第803話 23枚目:あと一息

 その後、足の甲を砕き、足首を砕き、脛を砕いたところで氷がきしむような音を響かせて膝をついた氷の巨人。もちろんそのついた膝もすぐに砕いたし、太ももも砕くとその場で前向きに倒れた。そのせいで最後の砦に結構なダメージが入ってしまったが、完全に進むのは止まったので良しとしてほしい。

 どうやら身体のパーツが大きい程砕くのに必要な火力が大きくなるらしく、もう片方の足に攻撃を叩き込んでいる召喚者プレイヤーは脛で苦戦しているようだ。まぁ皹は入っていってるから、時間の問題だろうけど。


「しかし、だるま落しですかね。……そう言えば、私がログインする起きる前はどうやっていたんでしょうか」


 どうやら腰は両足が砕けなければ攻撃が通らないらしく、装備を全身白モフに戻して改めてクランメンバー専用掲示板を確認する。

 さかのぼって確認した所、どうやら今ここで倒れている氷の巨人が0時ちょうどに流氷山脈から剥がれて流れてきた巨大な流氷だったらしい。流氷の間は普通に削れた上、流れ着いてモンスターになっても傷の周辺はダメージが通ったそうなので、大陸の北側と南側は順調に削りきる事が出来たのだそうだ。

 ところが無傷で辿り着かれてしまった氷の巨人は、雪玉爆撃すら効かない。どういうことだとかなり攻撃が叩き込まれたが、それでも一向に攻撃が通った様子が無いとの事だった。そうこうしている間に次の巨大な流氷が流れ着きそうになったので、今エルルとサーニャはそちらの相手を、主に時間稼ぎという意味でしているそうだ。


「で、この氷の巨人も足止めをメインにしてなんとか防いでいたものの、その足止めも限界だったところで私がログインして起きてきた、という事ですか……。結構ギリギリでしたね」


 なるほど、と事態を把握した所でクランメンバー専用掲示板に新たな書き込み。うん? 氷の大地の防衛ラインを急ぎ立て直す為、氷の巨人を討伐してください、と。私宛か。

 まぁ確かに、侵攻が止まったとはいえいつまでも手を取られている訳にはいかないな。一直線に壁が壊れてしまっているし、通常のモンスターの群れは今も襲い掛かって来てるんだから。

 折角迷路を作ったのに、直線の大穴が開いていては意味がない。同様の連絡が他の召喚者プレイヤーにも届いたのか、わらわらと氷の巨人の周りから人が居なくなっていった。


「しかし、ゴーレム的な氷の塊という足なのに、何で小指にだけ攻撃が通ったんですかね?」


 確かに棚の角とかに不意打ちでぶつけるとしばらく動けなくなる程に痛いけどさ。さっきまでその足で結構分厚い氷の壁を蹴破ってたじゃないか。小指へのピンポイント攻撃は別なのかな。




 そこから、午前6時に剥がれて流れてきた巨大な流氷から変じた巨大なモンスター(巨人)も殴ってみたが、どうやら手の小指からでも破壊する事は可能なようだ。身体の端から削れって事か?

 ただ手の指からの場合は指が3ヵ所に分かれているらしく、侵攻が止まる事も無いので、どうせ叩くなら動きが止まる足からという事になったらしい。まぁ片足の膝までを壊せば進まなくなるから、こっちが優先か。

 なお残った腕に邪魔されるものの、胴体を砕く、というか、胴体部分に設定してある耐久度もしくは体力を削り切ったら撃破扱いになるようだ。残った氷の塊はと言うと、そのまま防衛陣地の再構築材料として流用されている。


「ギミックを仕込むのはともかく、もうちょっとヒントをよこせって言うんですよ運営。ノーヒントでそんなピンポイント攻撃が必要とか分かる訳が無いでしょうが」


 とりあえず氷の巨人を撃破する事が出来たので、「築城の小槌」で防衛陣地の再構築を手伝い、迷路の入り口辺りに直接攻撃反射魔法を掛ける事で時間稼ぎに貢献して、再びお札の生産作業だ。

 どうやらギミックこそあったものの、一番危なかった氷の大地は私の参戦が間に合い、そのまま攻略法も分かったので何とか撃退できたらしい。私がたまたま見つけた方法は他の場所でも共通だったようだ。

 ちなみに流氷山脈だが、まず平地部分に大きなひび割れを刻み、その上に壁魔法を張って降って来る氷の欠片を防ぎ、氷でできた棒などで氷の欠片を海に転がし落とす事で削り方に加速をかけているようだ。


「なるほど。平地を広げなければあの揺れは来ませんからね。その場にとどまり続ける事さえ出来れば、それが一番効率がいいと」


 現在は日曜日の午前中だからな。順当に行くなら巨大な流氷は残り2つ。つまりあと一息だ。

 ……その最後が、絶対に厄介極まる事が分かっているだけで。

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