第751話 22枚目:応酬終盤

「ちょまこれちぃ姫の――――っ!?」

「どっかで見た感じの超火力だ!!」

「がっつり高い火力は引き継いでるとかふっざけんな!?」

「ステージごとにリセットかかるって言ってたのに運営の嘘つき!!」


 ……だから言ってるじゃないか。私の予感は、悪い物に関してはよく当たるんだって。

 そうだよ。体積的に半分が見えてきたか切ったかなってあたりで、出て来たんだよ。極太のビームが。

 しかも種の状態での向きが関係しているのか、てんでバラバラな方向に突然発射されるから、最前線は阿鼻叫喚だよ。


『姫さんの火力は知ってたけど数が多いよ!!』

『死にはしないだろうが、流石に直撃すると痛いじゃすまないな……』


 なお、エルルとサーニャもこの調子である。うん。なんか。ごめん。いや悪いのは攻撃を吸収して利用してくる「伸び拡がる模造の空間」なんだけど。

 なお私自身が封印魔法で光の柱を引いた場合だが、どうにか同時に2個までなら抑え込めることが分かった。流石に3個一度に暴発されると抑えきれなかったけど。

 しかし、酷いなこれは。自分の火力だけど。こんなの振り回してたの? もっと制御訓練に力入れなきゃ。


『全体連絡です! 夜の始まりまで30分を切りましたので、一部足止め要員のみを残して退避の態勢に入って下さい! 繰り返します! 退避の態勢に入って下さい!』


 光の柱が暴発した封印魔法に更に封印魔法を重ねたり、防御バフを飛ばしたりと出来る範囲でフォローをしていると、拡声されたスピンさんの声が届いた。もうそんな時間か。通りで空が赤いと思った。

 なお一部足止め要員とは特級戦力の事であり、変わらず上空に居る私及びエルルとサーニャと、わぁっと一斉に海の方へと移動していった召喚者プレイヤーの人達と入れ替わりにやって来た「第二候補」の事だ。


「クカカカカ、随分と楽しそうな事になっておるのう。「第三候補」の全力火力とは、実に斬りがいがありそうじゃ」

『斬る気なのか……』

「それは構いませんが、下手を打って沈んだり、受け流して周りに余計な迷惑を掛けたりしないでくださいよ」

『お嬢もそれでいいのか』


 だって「第二候補」戦闘狂だぞ。止めた所で止まらないのが分かり切ってるんだから、それなら周りの迷惑にならないように釘を刺すしか無いだろう。一応聞くだけは聞いてるみたいだし。

 どうも中身がエネルギー系の場合は箱に入り込もうとする動きが鈍くなるらしく、封印魔法をどうにか維持しても纏いついて来る数が少ない。ここで手を緩める訳にはいかないから、人数が減るなら火力を上げるしか無いんだよな。

 「第二候補」自身も封印魔法は使えるし出力もかなり高い筈なので、私は内側から破られない事だけを注意して封印魔法を叩き込み、「伸び拡がる模造の空間」の体積を削り取っていく。


『うわあっぶな!』

「ほう! これがそうじゃの!?」


 ……途中楽しそうな「第二候補」の声が聞こえたり、実際に光の柱が真っ二つになっていた気もするが、まぁ上手くやれているならそれで何も問題は無い。エルルとサーニャは上手く回避し続けられているし。

 ただ、問題は此処からなんだよな。と、半分以上が沈んだ太陽に目を向ける。流石にもう隠れる所は無い、とは言え、暗い所で増える性質があるのなら、夜になればどこでも増えるって事だろう。

 太陽の光がある現在ですら積乱雲を取り込む動きを阻止するのはギリギリだ。体積自体も減っているとは言え、夜になったらまた増えるのは目に見えている以上、このままだと積乱雲を取り込むことは阻止できない。


『えー、全体連絡です! 作戦「昼夜逆転」の準備が整いましたので、参加者の皆様は配置についていただくようお願いします!!』


 ……ま、カバーさん達が、その辺を想定してない訳が無いんだけど。

 作戦開始の号令を受けて、エルルが島の外へと離脱して、そのまま少し高度を下げる。サーニャも、どうやってか自力で飛び回っている「第二候補」も退避したようだ。事前に打ち合わせた通りである。

 入れ替わるように、陽の光がみるみる光量を落としていく空に上がっていくのは、無数の召喚者プレイヤー達だ。全員が光属性の魔法の使い手である。ここまででも大活躍だった人達だな。


『全員が位置に付いたことを確認しました! それでは! 作戦「昼夜逆転」を――開始します!』


 その声とほぼ同時に、最後の陽の光が沈み切った。夜の訪れと同時に、レイドボス「伸び拡がる模造の空間」の表面に起こっていたさざ波が収まった。ざわり、と、暗い中で何かが蠢くような気配がする。

 放っておけば、確実に超巨大な積乱雲を中に居る精霊獣ごと取り込むだろうレイドボスに対して行われるこの作戦は、まぁ作戦名からそのあらましは大体分かると思うが……。



 まぁ要は、太陽が無くても、太陽並みの灯りがあれば問題ないのでは? って事だ。



 ――――ガッッ!!! と、1つ1つは小さいかも知れないが、集まれば島全体を照らし尽くすのに十分な光量となる魔法が、空へと打ち上げられた。

 魔法的照明弾でも、設置型の灯りでも、周囲を照らすという効果があれば種類は構わない。ただひたすらに数で空を埋め尽くし、夜の闇を放逐する。そういう、数の力によるゴリ押しだ。

 流石にこれまでのステージであれば必要人数が集まらず、私でも流石に無理がある。島全体を照らす前に、最初に使った魔法の効果が切れるだろう。お札を使って一時出来たとしても、その後の補充が間に合わない。


「いやー、数の力ってすごいですね」

『ちゃんと統制が取れてる事が大前提だけどな』


 太陽は沈んだはずなのに、島を明るく照らす光がある事に、気のせいか「伸び拡がる模造の空間」は戸惑ったようにその大きな……最初に比べれば半分以下になったとはいえ、まだまだ大きな姿を揺らした。

 実際は光から逃れようとして身をよじっただけかも知れないが、まぁともかく。どうやら人工の物であってもこれだけ強い光が降り注いでいれば、あの吹き上がるような体積の増加、削るべき枝葉のおかわりは止まるらしい。


「カバーさん達の読みが大当たりですね。さて、地上では変わらず宿闇石の捜索が行われているでしょうし、余裕を持つためにも、明日の昼間の内には削り切りますよ!」

『最初はどうするんだと思ったが、どうにかなるもんなんだな……』


 まぁ、どうにかなったというか、どうにかしたというか。

 だって、難易度が高いからって言っても、負けたって言うのは悔しいし。

 前にもちょっと言ったが、私は積極的に喧嘩を売る事こそ無いものの……煽られると負かしたくなる性格をしている。


「……これなら勝てまい! と、挑戦状を叩きつけられれば、そりゃまぁ、ついうっかりとお買い上げしてしまうってものですよ。そう、喧嘩をね」

『お嬢?』

「さぁ頑張りましょうかエルル! これで終わりならあと一息です!」

『お嬢ー?』

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