第670話 22枚目:ステージ終了

 そして予想通りに5日目の昼は大量に掛かっていた“影の獣”を吹き飛ばす事と、そこから回収した「人工空間獣の種」を開ける事に終始する事になった。いやー、仕掛けた箱というか罠にギッチギチに詰まった上でまだ地上に溢れかえってるとか、総合体積は一体どれだけあるんだろうね?

 私は光の柱を設置してから、闇属性の壁魔法設置からの封印魔法発動を繰り返す事で平地に溢れている“影の獣”を排除し、最大火力である事を生かして箱を壊しまくっていった。

 お陰で開けるのが間に合わない程の「人工空間獣の種」が手に入ったよ。召喚者プレイヤー組はここがラストスパートだと分かっていたから、開けるより回収する方に力を入れてたって言うのもあるけど。


「まぁやる事はやったし、事前情報があったから、最終日の夜ぐらいは独力で雲の上にいけてるだろうし。前よりはクリアした人は多い筈だけど……」


 ログイン制限時間を待つ間、外部掲示板を覗いてみる。どうやら予想通り、前回よりはクリアした……最終日の夜が明けるまで無事に生きていられた人は多いようだ。

 ちなみに、一部どうしても飛行手段が手に入らなかった人も、試行錯誤の末に、召喚者プレイヤーが行けるギリギリの外洋に出る事で最終日の夜を凌ぐことが出来たらしい。成程、確かに5日かければ魔法もスキルも種族特性も神の加護もある世界だ。波も穏やかだし、とりあえず一晩沈まないだけなら船も作れるだろう。

 それに、エルルに外れだと分かった物を含めた「人工空間獣の種」をある程度持ってもらっておいたから、召喚者プレイヤー組が動けないこの間も、うちの子は動いている筈だ。


「まぁ、それも私がポイント交換しないとダメとかだと出来てないけど。エルルだから、事情説明はちゃんと共有してるだろうし。何が来るのか、大体でも分かってたら、ある程度準備は出来るだろうし」


 日付変更線までの短い時間だけど、ポイントを交換して、それぞれのステージ攻略模様を話し合って共有するぐらいは出来るだろう。話し合いをする予定は事前に決めてあったし、全員が最終日まで生き残っているのなら、ログインのタイミングは揃う筈だ。

 確実に「第五候補」は同じタイミングだって言うのが分かってるし、「第四候補」も、まぁ、それなりに上手くやるだろう。……自力で動けない「第一候補」は、同じステージに配置された人次第かも知れないが。


「そう言えば、亜空間型のイベントだから「第二候補」も参加できると言えば出来るのか。リアルの都合さえつけば」


 あっちはあっちで、ステージでは一緒に行動できても通常時空で話の共有は難しいからな。掲示板を介してのやり取りは出来るけど、やっぱりすれ違いや勘違いは起こるものだからね。

 ざっくりと外部掲示板を巡り終わったあたりでタイマーが鳴る。よし、手早く確認と情報共有をするとしよう。

 と言う訳でログイン。目の前にポイントの交換画面が浮いているが、所持ポイントの所に小さく「引継ぎポイント」という注釈があった。うん、何となく見覚えがあるな、この数字。


「で、合計からこの数字を引いたのが今回の獲得ポイントとなる訳ですが……うーん、何と言うか、一気に跳ねましたね」


 詳細がついてないので何が高ポイントだったのか分からないが、まず間違いなく「人工空間獣の種」の回収が関わっているだろう。資料も便利グッズもジェラールさんも、あれから出て来たんだし。

 そして肝心のリストだが、やはり「人工空間獣の種」を持ち帰るにもポイントが必要だったらしい。ただしその消費ポイント数は、驚きの1個1ポイントだった。ただも同然だ。

 というか、推定だが「人工空間獣の種」を回収する事でポイントが加算されるなら、実質的に大幅プラスだろう。やはりこの種の回収が今回のイベント、まだ分かっていないバックストーリーにおけるメイン目的のようだ。


「とりあえず、種をまず全部交換して、と」


 同行者が持っていた物でも、ポイントと交換すると召喚者プレイヤーのインベントリに入る、というのは仕様だ。ごっそりと私のインベントリの中に種が入った所で、エルルが迎えに来てくれた。

 そのまま「第一候補」の島まで移動して、今度は会議室では無く、多目的室のような広い部屋に集まって、皆で開封作業をしながら情報交換を開始する。今日はカバーさん達元『本の虫』組も一緒なのか。

 まぁ私と「第五候補」の報告はほぼ一緒なのでいいとして、「第一候補」はどうやら『巡礼者の集い』の人と同じステージになったようで、そちらも上手く動けたようだ。


「……で、「第四候補」はどうだったんです? その様子を見る限り、大分ダメだったようですが」

「まーぁな!!」


 基本的に、テンション高めで楽しそうなのが「第四候補」の印象だ。というか、少々やられたり追い込まれた所で、困ったり焦ったりはするが、そこまで強く怒っているのを見た事は無い。

 が。現在「第四候補」は完全にやさぐれているというか、もう見て分かるほどに機嫌が最悪だった。さっきのステージで、よほど腹に据えかねる事が起こったらしい。

 普段陽気で大体の場合は笑って済ませる「第四候補」をここまで怒らせるとは、話を聞く前から厄介な予感しかしないぞ? もちろん、厳重に警戒もしなきゃいけないんだけど。


「で~。結局、何があったの~?」

『問題が起こったにせよ、厄介な相手が発覚したにせよ、情報を共有して警戒せねばならぬからな。出来れば話して貰いたいが』

「分かってるよ! 分かってるけどー、あー! 思い出しただけで腹立つ!!」


 うん。やっぱり相当だな? 下手しなくても、ちょっとした事で暴走する魔族の人より取扱注意な相手なんじゃないか?

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