第766話 22枚目:最後の1割

 体感的には魔力をごっそりと持って行かれ、スタミナもそこそこ減っている。表面に出てくる傷にこそなっていないが、体力もそれなりに減っているようだ。まぁ普通に自然回復力で補える範囲だし、スタミナが減るならステータスに補正が入るから鍛練的には大変美味しいんだけど。

 それに体感だが、どうやらこうやって儀式場で祝詞を奏上して【王権領域】を展開するというのは、いつか「第一候補」が滝のような嵐を割って見せた時のように「儀式が継続している」という状態になるらしく、魔力とスタミナがある程度削れ続けているっぽい。

 とりあえず【王権領域】と展開時の姿勢を維持したまま、開き切った水門の向こうで……もがもがしているというか、のたうち回っているというか、そんな風に動く「伸び拡がる模造の空間」を眺めていると、パストダウンさんの箒に相乗りする形のカーリャさん、に抱えられた「第一候補」がやってきた。


『うむ。神格通りの豪快な奇跡であるな。何か異常はないか、「第三候補」』

「これだけの威力を出しておいて、私にはかすり傷1つ無いって辺りがティフォン様なんですよね。異常は……無い、と言いたいところですが、若干手足が痺れている感じがします。動くのに支障はありませんが」

『ふむ……やはり条件が揃うと、儀式場で軽減していても多少の反動は出るか。しばらくすれば回復するとは思うが、しばらくはそのまま動かずにいるといいであろう』

「分かりました。まぁ、あちらの様子見もしなければいけませんし、しばらくはこのまま見学でしょう」


 そしてそんな会話をしている間に、南の空に箒に乗っている召喚者プレイヤーらしき影が集まっていくのが見えた。溶岩が外海へと流れ出し続ける水路の上で苦しんで(?)いる「伸び拡がる模造の空間」の周りを飛び回り、様子を見ているようだ。

 その一部はボコボコと煮えたぎる溶岩で満たされた元内海を調べようとしていたようだが、高度を落とそうとしては慌てて退避していく、という事を何度か繰り返してから近寄らなくなっていた。まぁ、いくら【環境耐性】を鍛えていても、これはちょっと厳しいだろうな。


『そうであるな。それに火力と言う意味での貢献は、この奇跡を維持するだけで十分であろう』

「あれ、ノックバックって入るんでしょうか」

『物理的な干渉が不可能であるなら、難しいであろうな。もっとも重みがあるという事であるから、足元を流れる溶岩に押し付けるだけで十分なダメージが入るような気もするであるが』

「まぁ問題は、あのまま大人しくしててくれるかどうかという事ですが……そうでは無かったようですね」


 手足のしびれもだいぶマシになってきたところで、うにょん、と「伸び拡がる模造の空間」が、アーチのような形に変わった。明らかに溶岩を避けているが、それでいいのかレイドボス。

 ……よほど溶岩に近付くのが嫌らしく、周りから封印魔法で切り取られ、光を浴びせられて削られても、反撃の様子すら見せずにアーチのような形を変えようとしない。


「ここからまだ隠し玉の類はあると思いますが、「第一候補」」

『どうであろうな。もう出尽くしたと思いたいところであるし、流石に先程の勢いで吹き飛ばされておいて、それを吸収しているという事は無い筈であるが』

「ですよね。……ここまでの手間と難易度を思えば、流石に後は袋叩きにして終わりだと思いたいところです」


 最終ステージの4日目の昼なんだ。ここまで散々削って解いて削って解いて削って削り倒して、そして神様の力まで借りて本体を引きずり出したんだから、もうギミックは無い筈だよな?

 それでなくても超巨大な積乱雲の移動って言う特大のギミックがあった上に、柔種っていう爆弾が仕込まれていたんだから、流石にもう無いよな?

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