第721話 22枚目:ステージ終了

 4日目の夜には海の上でも高度が低いとだいぶ危険であるという事が分かり、5日目の夜には島から最大限に離れた上で、私を含めた全員で全力の光属性防御を展開しないと耐えきれない……つまり、実質的に5日目の夜は削れない、という事が分かった。

 そしてやはり何かまだ条件を満たせていなかったのか、その5日目の夜を凌いでいる間にようやくカバーさんとパストダウンさんの【鑑定】が通ったようで、レイドボスの名前が判明した。「伸び拡がる模造の空間」だってさ。……生物要素どこ行った?

 ともかく、今日は日曜日だ。そして1回目のステージと同じく、大多数の召喚者プレイヤーは3日目の夜で脱落してしまっただろうから、貴重な最終日までの生存者として情報を提供しよう。


『まーじで。あれも凌ぎきったのかよ「第三候補」!!?』

『おおよそエルルとサーニャのお陰ですね。緊急回避が間に合わなければ無理がありました』

『緊急回避できたっていうのが~、既にすごいのだけどね~』

『いやそうだけど、3日目の夜もそうだけど、最後! 最終日!! 全域不可避攻撃なんてどうしろって言うんだよ!?』

『あぁ、そちらであるか。……あれは、単純に出力で対抗するには、流石に通常は無理があると思うであるがな……』

『まぁ無理でしょうね。現状における総合ステータスのトップ3が揃っていた上でギリギリだったんですから。要ギミックか、それこそ宿光石関係のアイテムが必要でしょう』


 ただし、情報は提供するが生産作業の手は止めない。宿光石をお札と一緒に錬金釜に放り込んでみたら、見事に影の出来ない特性が追加されたからね。しかも光属性になった上に、威力が+5%上がった。

 これはもう地形が変わらないギリギリの威力のお札を作りまくるしかないな! と、トンネルを掘った事でここまで以上に手に入った宿光石を全部交換して生産作業中なのだ。

 なお特性付与だけならお札を束で入れても問題ないらしい。なのでまず素材となるお札と宿光石を並べておいて、流れ作業で錬金釜に放り込んで、ある程度数を作ってから魔法を込めるようにしている。


『途中離脱になったらその時点でポイントの引継ぎが途絶えるとか聞いてねーし! 折角何かあるかもと思って貯めてたのに!!』

『本当にね~……全部交換してもポイントが余っちゃって~、勿体ない事になっちゃったわ~』

『あぁ、それで外部掲示板があそこまで荒れていたんですか……』

『さもありなんであるな。……というかむしろ、その為にあの一掃があったような気すらしてくるである』


 どうやらレイドボスの「特殊能力」に相当するのか、3日目の夜以降……つまり、レイドボス出現メールが届いて以降に“影の獣”こと人工空間獣、あるいは「伸び拡がる模造の空間」に呑まれると、その時点で途中離脱扱いになってしまうらしい。

 私と「第一候補」、カバーさんとパストダウンさんはギリギリ耐えたが、同じステージになった他の召喚者プレイヤーも恐らくアウトだろう。うわぁ危ない。ここまで貯めに貯めたポイント貯蓄が途切れる所だった。


『……と言う事は、次のステージでは最初から、一度でも飲まれたらアウトになるのでは?』

『難易度がいきなり上がったな!? 有り得るけど!!』

『うーん……確かに~、否定は出来ないけど~。流石にそれは、「同じ条件」にならないんじゃないかしら~』

『どちらも否定できぬであるな……。いずれにせよ、貴重な犠牲の下に検証を行わねばはっきりせぬ事であるが』


 ……必要な犠牲、と言っていいのだろうか。放っておいてもやらかす奴はやらかすから、誰かの自業自得なうっかり待ちとも言えるかも知れないけど。

 と思いながらも手は止めていない訳で、流れ作業でお札の束に続いて、横のテーブルに転がしてある宿光石の欠片を掴み


「ん?」


 もっふ、と、柔らかい感触があったので、そちらに目を向けた。すると、何故か精霊獣が宿光石の欠片にしがみついている。可愛い。可愛いが何故だ。というか、いつの間に入って来たんだ?

 とりあえず別の宿光石の欠片を手に取って錬金釜に放り込む。無事付与が成功した所で、他にも、少なくとも私が【絆】でテイムしている精霊獣は皆、宿光石の欠片を抱え込んでいる事に気が付いた。本当にいつの間に。

 ……しばらく見ていると、何かこう、カリカリという音がする。音の源は精霊獣と、その手に抱え込まれた宿光石のようだ。うん? 何してんの?


『む? どうしたであるか、「第三候補」』

『いえ、お札に宿光石の性質を付与していたんですが、その作業の為に外に転がしておいた宿光石の欠片を、精霊獣がそれぞれ抱え込んでいるんです。何かカリカリと音がするんで何かはしてるんでしょうけど、何してるんですかねこれ』

『へ? なにそれ知らない。ちょっと確認してみる!!』

『宿光石の欠片を~、普通に転がしていただけなのね~?』

『えぇ。流れ作業で錬金釜に放り込むのに、いちいちインベントリを開くよりは出しておいた方が早いので』

『ふむ。……少々気になるであるな。こちらでも確認してみよう』


 なおこれはクランメンバー専用の広域チャットで行われている会話なので、カバーさん達や、ログインさえしていたらフライリーさん達にも伝わっている筈だ。

 えー。ただでさえ素材として大活躍なのに、まだ使い道あるの? 宿光石。

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