第722話 22枚目:精霊獣について

 カバーさんに言われて思い出したんだが、私はそう言えば【精霊言語】という、精霊と話が出来るようになるスキルを持っていた訳だよ。んでもって、【魔力練化】さえOFFにしておけば、精霊からの好感度も結構高い。

 なので【精霊言語】を意識しつつ、精霊獣と目を合わせて、何をやってるか聞いてみたんだよね。そしたら、うん。普通に答えが返ってきて。


『殻を作っている、と?』

『はい。どの子に聞いても同じ答えでした。ちなみに殻については、殻は殻だそうです』


 何の事かは分からなかったが、本人達にとってはとても大事なものらしいので、間違って錬金釜に投入してしまわないように、後ろ側に別の机を置いてそちらに移しておくことにした。

 ……別の場所に持っていくのは、それはそれで契約者わたしから離れたくないから嫌と言われてしまったからね。間違わないように、でも近くっていうのは、作業中だと後ろしか無いんだよ。

 どうやら「第四候補」や「第一候補」の所の精霊獣も、カバーさん達元『本の虫』組の所も、ついでに話を聞いていたソフィーさん達の所も同じ行動を取ったそうなので、これは精霊獣という種族に共通の動きだと思っていいだろう。


「で、こっちに来た訳か」

「はい。何か知りませんか?」

「……と、言われてもなぁ」


 そこまでが分かった所で私は生産作業をいったん中断し、大型ベビーカー、お散歩カートと呼ばれるあれに似たものを使って、宿光石をカリカリしている精霊獣達を運び、エルルに話を聞きに行った。中にはたっぷり毛布とクッションを入れたので、揺れはほとんど伝わらない筈だ。

 ようやくショーナさんが外回りのアレコレに一区切りつける事が出来たらしく、皆で種を開けているところに近寄っても怒られなかった。ショーナさん自身は、多分警備の関係上、今はルールと打ち合わせとか、警備関係の相談をしてるんじゃないかな。

 うちの子が揃って覗き込んでも、精霊獣の動きに変化は……たぶん無い。もふもふに埋もれてよく分からないけど。音に変化が無いから。


「そもそも、精霊獣自体がほとんど見かけないもんだからな……」

「それにボクらが知ってる精霊獣は成長した後だから、こんな生まれたての精霊獣を見たのは初めてだよ」


 で、古代の知識を当てにして聞きに行ったのだが、結果はこの通り。うーんこれは、経過観察するしかないか。そもそもの精霊が定義的な意味でふわっふわした存在だし。

 ……これ、精霊結晶とかが近くにあったらどうなるんだろうな? あれも分類的には宝石だった筈だ。性質的には消耗品だけど。

 もしくは他の宝石。宿光石は分類的には「力を蓄える性質のある宝石」だ。それと似たような性質を持つ別の宝石があったら、それにも反応するのか?


「ちょっと宝石を集めてみましょう。確か倉庫に精霊結晶が残ってましたよね?」

「今度は何をする気だお嬢」

「精霊獣にとっての殻って何だろうと思いまして。宿光石以外にも殻とやらになりそうなものを総当たりしたら、少しは分かるかなと」

「……とりあえず、それをするなら別の精霊獣にやった方が良いと思うぞ。何やってるのかは分からないが、これを離すとは思えないから」

「……まぁ、そうですね。がっちり抱え込んでますし」


 しかしこのカリカリって音、何をしてるんだろうね? 齧ってると言うか削ってると言うか、そんな感じだと思うんだけど。このログイン時間の終わりまでには分かるかな。

 まぁそれでも、しばらくは様子見だなぁ……。と思いながらカリカリという音と共にもそもそ動いている精霊獣達を見ていると、ぬっと手が伸びてきて、ひょいっと魚っぽい精霊獣を持ち上げた。ん!?


「すごーい、綺麗になってるヨ!」


 そして止める間もなく、その手の主……ルウは精霊獣が抱え込んでいた宿光石をひょいっと取り上げて、手の上に転がして見せた。あぁっ!? 精霊獣が「返してー」って感じでわたわたしてる!?

 っが、確かに精霊獣が抱え込んでいた宿光石は、原石の状態から削られ、磨かれたようになっていた。まだまだ荒削りだが、たぶんこれ、丸くしようとしてるんだろうか?

 で、殻、と、言う事は……。


「……もしかして、殻って、卵の殻的な意味の……? 何かこう、進化する時に必要な物的な意味な……? とりあえずルウ、それはその子に返してあげてください」

「はーイ」


 素直にカットあるいは研磨途中の原石を精霊獣に返すルウ。本当に気になっただけらしい。びっくりした。いや確かに、ルウなら精霊獣より力が強いから問題なく引き剥がせるだろうけどもね? 私は力加減をミスったらと思うと怖くてできなかったし。エルルとサーニャはそもそも取り上げるって発想が出なかっただろうし。

 えーと、そうだな。とりあえず、この子達はこのまま様子見するとして、だ。


「……精霊結晶とかを球体に削ってみましょうか。それを次のステージに持ち込んで、精霊獣達の反応を見ましょう」

「宝石加工メェ?」

「水晶玉作りメェ?」

「水晶には限りませんが、そういう事ですね」


 とりあえず、クランメンバー専用の掲示板に書き込んで共有だな。「第四候補」とかの方が加工は早いだろうし。

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