく、大陸の北側から氷の大地に移った召喚者プレイヤーは多いんじゃないだろうか。種族レベルやスキルレベルを急激に上げたことで、配置換えをお願いされて。


「似たような相手ばかりとは言え、これだけ敵が居ればいい加減プレイヤースキルも上がるでしょうしね。そもそも防衛陣地以外は相変わらず不意打ち地獄ですし、この大陸」


 そうやって、ある意味戦力の補充が行われているから、流氷山脈に一部の召喚者プレイヤーが張り付き続ける事が出来てるって事なんだけど。うん。今も妨害と言うか削り行動は続けてるらしいんだ。……減った気がしないのは、まぁ、仕方ない。

 さて。それじゃいよいよあの超巨大な流氷が流れ着くまでは生産作業をしておくとしよう。元『本の虫』組の人達がしっかりと噛んだ司令部だから、最後の詰めをしくじるって事もないだろうし。相当な予定外が無ければ。

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