第797話 23枚目:流氷攻略

 そこから私のログイン制限限界まで色々試してみた所、平地が無くなってから周りの環境に反映されるまでの猶予時間はおよそ10分。その間に平地を増やせば緩和する事は可能なようだ。

 ただし流氷山脈が揺れている間に手出しをすると、どんな手段でどこを狙っても確定で跳ね返される。しかもかなり深度のある「必凍状態」のおまけつきだ。槍で受けたサーニャが腕だけとは言え凍らされるとか、手を出すな以外の何物でもないだろう。

 そして、揺れを流氷山脈に残って耐えるより、一度流れ出していく流氷に移り、モンスター達を蹴散らしつつ流氷を飛び移って戻る方がはるかに簡単で確実、という事が分かった。戦闘力については、そもそも流氷山脈に挑んでいる時点で第一陣の中でも廃人の召喚者プレイヤーが選ばれている。


「まぁ流石に新人召喚者プレイヤーの人達を向かわせる訳にはいきませんからね。環境としては、それこそ氷の大地より厳しいんですし」


 で、私がログアウトしてからの検証によれば、どうやらあの流氷山脈が揺れるのは、平地部分が一定以上になってから、一定時間が経過したら発動するようだ。ただし平地部分が大きくなるにつれてその「一定時間」は減っていくので、限界はあるようだが。

 それでもちまちまと削るより、一気に大火力を叩き込んだ方が一気に流氷山脈そのものは削れる。それに加えて、無属性ならば斬撃属性攻撃でかなり深く平地部分を抉れるようだ。もちろん抉った分だけ流氷山脈の上部は削れていく。

 そして現在の最高効率は、打撃属性の攻撃を叩き込んだところに、斬撃属性の攻撃を重ねる事らしい。一気にひび割れの深さと幅が増すんだってさ。


「しかも一定以上の火力を叩き込んだ場合、平地部分が流氷となって流れ出していく、と。……なるほど、あの強制追い出しの揺れを抑える事が出来る訳ですね?」


 そういう事らしい。相手の大きさが大きさなのでなかなか削れている感は無いようだが、斬撃属性の前衛職召喚者プレイヤーが、狂気、もとい、狂喜状態で流氷山脈に向かったらしい。……まぁ、色々と不憫な立ち位置だったからなぁ。レイド戦とかで。普通は主人公格なのに。

 ここで削っておけば最後の土日も多少はマシになるかもしれない、と言う事で、司令部もだいぶ気合を入れて支援しているようだ。まぁそうもなるか。大ボスを事前に削る手段があるのなら、そこで削っておかないと最悪クリア出来なくなるし。

 ちなみに私は相変わらず雪雲を削っている。だが場所は海の上ではなく、推定雪雲の中央、竜都のやや東側の辺りで、水属性魔法を使って結構大きな氷の塊を降らせ続けていた。


「まさか、氷を質量兵器に変えてしまうとは。魔法って不思議ですねぇ……」


 うん。そうなんだ。……なんかこう、そもそも寒い環境で、なおかつ温度を思いっきり下げつつ、とんでもない圧力をかけると、とんでもなく重い氷になるんだって。

 それに雪玉は生産力に限界がある上、出来れば温存しておきたい。更に言えば流氷山脈でうっかり凍り付いた召喚者プレイヤーの救助にも使うからね。戦略物資なのだ。

 それに質量兵器に変える場合は、バラバラの氷をくっつけるより、最初から大きな氷である方が良いんだってさ。流石に大きさは加減してるけど、大きめの子供用プールぐらいの氷が、直径30㎝ぐらいの球体になるらしい。


「重量を考えるのが怖いんですよねぇ……」


 なお、そんな物を作って誰がどう使うんだと言えば、エルルとサーニャが運んで流氷山脈の平地部分に落とし、そこに流氷山脈に乗り込んだ召喚者プレイヤーが周囲から斬撃属性の攻撃を叩き込む事だ。

 もちろん多少は衝撃波による周辺被害が出る。出るが、それだけの位置エネルギーを運動エネルギーに変えたパワーは凄まじいものがある。何せうまく攻撃が繋がれば、1発で流氷山脈から平地を切り取る事が出来るのだから。

 当然そこまでに、揺れが発生しない程度に平地部分を広げておく必要はある。モンスターの群れを撃退する必要もあるので、そこまで見事に攻撃を繋げるのはかなり難しい。が。


「本当に。削れる時に削れるだけ削れるのは、大事ですよね」


 ……最初の大陸で、まさにそれと同じことをされて大変困っているのだが。私達も私達の敵に実行する程度には、戦略的に何一つ間違ってないんだよな。

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