第639話 22枚目:目的地相談

 そんな感じで何事も無く過ぎていくと思われた最終日だが、何故か私は再び霧竜族の代表者さんに呼ばれた。説明は大体全部スピンさんがしてくれてる筈なんだけどな?

 はて? と思いながらも行ってみると、そこには霧竜族の代表者さんだけではなく、昨日の夜にちょっとだけ挨拶という形で顔を合わせた雲竜族の代表者さん(こちらは女性)が揃っていた。

 なおヘルマちゃんは何気にこの人の娘だったらしい。今は私では無く、お母さんである雲竜族の代表者さんに張り付いている。どうやら元々、こうやって張り付く癖のある子だったようだ。可愛いな。


「大体もう決めるべき事は決めた筈ですし、何より私が居ると逆に話が進まないのでは?」

「いえそれがですね。色々とお話を聞いたところ、どうもサーニャさん達の時代より「前」に当たる時代の方々のようでして。この場に居る中で、竜族関係で地理的な情報を一番持ってるのはちぃ姫さんですからね。この島を離れるのは決定事項として、どこへ向かえばいいか、というのをご提案頂ければと!」

「あぁ、なるほど。それは確かに」


 なるほど、そういう事なら確かに私が適任か。現代竜族と古代竜族の違いも、その原因が出来る理由も知ってるからな。後は、現代竜族のいる竜都はともかく、エルルがいた竜都の現状と場所は分かっているし。

 なので素直に気球に下げられている籠の、区切りを作って部屋の代わりにしている場所へと移動する。魔法とスキルってすごいよね。この大きさの気球を安定して浮かべられてるのも当然として、それに下げる籠もこんなに大きくできるんだから。

 部屋代わりの場所に入って、まずお互いに挨拶。立ち上がって挨拶してもらったのを座って貰い、彼らと対面に位置する場所へ座った。椅子も机も無いけど、基本布製だから柔らかいんだよね。


「それでは私は失礼させて頂きますね! 合わせて可能な限りの人払いをしておきます!」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 スピンさんが気を利かせて部屋から出てくれたところで、部屋の中央に置いてあった、半分ほどしか埋まっていない地図を改めて見る。

 最初の大陸と北国の大陸、氷の大地は測量が終わっている。そして最初の大陸の、東側に広がる群島もそれなりに調査が進んでいるようで、この3ヵ所については細かく書き込まれている。

 だが、あと4つある大陸はざっくりとした場所が囲まれているだけで、形や正確な位置関係は分からない。というか、推定一番最後になる大陸に至っては、その大きさすらちゃんと掴めていないようだ。


「さてそれでは、どこへ移動すればいいか、というご相談との事ですが……。何か希望や、逆に避けて欲しい条件等はありますか?」

「はい。皇女様のお時間を頂いてしまうのは申し訳ないのですが」

「お気になさらず。一族の運命を賭けた引っ越しなのです。急な話ではありますが、だからこそ慎重過ぎるぐらいの方が良いでしょう」

「勿体ないお言葉です。……その、条件なのですが。場所によって、竜都は放棄された、と聞きまして……」

「我々は、さほど直接の力を持ちません。そして、急激な環境の変化にはあまり耐えられないのです。ですので、可能なら皇女様の知る現在に至るまで、健在であり続ける竜都へ向かいたいのですが……」


 なるほど。一般召喚者プレイヤーの間で北国の大陸の竜都が一番よく知られてるからな。だがあそこは、世界規模スタンピートの際に放棄されている。しかも環境に至っては、極寒と灼熱に挟まれていて安定とは程遠い。女神達の(主に一方的な)喧嘩に巻き込まれる事もあるだろうし。

 だがそれ以上の情報は、恐らくカバーさんか、『アウセラー・クローネ』にいる元『本の虫』組の人達なら知っているだろうが、スピンさんは『可愛いは正義』に所属している。一応機密情報なので、知る事が出来なかったのだろう。

 なるほど、と呟き、数回頷いて見せてから、ちょっと考える。


「……そうですね。私の知る限り、現在まで機能ごと残っている竜都は、2つあります。1つはこちらの大陸、中央からやや南西に向かった場所。そしてもう1つ、こちらは詳しい位置は分かりませんが、この大陸にある竜都です」


 考えてから、まず私は最初の大陸を示し、次に、北国の大陸の東側……流氷山脈に遮られている、その向こうの大陸を示した。何で知ってるのかって? エキドナ様に聞いたから。

 神器が無いから様子を見たり聞いたりする事は出来ないらしいが、それでも大体の場所ぐらいは分かるらしい。だから、現代竜族が次の大陸に居る、というのは、一般には伏せられているが確定情報である。

 え、残りの3つの大陸にはいないのかって? ……話に出てこなかったって時点でお察しなんだよな。大体、推定最後になる大陸に至っては、世界規模スタンピートの原因となった、異世界の侵略者を招いた「あの」国がある大陸だ。推測だけど。


「ただし、その経緯は大きく異なります。後に示した竜都は、連綿と血が受け継がれ、世代を超え、現代に至るまで竜族という種が続いている竜都なのですが……理由は分かりませんが、その歴史の途中で、始祖の祝福と加護を授かる為の神器が、紛失しています」

「「!?」」

「待って姫さん、ボクそれ聞いて無いんだけど!?」

「言ってませんからね、そうなると思ったので。エルルも同様です」

「うっ」

「帰っても言わないで下さいね?」

「えっ」


 北国の大陸、その地形的中央に位置する竜都の、隠し部屋。そこにあった情報と、エキドナ様からの話で、これは確定情報だ。神器の紛失、それも、始祖の祝福と加護を受けるものが、なんて、驚くなという方が無理だろう。

 ざぁ、と、血の引く音が聞こえそうな程一気に顔色が悪くなった2人だが、残念ながらまだ話は終わらないんだよな。むしろ、より問題が大きいからこっちを後回しにしたまであるから。


「そして、先に示した竜都は、私の知る現在においては遥か過去、そして、恐らくあなた方にとっては未来において発生する、巨大な災い。それを食い止める為に、父祖が封印を受ける事になります」

「な!?」

「は……!?」

「そうだったの!?」

「……こちらの竜都は、父祖と共に、災害を食い止める為、その周囲の空間を含めて封印され、未だその封印は解かれていません」

「「「!!??」」」


 サーニャも一緒になって驚いているが、これも残念ながら確定情報なんだよなぁ。こうやって驚いて、パニックになるから伏せてただけで。

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