第774話 23枚目:変化投入

 流石に運営も難易度を上げ過ぎた自覚が出てきたのか、それとも最初から全力も全力で対策していたからか、金曜日まではある意味大変平和に、順調に迎撃を行えていた。

 とは言え、一般召喚者プレイヤーだけではなく、ベテラン召喚者プレイヤーもそこそこ手応えを感じていたようなので、難易度が下がり過ぎているという事は無いようだ。あくまで、特級戦力がいないとどうにもならない、という訳ではない、って事だ。

 イベントの難易度としてはこれで大正解なんだけどなぁ。と思いながら、土曜日の午前中のログイン。


「……何か来るだろうなとは思ってましたけども」


 そして、ログインして起きてさえいれば絶対に気付く程の、重いものが叩きつけられるような大きな音に、早々に溜息を飲み込むことになった。

 うん。外部掲示板でも騒ぎになってたんだよ。主にこれからログインする新人召喚者プレイヤー向けの警告というか、心構えとして。土曜日の日付変更線直後からの内部の現状が、ざっくりと書き込んであったから。

 それによると、だな。



 流氷山脈を構成している、超巨大な氷の塊。

 その、遠目からでも明らかに分かるぐらいの「一部」が剥がれて、流れて来たんだって。



 もちろんそれに合わせて今の今までが「溜め」だったんじゃないかと思うような数のモンスターが一気に襲撃を開始、どうにか第二陣以前の召喚者プレイヤーが前に立ち、それ以降の召喚者プレイヤーに後方支援へ専念してもらう事で凌いでいるらしい。

 だから新人召喚者プレイヤーは、ログインすると死ぬほど忙しい事と、正面に立って戦えなくてもあんまり文句を言わないで欲しいというお願いが書き込んであったんだよ。フリアドはゲームだが、個人がそれぞれの楽しい気持ちにちょっとセーブをかけて協力しないとどうにもならない場面っていうのがあるからな。今回みたいに。

 もちろんその巨大すぎる氷の塊が大陸もしくは氷の大地に辿り着いたらどうなるかなんて、考えるまでもない。と思いつつクランメンバー専用の掲示板を開くと、うん。やっぱりな。


「出撃要請了解しました。流石にあの流氷山脈全てがモンスターとなってこちらに来るとは思いたくありませんが、中央部分以外の全てが来るのは有り得ますからね。防壁が崩されるとリカバリーに手が取られますし、可能な限りその前に食い止めるとしましょう」


 と言う事だ。なお、司令部からの要請=エルル達の説得は司令部責任と言う事でもあるので、とっても気が楽だ。自分で言い訳を考えなくていいって助かるなぁ。

 今回は寒冷地と言う事で、白もこな防寒着スタイルだ。ただしイベントであの竜族の人達から毛を貰ったアラーネアさんにより強化されているので、性能的には現状最高峰のままとなる。着心地は更に良くなった。凄いんだよな。

 もちろんその上から【魔力練化】をOFFにして精霊さんの守りを重ねているので、防御力と耐性は相変わらずだ。ここを疎かにすると後が怖い。流石に司令部の人達の言い訳にも限度ってものがあるし。


「まぁともかく、足止めをメインに、他の誰も歯が立ちそうになければ吹っ飛ばすという事で。自分で作った防壁や砦を自分で壊していては何をしているか分かりませんし、慎重に行きましょうか」


 なので嵐の精霊さん、君はステイだ。いいね?

 お城の正規出口から出て防壁の方へ向かおうとすると、どっさりと山になった雪玉を各砦へ持って行ってほしいと言われた。冷人族の人達とルミ達がいるから、「必凍状態」になる雪玉か。……これって、大分分厚くなっている雪雲に投げたら、同じく氷の塊が降って来るんだろうか。

 これは前線への補給なので、自分で使わずに手渡しがてら誰かに聞いてみよう。もし超特大の流氷から変じたモンスターが、あの雪の城と同じように削れるんなら、一気に削りにかかれるし。


「……しかし、エルルとサーニャの姿が見えませんね。非常事態って事で、大陸の方に応援に行っているんでしょうか」


 司令部の人達はどうやってあの2人を動かしたんだろう。……私がログアウトしてる寝ている間限定の応援とかって言われてたら、後がややこしくなるんじゃなかろうか。

 まぁそうなっても私は司令部の要請を受けて動いただけなので、言い訳するのは司令部なんだけど。非常事態だからしょうがないね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る