第768話 22枚目:ボーナスタイム

 ……案の定もう一度派手な噴火が起こったものの、ちゃんと退避が済んでいたので全員無事で済んだ。いやぁ良かった。最後の最後で、ティフォン様のお茶目で被害者が出なくって。

 内海だった場所に溜まっていた溶岩も、水路に流れ込んでいた溶岩も、どちらも噴火によって綺麗に吹き飛ばされたので、水路も内海も、すっかり元通りになっている。本当に丈夫だな、あの水路。

 なお今は水路に橋を縞々になるような感じでおろし、多くの召喚者プレイヤーが釣り三昧をしている。何でかって?


「これも神の力なんですかね。めちゃくちゃ入れ食いじゃないですか」

「近くには魚の気配もなくなってた筈だが、どこから湧いてきたんだ?」


 と言う事だ。……ほら。大抵の召喚者プレイヤーは、去年の7月イベントで【釣り】スキルを結構なレベルまで上げているから。それに討伐成功メールに、イベント空間内でのアイテム収集にボーナスが付くって書いてあったし。

 もちろん内海や森や山を探索している召喚者プレイヤーも居て、そちらはそちらで収穫があるらしい。外海の岩礁地帯とかでも何か変化があるらしく、情報を纏める為だけに司令部が機能を続けている。

 ちなみに、今の所の一番人気はこの水路で釣れる魚の内の、「キャッチャーマウス」という魚だ。こいつ、見た目は普通の、30㎝ぐらいの青魚なのだが。


[動物:キャッチャーマウス

説明:非常に強靭で良く伸びる喉と口を持つ魚

   目についたものをとりあえず飲み込む習性がある

   その為腹の中からは様々な物が見つかる

   別名「トレジャーフィッシュ」]


 種といいこの魚といい、今回のイベントの隠れテーマはガチャだったのだろうか。

 しかし釣る難易度もそんなに高くないし、便利グッズや宝石と言ったいくらあっても困らない物が出てくるって事で、召喚者プレイヤーが釣りまくっている訳だ。私も釣ってるけど。

 時々魔力や体力の自動回復効果が付いた指輪が出てきたりしているらしく、ほどほどに乱闘騒ぎも起きているらしい。もちろん逆に、ただの小石しか出てこないって事もあるようだが。


「その小石にしても、さっきの今だからか、ティフォン様のお力付きの溶岩石の小石を飲み込んでる奴がいるみたいですけど」

「悪食にも程があるだろ」

「とりあえず飲み込んでるだけで、食べている訳ではないのでは?」


 とか言っていると、また「キャッチャーマウス」が釣れた。手早く〆て腹を開いてみると、ころりと何かが転がり出てくる。噂をすれば小石か? と思ったが、一応【鑑定☆☆】。


[アイテム:時空石の原石

説明: 極一部の地域で、極稀に見つかる非常に珍しい宝石の原石

   特定の法則に従って形を整える事で、周囲の空間を変化させることが出来る

   閉じた空間の中に入れれば、内部空間を拡張する事が可能

   また、拡張した内部の時間の流れを操作する事が出来る

   研磨してからでも時間と共にマナを吸収し、ゆっくりと成長する]


 …………。

 ………………。


「もしかして、これが作りたかったんでしょうか……」

「これだろうなぁ……」


 明らかに人工空間獣の上位互換、いや、人工空間獣がこれの下位互換なのか。を見つけて、とりあえずインベントリに放り込み、釣りを再開しながらしみじみと呟くと、エルルも同意してくれた。そうか、これがある意味全ての始まりか。

 とりあえず極稀って付いているから他には出て来ていないだろうし、知られるとそれはそれで騒ぎになるだろうからこれは秘密だな。これ1個しかないから、ボックス様の試練でも増やせるかどうかは難しい所だけど。


「まぁ作り手の目的はこうでも、そこにいらぬちょっかいを出した奴がいますからね。その時点で色々台無しになってますし」

「そもそも、作ったものが暴走して災害になってる時点でダメだろ」

「それもそうですね」


 とりあえず、しばらくここで釣りをしたら、他の場所も探索しに行こう。ティフォン様の溶岩石も見つけておきたいし。

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