第661話 22枚目:捕獲結果

 え、封印したら持ち上げられたかって? …………辛うじて何とか。気球にも吊るせないって時点で重量はお察しだよ。質量兵器を作り出してしまったかもしれない。

 なおそこまで重いのは私が仕掛けた奴だけで、他の人が仕掛けた分は普通に動かせた。なおエルル曰く


「そりゃ魔法の威力が高い方が中はしっかり暗くなるだろうから、たくさん寄って来るって事なんじゃないか?」


 との事。なるほど。……とりあえず、私が仕掛けた奴は私以外動かせないし、地上に置いておくと更に重くなってしまうので、さっさと属性を反転させて消し飛ばす事にする。

 こちらもエルルにやり方を聞いて、一応山の南側に隠れる形で、空気の足場の上で実行だ。何が起こるか分からないからね。何が起こってもおかしくないとも言うけど。

 ……一応フルバフかけておくか。あっ、そう言えば検証班のデータで【暗視】は強い光への耐性が落ちるって書いてあったな。今まではステータスの暴力で誤差にしてたけど、一旦切っておいてと。


「えーとそれでは、封印は設置型なのでそのままにして……内側にだけ干渉を?」

「角の所にとっかかりがあるから、そこから魔力を流し込んでいく感じだな。間違って封印の方を触らないように気を付けろよ」


 どっちかっていうと細かい作業に入るんじゃないかなこれ……と思いながら、空気の足場の上に置いた黒い箱に向けて魔力を操作する。うーん難しい。とっかかり、えーと、どこだ。どれだ。あっこれか。

 感覚補助系のスキルを全部メインに入れて、エルルから竜族式精神鍛錬を受けていて、サービス初日から毎日欠かさずログインを続けた私でこれだ。やっぱりこれ難易度恐ろしく高いな?

 これを通常の召喚者プレイヤーが使える日は来るのだろうか……と思いながら、下手に使えると悪用する奴が出てくるか。と、考え方を変える。そうだな。規模と言う意味では小さくても、効果的には十分えぐいもんな。


「よし、行けそうです。エルル、一応閃光に注意してください」

「使った事あるから大丈夫だ。周りに巻き込まれそうなやつもいない」

「私も耐性系は全部有効にしてますし、覚悟良し。では行きます」


 ――ガッッッ!!! と、魔法的照明弾の何倍だ? という閃光が発生したが、誰も巻き込まれていないし、私にも被害は出ていないので良しとする。そして改めて黒い箱があった場所を見てみると。


「…………。何ですかね、これ」

「少なくとも、魔法自体の何かじゃないな。って事は、“影の獣”由来の何かって事になるが……」


 上手く黒い箱だけを属性転換できたらしく、そこには透明な箱が残っていた。それだけだったら何も問題は無かったんだが、その封印部分である透明な箱の中に、何か残ってるんだよな。

 一応封印状態のまま閃光を浴びせてみたが、変化は無い。封印と言っても光は通すので、これが“影の獣”の一部であるなら今ので消えるか、小さくなる筈だ。少なくとも、何の変化も無いって事は無いだろう。

 と言う事で、警戒しながら封印部分である透明な箱を解除する。ころころ、と空気の足場の上に転がり出てきたそれらは、何と言うか……ヤシの実を手のひらサイズにして、真っ黒にしたような、木の実っぽいものだ。とりあえず【鑑定☆☆】してみよう。


[アイテム:人工空間獣の種

説明:古代の技術で作られた人造生物の核にして種

   密閉度の高い容器に入れておくことで発芽し、成長する

   成長度に応じて容器内部の空間を広げる

   ただしこれ単体ではその規模を制御する事は出来ない]


「厄ネタじゃないですか!!」

「……人造生物ってマジか……」


 数えてみると6個あったそれらの鑑定結果は全部同じ。つまり、これが“影の獣”の正体って事だろう。まさかの情報に、流石のエルルも顔を引き攣らせてるじゃないか。ツッコミが追い付かないんだが!?

 碌なもんじゃないな古代の技術!? と、内心でツッコんだところで、気づく、というか、思い出すものがあった。まさか、いや、有り得る、か。あり得るな。だって、時代的には多分、合致するし。


「……エルル」

「何だ、お嬢」

「エルルが出禁を喰らった、あの亜空間での探索を覚えていますか」

「……4年前のあれか?」

「あれです」


 フリアド内部時間はリアル時間の4倍なので、リアル1年は内部時間4年だ。つまり、前回の5月イベントって事だな。

 あれは第二陣歓迎キャンペーンの最終幕であると同時に、レイドボスのお披露目イベントだった。そう、蔵猫族を酷い目に遭わせたあの爺さんの街で、「実体化した負の感情」とやらが初めて出て来たやつだ。

 ……そう。察しの良い人は同じく気付いただろう。


「後でエルルにも話したと思いますが、あれも確か、エルルの時代からしても、なお昔の時代に、大神が「大きな傷」として認定した案件だったんですよ。……似てると思いません?」

「…………………」


 そういう事だ。

 流石に先月レイドボスを撃破したばかりで、続けざまっていうのは無いと思うが。

 ……それぐらいには厄介、って事が、ほぼ、確定した、って事だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る