第784話 23枚目:解析難航

 念の為、と思ってカバーさんに確認してみると、どうやら私の推測は大当たりだったようだ。すなわち、あの見た目は氷の、実体は爆弾のブロックは、フリアド世界特有の液体火薬を凍らせたものだった、という事らしい。

 ついでに聞いたところ、あの雪玉に似せた白いボールはアイテム名を「起爆癇癪玉」と言い、雷管の様な性質を持っていたらしい。具体的に言うと、アレが爆発する事で特殊な音が発生し、それで凍らせた液体火薬が爆発するようだ。

 音ってなんだ、と思った訳だが、カバーさんによれば、恐らく液体火薬と癇癪玉の両方に共鳴石が使われているのではないか、と言う事だった。てことは、外部からでは真似できないな。


『とは言え、一定以上の火力や衝撃を与えると爆発する事には変わりがないようです。また一部が溶けて液体に戻ると、その部分はとても不安定な状態になり、ちょっとした事で爆発するようです』

『で、液体に戻った部分が爆発すると、まだ凍っている部分も連鎖的に爆発を起こす、と……』

『そうですね。現在は全ての氷のブロック及び液体として保管してある物への混入が無いかを確認中です』


 うん、大変な事になっているな。こうやって労力を使わせるのも目的の1つなんだろうけども。

 ただこういう被害が出たことで副産物的に分かった事があり、どうやら流氷ことモンスターの群れは、ちゃんとした砦がある場所を狙ってやってくる傾向にあるらしい。

 というのも、北国の大陸北側には巨大なクレーターが穿たれ、そのクレーターの縁に沿う形で、比較的内陸部に防衛陣地が構築されている。つまり沿岸部は最初と違ってガラ空きだ。もちろん罠は仕掛けているが、爆発が起こる前と比べて明らかにやって来るモンスターの数が減っているとの事。


『よって現在、そのことを踏まえた戦略の練り直しを行っています。砦ではなく人工的な建造物を標的にしている、という可能性も十分ありますので、その辺りの検証も並行して行っています』


 うーん、検証班が実に働いている。……というか、この新しく来たスタミナポーションの作成依頼は、そっちで使うための物資なのか? まぁ作るけどさ。




 その後も散発的に拠点爆破未遂……防衛陣地だけではなく、主に大陸南側にある集落でも液体火薬の氷ブロックが見つかったらしい……が起こったものの、どうにか日曜日午前中は無事にしのぎ切ったと言えるだろう。

 ただし問題はここからだ。流石に(内部時間では6日が経過しているので)エルルとサーニャも疲れが溜まって来てるだろうし、そろそろ巨大な流氷の事前撃破も限界の筈だ。何せあの爆発騒ぎがあったとはいえ、私が作った本気支援バフのお札を使ってるっぽかったから。

 となると、私が直接前に出て殴る必要が出てくるまで秒読み、だと思うんだけど……その前に一仕事あるようだ。


「え、この状況で私が戦線離脱ですか? 大丈夫なんですかそれ?」

「正直に言えば大丈夫ではありませんが、おそらくちぃ姫さんが最もスムーズに話を持って行けると思いまして」


 何の事かって言うと、液体火薬の氷ブロックを持って帰り、私の島に居る研究所の人達に解析をお願いしてきてほしいって事らしい。ちょっと司令部では情報が引き出しきれなかったようだ。

 もちろんただ持って帰るだけならうちの子だけではなく、話を持ってきた当人であるカバーさんだって何も問題は無い。だって、ボックス様の神殿への転移許可は出してるんだから。

 その上で、私が一番スムーズに話を持って行けるって言うのは、私があの研究施設の代表者みたいなことをしているっていう事と……多分、ルールにも相談する為だろう。まぁ、確かにね?


「問題は、戻るのは良いんですが、こちらに再び来るのに時間がかかるって事なのですが」

「こちらから大神官さんへ連絡を入れて、“雪衣の冷山にして白雪”の神の神殿に転移できるように手配しておきます」

「……これ、そんなに厄介な代物だったんですか?」

「厄介でもありますし、早急に特性を炙り出さないと警戒の仕方も分かりませんので……」


 二重の意味で1秒でも早く解析しきらないとヤバいらしい。本当に面倒な事をしてくれるな、あのゲテモノピエロ。どうせここまで計算づくだろうし。確かに、飲料水の樽とかに放り込まれたら最悪だし、それを警戒しなきゃいけないって言う現状が既にかなり悪いんだけど。

 凍っている状態ならかなり安定しているらしい液体火薬の氷ブロックを、10㎝四方ほどに割り砕いたものを10個ほど受け取る。同じく「起爆癇癪玉」もいくつか受け取った。

 ……そうか。私は神の祝福ギフト付きの【格納】が働いているインベントリだから、持ち運ぶだけなら私が一番確実で安全なのか。そういう理由もあるっぽいな。


「まぁ、そういう事なら急いで行って依頼して来ます。何かあったらすぐ戻りますので、絶対に連絡をください」

「分かりました。何も連絡する事が無いように微力を尽くしておきます」


 とは言え、今回のログインの間に戻って来れなければ、甚大な被害が出る事は免れないだろう。

 今も遠くに見える巨大な流氷は、今日の午前中にエルルとサーニャが何とか砕いたものより、更に大きいのだから。

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