第687話 22枚目:順調な進行

 夜が「人工空間獣の種」の稼ぎ時だと言うのは既に分かっている事だし、運営大神的にも種を開けるのは通常時空で行われて問題ない事だという推測が立っている。

 なので相変わらず仕事が早い竜族の人達の気球に乗り、箱の入った網を吊り下げては宿光石の照明器具で照らして種を回収していく召喚者プレイヤー達。まぁこの辺はベテランであればあるほどさくさく進めるよね。

 なお私はと言うと、エルルに乗せて貰って闇属性の壁魔法と空間属性の封印魔法の合わせ技で、同じく数を稼いでいる。何せほら、ガチャ券っていうのはいくらあっても困らないものだから。


「便利グッズもありますから、開けるのが楽しいんですよね。大半は皆にお任せしてしまう事になるのですが」

『時々危険物も混ざってるんから、出来ればお嬢は触らないで欲しい』

「危険物と言うか危険人物と言うか……。まぁでも、エルルとサーニャが揃っていれば大丈夫ですよ。念を入れるなら空間属性の箱の中で作業すればいいんですし」

『……それ、中に居続けると窒息しないか?』

「細かく休憩を入れる良い理由になりますね。思いっきり魔力を投入すれば10m四方ぐらいにはなるでしょうし。それに確か、風属性の魔法に空気を浄化するものがありましたよね?」

『窒息の予防までできたかどうかは自信が無いぞ』


 あれは事故なんだし、私は無事だったどころか結構な収穫があったから別にいいのに。すくったものが垂れないスプーンとかすごい便利だ。現実でも欲しい。結び方によって髪の色が変わるリボンとか、お忍びで出かけるのには良さそうだし。

 戦闘に関する物だと、あれかな。時間経過で何度でも使える回復薬。お守りで持っておくと安心感が違うよね。体力(HP)だけじゃなくて、スタミナや魔力(MP)の種類違いもあったし。


「まさか直球な旨味調味料があるとは思いませんでした。あれは良い物です」

『あぁ、あれか。手間の割に美味くなるから、確かに外回りの時はあると便利だろうな』

「それこそ回復薬に【錬金】で混ぜたら美味しくなると思うんですよ」

『いや、薬が美味くなっても……まぁ不味いよりはいいか』

「消耗品ですし、適度に消費するのは良い事だと思うんです」

『適度で済まなくなる気がするんだが?』


 夢が広がるよね。そしてその為には色んな便利グッズを集める必要があって、集める為にはガチャ券こと「人工空間獣の種」が必要な訳だ。うん。いくらあっても足りないな?




 ステージに変化が起こっていてもやる事自体は変わらないし、1日目の昼に厄介な相手の動きを抑え込めたって事で、さくさく進んでいた訳だ。

 カバーさんとパストダウンさんによれば、昼になるたびに島の地形を調べた所、やはり数%ずつではあるが拡大しているらしい。他のステージの情報を確認しなければならないが、やはり種を回収する事によって「探索可能域」は広がっているようだ。

 最終的に本来の島の形になるかどうかは分からないが、場所が広くなれば1つのステージに送り込まれる召喚者プレイヤーの人数は増えると見ていい。すなわち。


「やはり、大規模戦闘が起こる可能性は、ゼロではないみたいですね」

『そうであるな。もちろん、実際にあるかどうかは別の話であるが』


 バックストーリーの続きがどの辺りで出てくるかは分からないが、少なくとも現在、ガチャ券こと種を回収するという数の暴力で対抗する事態にはなっている。

 大規模戦闘は例にもれず、ポーションや装備の消耗が大きい。そして消耗した物は回復しないと戦えないので、普段なら大規模戦闘はちょっと間を空ける筈だ。せっかく戦闘があっても、装備もポーションも無ければ参加できないから。

 ところが今回、召喚者プレイヤー全体で天井が共有されているガチャと言えるものが出現した。私達は便利グッズに喜んでいるが、『ヒーローフラッグ』の人達の様子を見る限り、一般召喚者プレイヤーは装備の類も普通に嬉しいだろう。


「便利グッズの中には、消費する事で装備を万全な状態に修理する事が出来るものもありますからね」

『それに、自身には不要であっても他者からすれば欲しい物もある。金策にも良かろうな』

「現物だけでは無く、素材やレシピもそれなりに見つかっているようですし。各クランの研究が捗っているようですよ」

『まぁそれは我らもであるが。……そういう状況であるから、戦えるか否かと言えば、戦えるのであるのよな』

「そうなんですよね」


 そういう事なんだよな。消耗が大きくて戦えない? よろしい、急速回復のチャンスをあげよう。これで戦えるな? ってか。ちょっとはインターバル挟んでくれないかな。

 ……無理か。無理だな。何せ、除雪の為のお祭りですら、クランに分かれての結構な規模の戦闘に突入したんだし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る