第700話 22枚目:ステージ終了

 思ったより数が飛び出してきた精霊獣達の世話、というか、最低限の躾……金属か分厚い皮に覆われた場所にいるとか、それ以外の場所に触る時は加減するとか……をしている間に時間は過ぎ去っていた。

 流石竜族と言うべきか、現地竜族の人達は精霊獣が好きに行動しても平気なので、子供にだけ加減するように気を付ける事を言い含めて、結構な数を引き取ってくれた。正直助かった。

 5日目の昼には回収できない罠は仕掛けず、大半の召喚者プレイヤーはどうやら“影の獣”に対する安全地帯だったらしい岩礁地帯に移動し、私とラベルさん、ニビーさん、他数名はエルルに乗せて貰って高高度で待機だ。


「……しかし、すごい事になりましたね、ニビーさん」

「ウッキキ! 防御系スキルが育つので悪いばかりでもないですよ! 帰ったら早速彼らの寝床を作らなければいけませんね! まぁこれもこれで賑やかですが! キ!」


 私の肩から背中の辺りを精霊獣(雷)がうろうろしているのと同じく、ニビーさんも【絆】でテイムした精霊獣が張り付いているのだが(契約者の近くに居たがるのは精霊の性質らしい)、その数が多い。うっかりするとニビーさんが尻尾以外見えなくなる。

 お目当てと言っていた雷をメインとした精霊獣だけでは無く、魚のような鱗を持った奴や、逆にもっと動物っぽい奴もいるので、多分5属性をそれぞれメインとした精霊獣が揃っているんじゃないだろうか。種類コンプリートかな。

 私は魔力(MP)の上限が高い=保持している魔力が多い上に、【精霊言語】や【○○精霊魔法】のレベルを地道に上げているので、精霊からの好感度が基本的に高い。なので、今後も呼び水的に呼ぶことになるだろうし、呼ぶからには面倒を見るつもりなので、これから増える予定なんだよな。


「っと……うっわ、予想はしてましたが」

『まぁ、多分だがこの島も、元は全部そうだったって事を考えると、な』

「キ! 全くどうしてこうも妙な所だけやたらと生物的なんですかね! キッ!」

「生物、という単語に対する感性の違いかもしれませんね。全く理解できませんが」


 落ち着かなげにうろうろしていた精霊獣(雷)が、私の肩から顔だけを出す形で動きを止めた。そのままぶわっと毛を逆立てたようで、身体の大きさ相応の手足に力が入ったのが分かった。

 その変化に、視線を南の向こうに向ける。するとそこに見えたのは、山を足掛かりにしたようにして、大きく伸びあがり、超巨大な積乱雲を、文字通り丸ごと呑み込もうとしている“影の獣”だ。

 恐らくは、あんぐり、と大きく口を開けたような形になっているのだろう。邪魔したいのはやまやまだが、それは次回以降のステージに取っておくことになっている。


「……ま、邪魔するにしても、私が文字通り全力で最大火力を叩き込み続ける必要がありそうですけど」

『まぁそりゃ、要はいくらでも溢れてくるあれをずっと消し続けるって事だからな。ちょっとお嬢でも無理があるだろ。というか、無茶だからやるな』


 気分的には舌打ちの1つもしたいまま、大きく伸びあがった“影の獣”が、超巨大な積乱雲を飲み込んでいく様子を見る。恐らくこれは、過去の再現でもある筈だ。だったら、「現在」の“影の獣”の様子の手掛かりになる、かも知れない。

 イベント中に一掃できるかどうかがだいぶ怪しくなってるからな。もし通常時空で今後出てくるのだとしたら絶対に必要だし、そうじゃなくても情報はいくらあっても足りない状態だからね。


「でもあの雲、たぶんまだまだ精霊獣が居ますよ?」

『それとこれとは別の話だ』

「救助は必要じゃないですか」

『いい加減自分の為の自重ぐらいはしてくれ』

「えー」

『えーじゃないこの降って湧いた系お嬢は……!』


 何故かエルルに怒られてしまったが、その間も視線は外していない。

 超巨大な積乱雲を飲み込むように伸びあがった時点で、既に真夜中は過ぎている。そんな話をして時々ニビーさんに合いの手を入れて貰いながら、多分そろそろ夜明けが見えてきた頃だろうか。

 うっすらと東の海が明るくなってきたような中、伸びあがって超巨大な積乱雲を飲み込みにかかっていた“影の獣”が、積乱雲に合わせた様な、とても大きな円柱型から、形を変え始めた。


「………………」


 思わず睨むような目になってしまう。声を出さないだけ冷静だっただろうか。恐らくはあの超巨大な積乱雲を、中に居た精霊獣ごと飲み込み切った“影の獣”は、ぐにゃぐにゃと形を変えながら、重心に当たるような位置を、南の海へと移しているようだ。

 山頂からは相変わらず“影の獣”が溢れ出し、その体積はどんどんと増していく。恐らくはあの超巨大な積乱雲が出現したから見れたその変化の最後に、“影の獣”は1つの形をとった。



 それは、例によって嫌な予感の通り。

 ――「膿み殖える模造の生命」の、本来の姿に、そっくりだった。



 もちろん赤く光る目がある訳ではない。そして今までの事からして、実体らしい実体がある訳でもない。というか、大きさがそもそも、こちらの方がずっと大きいだろう。

 それでも。イメージとしては、大変近い。形だけでは無く、少なくとも動き的にはドロドロとした不定形の塊で、その色としては、黒いのだ。

 それに加えて、“影の獣”に覆われているとは言え、高い山と言う障害物越しに見ているというのもあるだろう。あの最終決戦の時に、防壁越しに見ていたように。


「どこからどう見ても大規模戦闘が最後に待ってるじゃないですか。サバイバルとは何だったのか」

「ウッキキ! まぁ以前もだいぶサバイバルに近いのは確かでしたがね! と言う事はもしや救出アイテムもどこかしらにあるのでは!? 探索しなければいけませんね! キキッ!」

「事前の削りでそれに代える、とかでは無い事を願います」


 もちろんその光景はスクリーンショットに撮る。同じく前回を知るニビーさんも、ラベルさんもだろう。なんなら望遠鏡などを使って、岩礁と言う安全地帯に移動した召喚者プレイヤー達も撮ったかもしれない。

 そして嫌な予感が的中したことに息を吐き、そんな会話をした辺りで、足元に大きな魔法陣が現れた。ステージの終了だ。

 ……とりあえず報告と、種及び精霊獣(雷)のポイント交換と、名前だな。どうしようか。

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