第798話 23枚目:雪雲の影響

 と言う訳で、水曜日、木曜日と流氷山脈を削り続け、金曜日だ。ここまでくると最初の大陸の方も多少は落ち着いてきたのか、それともそれどころじゃないと放り出してきたのか、北国の大陸に召喚者プレイヤーが戻って来ていた。

 流氷に乗ってやってくるモンスターの群れは、その源である流氷山脈で活動している召喚者プレイヤーの数に反比例して減っていく事が分かっている。まぁそうだろうな、流氷山脈の防衛の方が圧倒的に優先だろう。

 一応防衛陣地で流氷に乗ったモンスターの群れの撃退もしているし、防衛陣地の増築も行われてはいるが、メインとなっているのは流氷山脈の方だ。


「ま、納得以外の何でもありませんけど」


 私は相変わらず氷を作って雪雲を削る係だ。とは言え、流氷山脈に攻め込んでいる召喚者プレイヤーがこれでもかと言う数のモンスターを倒し続けているので、削れている実感はないけど。増えないだけ削れているんだろうか。

 氷の大きさを加減しなきゃいけないって言うのが地味に面倒くさい。もうちょっと大きくていいんなら水の槍が使えるんだけど。あれなら一度でたくさん撃てる魔法があるし。

 ちなみに雪雲を削っているのは私だけではない。十分に加減した、というか、錬金釜に放り込んで威力を落とした水属性のお札を渡して、主に『魔女の箒』の人達も参加している。


「この寒い環境で、雲の上まで上がって活動できるっていうのが、存外条件が厳しいみたいなんですよね」


 まぁ最初の大陸でも結構な寒さだった筈だから、少し考えれば当たり前の事なんだけど。私はそもそも各種耐性が高い上にしっかり防寒着を着た上で精霊さんの守りを重ねているから、とりあえず平気なだけで。

 時々猛禽系の足に掴まって(捕まえられて?)雲の上に上がって来る召喚者プレイヤーの姿も見えているから、もしかしたらしっかり育成された霊獣なんかも参加してるのかもしれない。うちに居る子はまだまだ丸々ころころしてるんだけど。それとも、動物から魔物に進化した系統だろうか。

 しかし雪雲が減らないな。というか、流氷山脈に参加する召喚者プレイヤーが増えるにつれて更に増えてないか? モンスターの討伐数が増えてるんだろうから、妥当っちゃ妥当なんだけど。


「気のせいか、この雪雲にもギミックがありそうな気がするんですよね……何と言われると困るんですが」


 少しずつ落下点を竜都から離れるようにして水属性の魔法を連打する。地上では横一列に結構大きい氷の塊が降ってきていることになるが、やっぱり雪雲が減らないんだよな。むしろ増えてる。

 この雪雲はモンスターを倒したことによるペナルティ的なギミックであり、つまりは敵の仕掛けだ。当然ながら降って来る雪はポリアフ様のものではなく、増えるだけで間違いなくこちらの邪魔となる。

 流氷山脈も「凍て喰らう無尽の雪像」も、ついでにいえば氷の大地に向かう時の除雪も、大体の場合は「何かが一定のラインを越えたら」変化があった。だからこの雪雲も、一定以上に増えると何かが起こる可能性は高い、と、思うんだが……。


「ん?」


 なんて思いながら水属性の魔法を連打していると、前髪が上向きに引っ張られる感覚があった。今私の頭の上には、氷の精霊さんと風の精霊さんがいる筈だ。どうやら何かを見つけたようだが、何も前髪を引っ張らなくても。

 どうやら右側の前髪が引っ張られているようなので、右側に視線を移す。北国の大陸南側が見える筈だが、今はすっかり一面の灰色……分厚い雪雲に覆われて、地上の様子は見えない。

 少なくともログインして情報を確認し、すぐ雪雲の上に上がった時点ではまだ多少は地上が見えていた。だから、まぁ、増えているんだよなぁ……。と、思いながら移した視界の中に、一瞬の違和感。


「――[マジックウォール]!」


 咄嗟にそちらへ手を向け、迎撃ではなく防御の為の魔法を展開する。私のステータスは日々上がっているので、当然ながら魔法の威力……防御魔法の頑丈さも上がっている。それこそ、何と戦争をする気だ、という程度に。

 自分が10人居ても隠れられるだけの大きな壁を空中に展開した、次の瞬間。


「っ――な、あ!?」


 強烈な閃光と轟音。そして、私が一瞬にしては全力の防御を大きく揺るがすほどの衝撃。辛うじて貫かれはしなかったようだが、それでも魔力的に魔法の壁を支えている手が痺れるかと思ったぞ!

 だが。再生力が高いという事は、閃光で眩んだ視界が元に戻るのも早いって事だ。そして即座に戻った視界は、先ほどと同じ一瞬の違和感……雪雲の中で、バチリ、と音を立てて光る現象をとらえた。それも複数。


「[――それは雫であれど深き海

 渦巻き呑み込み、沈めて封ぜよ

 水面の底の底にて、ただ眠れ――ディープシー・ドロップ]!」


 流石に複数で同時に来られれば防ぎきれない、と判断して、大迷惑なのは承知の上で超高圧の水の塊を、大陸北側にぶん投げた。たぶん上手くいけば特大のクレーターの中に落ちる筈だ。

 ドパンッッ!!! と圧縮されていた水が解放され、元の体積に戻る音がはるか後方で聞こえる。その後すぐに足元の雪雲が動き始めたから、ごっそりと雪雲を減らす事には成功した筈だ。

 ……そしてその対処は間違っていなかったのか、分厚い雪雲の中を走っていた光は、そのまま消えていった。危ない。精霊さんが教えてくれて良かった。


『ちぃ姫さん、上空で何か異常がありましたか?』

『ありました。私で防御が苦しい程度の敵性火力が発生しまして……。それでも、すみません。被害はどれくらいでしたか?』

『いえ。クレーターのほぼ中央に落下した事と、流石に大きさが大きさだけに即座に全員が退避したことで、被害らしい被害は出ていません』

『それは良かった』


 そして即座に原因を私だと特定してウィスパーを飛ばしてきたカバーさんに確認を取り、ほっと息を吐く。良かった。本当に被害が出なくて良かった。いやまぁ、土日に出てきたような巨大な氷の塊が突然降ってきたら、それはそれで怖かっただろうけど。

 後ろを振り返ると、雪雲が流れ込んでいく動きは止まっていないのに、ぽっかりと大きな穴が開いているのが見えた。うーん、我ながら派手にいったな。


『……恐らくトリガーは、大陸全域が雪雲で覆われる事ですかね。こっちを狙って来る天然の雷が発生するとか、怖すぎるでしょう』

『特定の相手を狙うという時点で天然かどうかは微妙ですが、そうですね。かといって、モンスターを倒す手を緩める訳にも行きませんが』

『そうなんですよね』


 いやー、何処を見てもギミックたっぷりで素晴らしい緊張感のイベントだな。

 ……やり過ぎだよ、大神運営!!

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