第671話 22枚目:とあるステージ

「雑に言うと、そうだなー。獣型戦闘狂の集団と勘違い仕切り屋集団とに、一度に当たったっていうのが一番近いか? あれは酷い。酷過ぎる。人間ってあそこまで滅茶苦茶になれるもんなんだな!」


 顔をしかめながらそう口火を切った「第四候補」によれば、スタート位置は東よりの山の麓だったらしい。平地にも山にも行きやすい、割と良い位置だ。

 これは幸先が良いとまずはアイテムを呼び出すイベントアイテムを探す為に平地へ向かい、そこで早速見知らぬ召喚者プレイヤーに遭遇したらしい。

 もちろん「第四候補」に喧嘩を吹っ掛ける理由は無く、向こうも友好的に応じてきた為、「第四候補」はその召喚者プレイヤーに、もし同じステージになったら合流しよう、と、仲間と決めていた場所へ招かれたらしい。


「まぁそこまではよくある話ですよね」

「そうね~」

「だからちょっと油断したんだよなー。変なのが増えてるって話聞いてたのに!」

『とは言え、そこで振り払うという訳にもいくまいよ。その時点では何もしておらぬのだからな』


 幸いと言うべきか、その話に出て来た「仲間」はその時点でそれなりの人数が居たようだ。一応「第四候補」も警戒していたようだが、歓迎の姿勢を見せていた事と、『アナンシの壺』が発表した情報を元に動き方を相談していた事から、話が通じる集団だと思ったらしい。

 その後相談に混ざったり雑談をしたりしながら、その集団が4月に一気に増えた新人の一部だと判断した「第四候補」。集団が機能してるのは良い事だと、ほのぼの見守るモードに入って口出しを控えめにしたそうだ。

 そんな内心及び変化に気付かなかった新人集団は、とりあえず『アナンシの壺』のイベントのススメに従って、島のあちこちに散っている宿光石の大岩を機能させて回りつつ、イベントアイテムを集める事にして、動き出したのだが。


「まーそこで俺が普通に頭数として数えられて? ふつーに集団の中に組み込まれてんのはまぁいいよ? いいけどさ? 合流するって言うのは協力するって事だしな? ぶっちゃけ、俺って言う駒をどう使うのかお手並み拝見みたいなノリもあったし?」


 もちろん「第四候補」もイベント用の装備に着替えていて、デザインからして戦闘的な、サバゲーの参加者に近い感じの格好だ。私や「第五候補」も言えないのだが、CMとのイメージの乖離が激しい。

 だから、公式マスコットの1人と気づかれていないっぽい事については別にいい、と「第四候補」は言う。問題は大岩と共に、イベントアイテムを見つけた時だったらしい。

 私達は良く知っているが、「第四候補」は使役型のスキル構成をしている。装備品としてあの「人造スライムの杖」が進化した杖を持ち込んではいたものの、やはり手数を増やすにはアイテムが必須だ。


「まぁそんでも、そんなに暴れるつもりは無かったんだよ。今回のイベントは俺相性悪いし、今回は新人育成を見守る回かなーぐらいは思ってたんだ。思ってたんだけどな?」


 私が作ったお札(100枚1組)をポケットに入れてきたこともあり、「第四候補」は周りでイベントアイテムを拾っている新人召喚者プレイヤー達に一声かけて、まず大岩を機能させにかかったらしい。それには了承の返事が返って来たのだが、その時違和感を感じたのだという。

 内心首を傾げながら大岩に近付き、攻撃される距離よりは少し余裕を持って、私が作った閃光の魔法のお札を投げつけたそうだ。バシュッ! と閃光がゼロ距離で放たれて、無事大岩を覆っていた黒いものは剥がれたらしい。

 そこまでは良かったのだが、さてそれじゃ俺もイベントアイテムを拾おうか、と振り返ったら。


「何か無言で俺に手ぇ出してる訳だよ。にこやかーな当たり前って顔で」

「あー……」

「あ~」

『なるほど。それで勘違い仕切り屋集団であるか……』


 私達は大体察したが、その時点の「第四候補」は何の事だか分からない。え、どした? と聞き返したところ、


「そんな便利な物があるなら、皆で共有しなきゃダメじゃないか。リーダーに渡しておくから全部出して。だと。――んな訳があるかっ!? 完っ全にカツアゲだろそれは! 自分が正しいと信じ切ってる分だけより性質が悪いわっ!!」


