第641話 22枚目:ステージ終了

 その後夕方ギリギリまでかけて可能な限りの準備を整え、雲竜族の人達と霧竜族の人達を乗せた気球は、東の方へと去っていった。一応念の為、夜が来る前に島を脱出してもらったのだ。

 もちろんそこまでに私は可能な限りの光の柱を設置する事で推定“影の獣”を削ったし、谷の形が見える所までは削れたし、そこから召喚者プレイヤー全員総出で谷の側面へ光属性の壁魔法を設置しまくった。

 当然灯りも設置したし、宿光石の鉱脈も(それなりに採掘して量は減ったけど)きっちり光で満たし切ったし、対策出来る範囲は全部対策したのだ。


「…………まぁ、その結果はこうですけど」

『何と言うか、これは酷いね』

「そうですね! 実に殺意が高いです!」


 まぁ、それこそ雲まで届こうかってレベルで、文字通り溢れかえった推定“影の獣”には勝てなかったけど。この後のステージに繋ぐべく、各クランから情報を持ち帰る為の代表者を選んでサーニャの背中に乗せてもらい、雲すらも眼下に見る程の超高高度へ退避しなければ、何が起こったのかも分からなかっただろう。

 また推定“影の獣”だが、やはり「影を伝って迫って来る」という性質があるらしく、いくら高度をとっても追いすがられた。ので、現在は、私が特大の空気の足場を展開して光る床を設置し、その上にサーニャが居る。

 もちろんこうしている間も魔法的照明弾は落としてるんだけど、減った気がしないんだよなぁ。


「ま、今回はまず第一に情報を集める事が目的でしたから、それは達成できたと見ていいでしょう。本番は次からです」

「えぇ、今度は全ステージであの黒いのを撃退してやりましょう! まぁ撃退しようと思うとまた別の問題が出てくるんでしょうけど!」


 スピンさんの宣言に、代表召喚者プレイヤー達も「おー!」と唱和する。もちろん、後半も含めてだけど。ははは、一難挑めば更に一難ってか。せめて解決してから来てくれないかな。




 その後、東の空が白み始めた辺りで大きな魔法陣が現れ、そこに吸い込まれる形でログアウトさせられた。ログイン時間には含まれないがログイン制限は存在する。いやーしかし、妙な感じだな。

 頭の中にはしっかり5日過ごした記憶があるんだが、カレンダー表示付きの時計を見ると、同じ日の3時間後だ。軽く体を動かしてみるが、現実のいつも通り程度に動く。うーん、結構混乱するな、これ。

 お昼はログイン前に済ませたので、お腹もそこまで減っていない。と言う事で、外部掲示板のチェックだ。


「……あー、なるほど。全員条件が同じだからか」


 そうしたら、イベント関係のスレッドが乱立し、その全てがかなりの速さで流れている、という状況になっていた。現在の私同様、少しでも早く情報を得ようとして動いているプレイヤーは多いという事だろう。

 全体の流れを追う事は諦め、1レス目の注意書きがちゃんとしていて、番号の多い、情報交換を呼びかけるスレッドをいくつか選び、さらにその中から一番冷静に話が進んでいそうなものを選んで追いかけていく。

 うーんこれは、しかし、何と言うか……。


「空に逃げたはいいが、そこから盛り返せずに死に続ける状態に陥ったステージ多数かー……」


 しかもどうやら、昼の間に一定以上推定“影の獣”を削る事が出来なければ、次の夜に目に見えて大量の推定“影の獣”が湧き出してくるらしい。その状態で3日目の夜を迎えると、私達のステージでは最終日の夜に発生した、あの状態になるようだ。

 で、1人も生き残りが居なくなり、復活する事が出来る場所も無くなると、その時点でリザルトが流れて追い出されてしまったと書いてある。同様の話が結構な数出ているらしく、はっきり言って大惨事だろう。

 うわぁ……と思いながら読み進めていくと、徐々に生き残った時間の長いプレイヤーの書き込みが増えていった。それを読み進める限り、一度でも推定“影の獣”に島中が覆われると、野生動物がいなくなるのは確定情報で良いらしい。


「へぇ。松明の火でも、近くで固定しておけば剥がせるのか」


 何の事かと言うと、宿光石の大岩の事だ。もっと言えば、その表面を覆っていたあの黒いやつである。何か意味がありそうだ、というのを察したそのプレイヤーによって、1日目の昼から大岩の表面を剥がせたステージがあったようだ。

 松明にかがり火、焚火に竈と、火を使って灯りが出るものをその大岩の近くに作りまくったそのプレイヤーによれば、1日目の夜の規模であれば、大岩にちゃんと光が蓄積されていれば、それ単体でしのげるらしい。

 で、その1日目の夜だが、推定“影の獣”である黒いのに襲われる少し前に、野生動物が大挙して森の開けた場所、宿光石の大岩の周りにやってきた。そのプレイヤーが、は!? 何!? と思っている間に推定“影の獣”の襲撃があり、これか!! と秒で納得した、と書き込んであった。


「推定“影の獣”の襲撃がある間は、一塊になって大人しいものだったと……朝になったら脱兎の勢いで散っていったとは言え、これは有力な情報だな」


 つまり、モフり放題。……ではなく、野生動物の保護って意味で。どこかの箱舟神話ではないが、雲竜族と霧竜族の人達の引っ越しが、生きた動物込みで出来る可能性があるって事だからな。

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