第775話 23枚目:重なる波

 氷の大地に設置……建造? された防衛陣地は、要所が砦になっている、基本的には氷で出来た壁による巨人用の迷路だ。高さも幅も、5mは越えている。まさしくリアルサイズ戦争用だ。戦争や装甲車はないが、似たようなサイズの馬車(?)や生き物はいるし。【人化】を解いたエルルやサーニャとか。

 その砦を内側から外側に、順番に移動していきながら雪玉を配っていって、そして最前線……の1個手前の砦の屋上から、積もった雪を蹴り落としつつ、迷路を十全に使って行われている、派手な防衛戦の様子を見る。


「あー、なるほど。複数の流氷が続けざまに来るという事は、最後にくっついてくるデカブツが小さいやつの群れに混ざって来るって事ですからね。小さいのの盾にデカブツがなり、デカブツへの攻撃を小さいのが庇って、総合的な耐久度が跳ね上がってる、と」


 そして耐久度が跳ね上がった状態だと削り切れず、要となる部分に数が通ってしまうから、捌き切れなくて押し込まれるんだな。なるほど、ちょっと桁が上の火力が必要になる筈だ。

 頑張って(「第四候補」が)作ったとはいえ、あの柵や大砲も数は無い。そして、それら便利な高火力は、主に大陸の南側に回されていた。そりゃそうだ。便利なものは不安な場所のフォローに回すべきだろう。

 まぁそれが裏目に出て、氷の大地の防衛ラインが押し込まれてるんだけど。……いや、氷の大地に集まる召喚者プレイヤーだからここまで耐えられているとも言えるか。


「ともあれ、どこかで一度流れを切って立て直さないと、このままずるずる押し込まれてしまいますからね。戦っている最前線だと巻き込みが怖いので、もうちょっと先に行った場所で大規模捕縛魔法を撃ち込みますか」


 追加され続けるモンスターの供給が一時的にでも止まれば、残っている分を駆逐して立て直すのは問題無く可能な筈だ。私が倒し切ってしまう必要はないんだから、しばらく捕縛魔法で動きを止めて、迷路の途中でつっかえさせておけば立て直せるだろう。

 で、その立て直しを待っている間に、ちまちまと雑草をむしる感覚でモンスターの群れを削ればいい。どっちも風属性を使えば周囲への影響は少ないだろうか。水にしろ氷にしろ減衰なしで通る割に細かく狙えるし。

 風属性は出が早く見え辛く制御は比較的簡単と優秀な属性なのだが、その分だけ威力が低いという特徴がある。が、まぁ、私はステータスの暴力なので。


「むしろ威力が低い特徴があるから気軽に撃てる、という面までありますからね」


 と言う事で、他の召喚者プレイヤーの位置を見ながら通路の直線部分へ移動し、ぞろぞろと結構な密度でそこを通っていくモンスターの群れに、割と全力の風属性捕縛魔法を叩き込む。

 よし、小さいのの群れはほぼ通路一杯の幅で捕まえられたな。すぐデカブツがフォローに入ろうとするが、残念ながら狙い撃ちの対象だ。ゴーレムっぽいが、頭を吹っ飛ばして胴体に風穴を開けたら流石に耐えきれなかったらしい。

 そしてゴーレムがその場に崩れて、バリケードみたいになりつつ結構な数の小さいのを押し潰した。いい感じだ。


「とは言え、あまり塞ぎすぎると防衛陣地として迷路を作った意味が無くなりますからね。それなりに距離を空けないと、残骸を集めて壁を乗り越える足場にされたりするかもしれませんし」


 実際そこまでの頭があるかどうかは分からないが、無いと思ってやられるのは最悪だ。一応警戒だけはしておこう。手間としては、私が足止めをするたびに移動する事ぐらいなんだし。

 しばらく観察してみたが、残骸を動かしたり攻撃したりする様子はなく、黙々と乗り越えて通路を進んでいくようだったので、更に大きくなったモンスターの集団へもう一度捕縛魔法を撃ちこんでおく。これでちょっとは前の集団と距離が出来ただろうか。

 そのついでに防衛陣地の外、海の方向に目を向ける。次々と休む間もなく流氷が来ているのはモンスターの数で分かっているが、実はまだ「流氷に乗ってやってくるモンスターの群れ」の実物は見てなかったんだよね。


「うわ、思ってたのの倍は乗ってますね。通勤ラッシュ時の電車でしょうか」


 というか、そもそもの流氷の大きさも思ったより大きいな。あの、あれ。プールに浮かべて複数人で遊べる浮島みたいな…………フロートだったかな? あれぐらいはある。そして、その上に文字通りみっしりとモンスターが乗っているのだ。良く沈んだり落ちたりしないな。

 ……と思っている目の前で、1つの流氷に何かの攻撃が当たって大きく揺れた。その勢いでその流氷に乗っていたモンスターの群れが海に滑り落ちて半分ぐらいになる。流石に海に落ちたらそこからは上がってこないだろうから、安定性に難ありのようだ。


「で、その一番奥にある、あの一際デカいのが流氷山脈の一部ですか……」


 ただ、その数が数だから、ちょいちょいと推定船からの削り攻撃が入っていても全体の数は減ったように思えない。そして何より、明らかな大ボスが待ち構えているのが目に見えている。

 というか……流石にあの大きさだと、迷路が迷路にならないんじゃないかな。普通に壁扱いで、真っすぐ突破して来そう。それぐらいのサイズ感だ。


「これでレイドボスじゃないどころか、下手したら量産型の中ボスとか。手札が豊富で羨ましい事です」


 とりあえずは目の前の事からだな。もうちょっと海側に行ったところでもう一回モンスターの群れの流れをせき止めてこよう。

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