 なおその場では、準備期間にどうにか買えた物を1枚だけ持ち込んだので、人気商品だからそれ以上は手に入らなかった、と答えて事なきを得たそうだ。まぁ人気商品なのは本当だから、別に問題は無いな。「第四候補」の正体に気付いていないのであれば。

 そこで気づきを得た「第四候補」は改めて新人召喚者プレイヤー達を確認し、そこで違和感の正体に気付いたという。何の事かと言うと、イベントアイテムを手に入れても、使わずインベントリに回収していたのだ。

 あ、これヤバい集団だ。逃げよ。と、離脱する為の策を考え始めた「第四候補」だが、ここで追い打ちが掛かった。イベントステージでは、野生動物は居てもモンスターはいない。だから警戒はしていたが、まぁそれでもそれなりだったので……。


「警告は一応飛ばしたんだけどな。ほら、俺って単身だとそんな強くないじゃん? そりゃ新人と比べればステータスは高いけど、スキルを増やすイベントアイテムも取りに行けてなかったし」


 気づいた時には包囲されていて、明らかに召喚者プレイヤーとの戦いに慣れた召喚者プレイヤーの集団に襲撃されたそうだ。もちろん周りの新人は「第四候補」の警告に気付かないかそれを無視して、ほぼ一方的にやられたらしい。

 その時点でスライムを呼び出せば勝てたのかもしれないが、「第四候補」はあの集団から逃げる事を考えていた。言ってしまえば潜在敵なので、その幽霊が見ている状態で切り札は出したくなかったらしい。

 なのでちょっとだけ抗戦して素早く逃げたとの事。そうだね。倒されると素材を落としてスキルレベルが下がるからね。どうやら対人戦に慣れていると言っても、こちらも同じく新人っぽいPKにやられれば大変な事になる。


「何も間違ってませんね?」

「何も間違ってないわね~」

『うむ。実に的確な判断である』

「だよなー? 俺もそれ以上の手は思いつかない。つか集団に合流した時点でミスってるとか思わねーし!」


 で、山の方に逃げてそのまま山を登り、スライムを召喚して谷を伝い降りて、宿光石の洞窟まで一気に移動したんだそうだ。ここに居るのはマシな召喚者プレイヤーだといいな、と思いながら。

 そうしたら何と、そこに居たのは「空の魔女」さんだったらしい。普段なら真っ先に空へと上がっている彼女は、洞窟が初期位置と言う事でそのうち誰かが来るだろう、と、宿光石の洞窟に光を蓄積する事と、ヴォルケの一族雲竜族の人達の「非実体化」を解除する事を優先していたそうだ。

 これは幸いと地上の様子を伝え、様子を見た方が良いと伝えたらしい。「空の魔女」さんもそのまずさは理解してくれたらしく、地上の様子を見る事に同意してくれたのだそうだ。


「いやー、ここで合流できたのが彼女じゃ無かったら、最終日まで生き残れてないな俺。あの集団に挟まれてるし、使い魔を呼び出すのも出来ないってなると手足を取られたようなもんだし」


 もちろんヴォルケの一族雲竜族には気球の作り方を伝え、「第四候補」が全力で姿を隠す魔法を使った上で「空の魔女」さんの最高速度でネーベルの一族霧竜族の元へ移動。そちらの「非実体化」も解除して、気球の作り方と、周囲の警戒の必要を伝えたのだそうだ。

 なので最低限、住民竜族の人達の脱出、という目標は達成できたそうなのだが。


「いやー、そっからが酷いのなんの。ベテランも、最終数えてみたら人数自体はそれなりに居たんだけどな。戦闘狂集団は話どころか言葉が通じないし、仕切り屋は全方向を舐めてかかって喧嘩売るし、探索も検証も出来ないどころかまともな奴回収して空に逃げるしかないとかふざけんな? っていうな?」

「なるほど。……使徒生まれの彼女たちの悪口でも言われましたか?」

「あっはっはっは! 「第三候補」は相変わらず勘が鋭いな! ……「テイムモンスターはアイテム扱いだから、共有対象だぞ?」だよ!!」

「あら、あらあらあら~。それはもう何と言うか……控えめに言って、最低ね~?」

「ほんっっっとな!!! だから可能な限りの顔が見えるスクショ撮りまくって、フッダーに送った!」

「送られました。現在伝手による裏取り中です」


 なるほど。「第四候補」がブチ切れる訳だ。

 まぁ私がそんな事されたら、その場で吹き飛ばしてるけど。

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