第805話 23枚目:イベント大詰め

 変身シーンがある作品において、敵も味方も問わず、変身中は攻撃をしてはいけないという不文律がある。そういう「お約束」を大事にするフリアドでは、当然ながら超巨大な流氷がモンスターに変わる間に手を出すと大変痛い目を見る仕様となっていた。

 具体的には超防御力状態になってダメージが全く通らない上に、叩き込んだ攻撃に「必凍状態」が上乗せされたカウンターを食らう。雪玉が結構な数投げつけられていたのに解除が間に合わなかったからな。どんな深度になっていたのか。

 まぁそれはここまでに流れてきた巨大な流氷どころか普通の流氷と同じだったので問題無かったのだが、変身シーンと言えばもう1つ「お約束」がある。……どちらかと言えば、こちらは敵ボスなんかの形態変化なのだが。確かに表現するならこれも敵ボスの形態変化だけども。


「流氷からモンスターに変わったら全回復するとか、さっきの奴まではやってなかったじゃないですかっっ!!」


 なお正確に言えば、全回復するというか、ダメージのきっかけになるダメージ痕が無くなるという事なので、大きさ自体は小さくなっている。道中の削りダメージが無意味にならなかったのは良かったな。

 とは言え攻撃を末端に集中させなければ攻撃できる範囲が広がらないという事で、私も氷の大地に来た奴に対して物理で殴っている。しかしこいつ、前までの奴と違って両足を砕いても這って進もうとするのだ。お陰で周囲の被害が甚大である。

 流石にこのサイズの太ももや腰ともなると、私の火力でも一撃とはいかない。もしかしたら身体の一部を砕いた事で残ってる場所の防御力が上がっていたりするのかもしれないけど。


「そして腰まで砕いたのに胴体に攻撃が通らない。……まさかあの派手に動いている手の先からやり直しですか!?」


 だから! どうしてここまで最後の最後にギミックを詰め込むんだ!? と思いながら、壁を叩き壊した直後を狙って小指の先を蹴り飛ばす。人間でいう第一関節の部分が綺麗に砕けたからまず確定だな!!

 とりあえず足だけではなく手も砕かなければ胴体にダメージが通らないっていう推測はその場でカバーさんに手早くメールしておく。他の召喚者プレイヤーからも司令部に連絡が行ってるだろうけど。

 サイズがサイズだから捕縛して動きを止めるのも難しいので、動きの止まる一瞬を狙ってちまちま削っていくしかない。まぁ私だから一撃で壊せるんであって、他の召喚者プレイヤーだと更に難易度が上がるだろう。


「ん? おいちょっと待て、こいつ胴体伸びてないか!?」

「そんな訳が、うっわマジだ!?」

「胴体が伸びるって言うか、腰が再生してる感じじゃないか……?」

「うっそだろ、部位破壊が再生すんのは反則だぞ運営!!」

「いやだがここはちぃ姫がいるからいいとして、他がヤバくないか!?」

「ヤベぇな。おい、司令部に連絡と警告だ!」


 ……それ以上に、これはさっさと氷の大地に来たこいつを片付けて、他の場所に応援に行けるようにしておかないとまずいか。エルルとサーニャでもちょっと火力が足りないかも知れない。

 あの2人、今までの人間種族が弱すぎたからそうは思えなかったが、【成体】だからな。サーニャからカバーさんが搦手込みで聞きだしてくれたところによると、竜族の一人前認定は【成熟体】からだそうだ。

 つまり、本当に大人の古代竜族からすれば、あの2人も前線には出させない、どっちかというと守る対象らしい。……エルルの特殊さが更に際立つな。普通なら見習い騎士相当の年若い青年が大隊長やってるとかどうなってるの?


「それに、特にエルルは色々特殊とは言え、職業軍人っていうのは集団で動く時の練度こそが本来の強みですしね……。私が竜族の中でもひときわ特殊なのも、とっくに聞いています、し!」


 ゴッ! と気合と共に回し蹴りを叩き込み、氷の巨人の二の腕を砕き壊す。胴体は……ダメージが通った感じが無いな。両腕を砕かないとダメか。いや、肩が残ってる判定になってるのか?

 念の為一度距離を取った所から、腕の付け根だった場所へ飛び込んで踵落しを叩き込む。砕けた、って事はやっぱり肩は別判定か。あぁもう、長方形を繋げただけの様な見た目の癖に判定が細かい!


「そして胴体へのダメージチェックは通った様子無し、と言う事は、両手両足全部落とさないと胴体には一切ダメージが通らない、で当たりですね。全く嫌な予感だけは相変わらずよく当たります。面倒な!」

「いやこれが面倒で済むのはちぃ姫だけだし」

「クリアさせる気がない件。それがバキバキ砕かれて運営泣いてるんじゃね?」

「体力と防御力がある奴に実質の体力盾と回復力を持たせる運営が悪い」

「まぁそりゃそうだな。やり過ぎに一票」

「同じく。同情の余地なし」

「後でクラメン巻き込んで皆で苦情送ろうぜ」

「それのった」

「司令部に、目につきやすい文章の作り方教えて貰うか」

「いいね」


 ちなみにそんな会話を交わしている間も、順調にダメージは蓄積しているので問題はない。ほとんどが第一陣であり、混ざっているとしても第二陣の廃人かガチの召喚者プレイヤーなので、練度がほとんど変わらないし。

 ……けど、確かその辺に関しては、前に元『本の虫』メンバーが割と本気で苦情もとい要望申し入れしてた筈なんだけどな。

 え? もしかして、それを踏まえた難易度の調節してこれなの?

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