第649話 22枚目:行動開始

 と言う訳なので、宿光石のランタンを使って洞窟に光を蓄積し、らせん状に上方向へ伸びている通路の幅をまず拡張。手に入った宿光石の欠片を使って、かき氷を作っていった。

 山賊リーダーさんが持ち込んだ、本人曰く「通した光が太陽光になるレンズ」だが、これはどうやら宿光石の研究成果というか、加工品の一種らしい。なるほど、通した光の性質を変化させるって辺りがそれっぽいな。

 私がかき氷を作りつつ、適宜洞窟を拡張。山賊リーダーさんがそのレンズを使って「非実体化」を解除、という流れで動き、私が途中で一回光の柱を設置し直しに行った辺りで、今回のステージで、この洞窟に集まっていた雲竜族の人達は、全員「非実体化」が解除できた。


「普段は私、こんな身分をかさに着たような真似はしませんからね。今回は時間を含めた色々が、本当に足りなさすぎるからこういう方法をとっただけで」

「……オヒメサマはもうちょっと身分をかさに着るって言葉の意味を調べた方がいいと思うぜぇ?」

「中身が結局どこまでも庶民ですから」


 問題無く話は伝わっているので、テキパキと骨を集めてブラシ、というか櫛かな。を作り、もっさもさになってるお互いの余分な毛を集める雲竜族の人達を見ながらの会話だ。私? 山賊リーダーさんと手分けして子供達のブラッシング担当。あー、もふもふ可愛い。

 それと、とりあえずこの洞窟にヘルマン君の家族はいないようだ。やっぱり1人だけはぐれたとかだと後に回されるか、「第五候補」のいるステージにいるのだろうか。

 しかしブラッシングの練習してて良かったな。気持ちよさそうにする猫サイズのもふもふ長毛ドラゴン可愛い。めっちゃ可愛い。エルルを呼ぶにはアイテムを呼び出すイベントアイテムの中でも一番枠の多い、5枠のアイテムが必要なんだけど、もうちょっとブラッシングしてていいかな。


――ドゴン!


 ブラッシングを終えたついでに撫でてみたりして、実にほのぼのと平和な時間を過ごしていた訳だが、そこに強い衝撃が走った。私や山賊リーダーさんは当然ながら、雲竜族の人達も即座に警戒態勢に入っている。

 この洞窟は山の中腹に近い。だからここまで衝撃を通すとなると、相当な威力が必要な筈だ。だが、メニューから確認したイベント空間内時間は1日目の昼、その午前中である。

 確かに洞窟の位置は変わらない。だから、ちゃんと地図を頭に叩き込んでいるか、それこそ「地図」を持ち込めば、山の斜面側から狙い撃つことは可能だろう。……狙い撃ったところで、それこそ私ぐらいのステータスが無ければ、衝撃を通すどころか凹み1つ出来ない筈だが。


「で。今の所、スキルを開放できるイベントアイテムは、もうほとんど残って無い筈なんですよね。山の南側は私が探索しましたし」

「色んな意味で容赦ねぇな。……じゃねぇ。こりゃやっべぇぞ、オヒメサマ」

「心当たりが?」


 つまり、ステータスを上げる手段は、現状売り切れ状態の筈だ。もちろんアイテムを呼び出すイベントアイテムで、ステータスをブーストする装備やポーションを呼び出せば別かも知れないが、それにしたって限度があるだろう。

 自分もこの洞窟にあった分を全部回収しているくせに、こっちにツッコんできた山賊リーダーさん。が、すぐに顔をぐしゃっとしかめて、唾を吐きそうな調子で、警告を口にした。

 私は思い当たらない。だからおろおろする雲竜族の子供達を撫でて宥めつつ聞き返すと、数秒、口を引き結んで黙った後。


「スキルじゃねぇ。魔法でもねぇ。まさかオヒメサマ並みのステータスなんて他の奴にある訳がねぇ。んなら、こんな威力を出す手段なんざ、もう1つしかねぇじゃねぇか」


 スキルでも、魔法でも。当然ステータスの暴力でもない。となると、所謂能力以外。つまり、アイテムだ。

 アイテムを呼び出す事の出来るイベントアイテムは、主に平地で手に入る。だから、アイテムだとすれば、それこそ優先するものが無ければいくらでも投入できるだろう。

 で。アイテムで、これだけの威力を出せるもの。恐らくこの世界フリアドで、現状最も火力があるアイテム、と、言えば?


「…………っ、そう言えば確かに、最悪の更に下がありましたか!」

「こりゃ護衛呼ぶとかそんな場合でもねぇかもなぁ。通路を完全に開けてなかった、ってのがまだマシか?」


 私が思い至り、山賊リーダーさんが目を眇めている間に、もう一度、ドゴン! という音と衝撃が走る。私達の態度に不吉な物を感じたのだろう。雲竜族の人達も警戒のレベルを引き上げたようだ。

 で、そのアイテムって結局何の事だって? スキルでも、魔法でも、ステータスでもなく。純粋に、技術だけでこれだけの火力を出すアイテムなんて、さっき山賊リーダーさんが言った通り、1つしかない。

 つまり。


「……もちろん、アイテムはアイテムですから、それだけで決め打ちとはいきませんが――」

「ま、最悪の最悪は考えとくべきだろうなぁ」


 火薬・・だ。

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