第648話 22枚目:行動方針

「随分動きが早いと思ったら、何だオヒメサマか」


 今度は入り口のところから「誰かおられますかー?」と声をかけてから洞窟に入ったので、山賊リーダーさんは宿光石のランタンを横に置き、ナイフの手入れをしているという姿勢で待っていた。

 雲竜族の子供達? 多分どっかの通路に避難してるんじゃないかな。というか、山賊リーダーさんが避難させたんじゃないかな。誰が来るか分からなかっただろうし。


「えぇ。ここは色んな意味でかなり重要な場所ですからね。可能な限り早く来ようとは思っていました」

「ほーん。ま、ともかくだ。こんな場所じゃ息が詰まるから、出来りゃぁさっさと通りやすい出入口を開けて欲しいもんだ。俺はオヒメサマみたいに、空を飛んだりは出来ねぇんでな」


 そう答えて、砥いでいたナイフを鞘に納め、別のナイフを取り出して砥ぎ始める山賊リーダーさん。うーん。ここだけ見るなら悪役ロールが徹底してるなぁ、と思うところだが……さっきの光景見ちゃってるからな。取り繕い感が。

 まぁそれはそっとしておくとして、たぶん山賊リーダーさんはさっさと私に出て行って欲しいんだろう。気持ちは分からなくもないが、うーん、と腕を組んで考え込む姿勢を見せる。


「分かりました、と、言いたいところなのですが……今回、ちょっと召喚者プレイヤー側の治安が不安なんですよね」

「あぁん?」

「何せ、私を見かけて「大物だ」と言って狩ろうとしてきた集団が居ましたし」

「はぁあ!?」


 はよどっか行ってくれんかな、という空気が駄々洩れだった山賊リーダーさん、私の話にぎょっと目を剥いて驚いていた。まぁそうだろうな。ただ、手元で何かギャリンって明らかにヤバい音したけど、ナイフは大丈夫なんだろうか。


「いや、びっくりしました。一回空中を飛んでるとこを叩き落とされましたからね。もちろん無傷な上に、確認できた範囲は返り討ちにしましたけど」

「おいおいおい、オヒメサマ相手にそりゃ無いぜ。ったく、どこのどいつか知らねぇが、もっと情報を集めてから相手は選べっつぅんだ」

「仲間も護衛もいないから大チャンスと言ってましたし、確実に「私」を狙ってはいたんですよね。頭の痛い事に」

「っはー、そんな命知らずがまだいるたぁなぁ……。いや、新しく湧いて出たか?」


 話を続けると、流石悪役ロールをやっているだけあって、すぐ話の問題点を察してくれた山賊リーダーさん。うん。湧いて出たっていうか、多分新しく始めた人なんじゃないかなとは思うよ。少なくとも確認した分は全員人間種族だったし。

 全体がどうかは分からないが、少なくとも一部にそういうのが居るんだ。何の対策も無く霧竜族の人達と雲竜族の人達の「非実体化」を解除すると、「狩り」の矛先がそっちに行ってしまう可能性がある。ので。


「そういう事ですから、出来ればエルルを呼んでから動きたいんですよ。ただしその為には、雲竜族か霧竜族の方から毛を貰って、100mの組紐を作る必要があるんですが」

「……あー、男の方の護衛か。まぁ確かに、いないだけでチャンスだって思うような頭の弱い奴らだ。どっちかでもいりゃ手は出さねぇだろうなぁ」


 このタイミングでの、雲竜族の方々の全面協力が必要なんですよ、と言うのは無事伝わったらしい。何せ彼ら自身が糸と言うか裁縫関係のスペシャリストだ。少々長いだけの組紐ぐらい、あっさりと作ってしまえるだろう。

 それに、「非実体化」していても喋ってる言葉は(対応スキルである【古代言語】があるか、同族であれば)分かるらしい。そして私は、現在の時点ですべてのスキルを戻している。

 ……ついでに、竜族の子供に対する対応と、皇族に対する反応を参照すると、だな。


「ところでオヒメサマ。何かこの洞窟寒くなってきたような感じがすんだが気のせいか?」

「私は召喚者という存在全体の評判を考えて行動しているだけですよ」

「…………確信犯とは、いよいよらしくなってきたなぁ、オヒメサマ?」

「誉め言葉ですね」


 まぁ、うん。順当に、多分まだその辺りで「非実体化」したままな雲竜族の人達の、怒りスイッチが入る訳で。そして多分、エルルを呼んで事情説明をしたら、エルルもかなり本気で怒る案件なんだよな。

 本当に、あの時たまたま私に近い位置に居た召喚者プレイヤーが、偶然そういう集団だった、ってだけなら、それでいいんだけど……そうじゃない可能性も、同じ位にはある訳だ。

 サバイバルで亜空間だからって、何をしてもいいって訳じゃないし。全く同じ状況が繰り返されると言っても、内部で起こった事が無かった事になる訳じゃないんだけどな。

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