第640話 22枚目:目的地決定

 唖然、もしくは呆然と私の発した言葉のインパクトにやられている3人の意識を、こほん、と咳払いする事で引き戻す。そして、そのパニックのまま喋り出す前に、気持ち早口めに続きを口にした。


「その封印を解く方法、ならびに、封印を解いた際に何が起こるか、というのは、既に託宣と言う形で示されています。現在も多くの方々の協力を得つつ準備を進めていますし、その準備が整い次第実行に移すつもりです」


 まぁつまり、「解決は出来るけど、ちょっと待ってね!」だ。どうやら目途が立っているという部分で冷静さを取り戻してくれたらしく、代表者さん2人はほっと息をついて、サーニャは同じく息をついて、はっとしたように乗り出していた姿勢を戻した。

 うん。エキドナ様の話って、そのことだったからね。もちろんカバーさんにも相談したし、物資や根回しを含めた下準備は着々と進められている筈だ。もちろんイベントへの対処は別にやってるんだから、本当有能なんだよなぁ。

 だが我に返った代表者さん達にとっては、どちらも難ありという事になってしまう。うぅん、と地図を見て悩んでいるので、かなり難しい問題だろう。


「……姫さん。もしかしてその封印って、エルルリージェに連れられて、畑っていうか、土と野菜を回収しに行ったあそこ……?」

「あそこですね」

「あぁ、なるほどね……。それであんな、妙な結界の張られたやたら大きな谷が出来てる割に、周りの地形はほとんど変わってなかったんだ……」


 が、どうやらサーニャは、その言葉で思い当たる節があったらしい。あー……、と、珍しくちょっと疲れた感じの息を吐きながら、再び護衛としての位置に戻っていった。どうやらサーニャも、あの谷には妙な物を覚えていたようだ。

 喋っている私自身もなかなか酷い2択だとは思うが、残念ながら他に選択肢はない。北国の大陸にある竜都に行ったところで、結局そのどっちかに行くことになるからね。恐らく、他の大陸にある筈の竜都も同様だろう。

 ……というか、推定最後の大陸に至っては、竜都自体が無い可能性まであるからな。何せ皇族の子供が誘拐されたんだ。ガチギレした時のエルルや、サーニャの心配の方向から、反撃はしたけどそれで済ませたって事は、そこに街が無かったからじゃないか? って、ちょっと思うんだよね。


(……あったとしても撤退してそうだな。もちろん再利用できないように、今回ばかりはときっちり全部壊した後で)


 下手したら家も何もかもバラして運ぶという荒業も使えるからな。ステータスの暴力が種族特性だし。実際の所はどうか分からないけど。

 私がそんな、脇道に逸れる感じの事を考えている間に、どうやら代表者さん達は小声で話し合い、結論を出したようだ。


「まずはご相談に対する素早い対応と、分かりやすいご説明に感謝を」

「訪れる災禍を黙っている事も出来たのに、残らず話してくれたその誠実さに敬意を」

「真剣で、真面目で、これ以上なく重要な話なのです。こちらも相応の態度と覚悟を持って対応せねば、それは卑怯というものでしょう」


 再び、床に額がつきそうな程頭を下げる2人。それに柔らかく、皇女ロール仕立てにした言葉を返し、顔を上げるように促してから、結論を聞く態勢に入る。


「我々は、こちらの竜都に身を寄せようと思います」


 そして揃って指し示されたのは……最初の大陸、現在進行形で封印を受けている方の竜都だった。んん、結構な時間をスキップする事になる訳だけど、それでいいんだろうか?


「我々は、竜族としては弱小に属する種族です。もちろん、自らの長所を伸ばす努力は続けますが、やはり単純な力、体格、そう言ったものは無視できません」

「現状ですらそうなのです。もちろん、伸ばすべき長所があり、そこは先祖から受け継いだ技術共々私達の誇りですが……それでも、始祖の祝福と加護を、自らの子に与えられないというのは、受け入れられません」


 なるほど。始祖の祝福と加護、という名のスキルは、その全てがステータス補正だ。一般種族に比べれば十分ステータスが高い筈の雲竜族と霧竜族だが、確かに竜族という括りの中で生活するなら、それを欠かす事は出来ないのだろう。

 それに封印を受けるとは言うが、エルルの様子を見る限り、本人の主観では封印されていることを認識できない。つまり、それこそ一晩寝て起きてみたら滅茶苦茶時間が経っていた、という感じになる。

 恐らくスピンさんとのやりとりで、スピンさんが彼らの生きている時代を察したのと同様に、彼らの方もギャップがある事に気付いたのだろう。そして、こんな不思議を一度経験したのだから、二度も同じ事だ、と思ったのかもしれない。


「分かりました。とは言え、私はまだその封印の内部に踏み込んだ訳でもなく、またその巨大な災いが、あなた方においてどれほどの未来に起こるかも分かりません。……どうかお気をつけて」


 それでも、臨時とは言え代表を務めているだけ、話を聞いて想定できる、その程度の苦難は覚悟済みだったのだろう。

 ありがとうございます、と再び頭を下げた2人の揃った声は、少しも揺れていなかった。

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