第633話 22枚目:理由推測

 このままイベントが終わるまで、2日半の間飛びっぱなしでも問題無い、と言っていたサーニャ。その言葉通り飛び続けるその姿勢には僅かな揺れも無く、立派な空中要塞となっていた。

 で、ここまでの調子で太陽が真上に昇るまで頑張ってみた結果、どうにか、北の端に当たる海岸の辺りから、本来の地面が見えるようになってきた。


「やっぱり源泉というか原因は、南の山、あるいはあの谷という事ですね」

「そうですね! ただやっぱりどうしてこんな量が急に出現したのかは分かりませんけど。本当に単なる時間経過かと言われると、かなり怪しいですからねー」

「そうですね。流石に私とサーニャが居てようやくというのは…………まさか以前の時のように一定以上のステータスを持つ参加者がいるせいで?」

「う、うーん……否定は出来ませんが、その、何と言うか、若干弱いかと!」


 スピンさんにフォローをさせてしまったが、実際あり得るから困る。無いとは思いたいんだけどな。たぶん。恐らく。

 まぁとにかく、今はひたすら光を叩き込み続けるしかない。と、お昼時のご飯を再び宿光石の欠片を凍らせ、かき氷にして雲竜族の子供達に配りながら全体の様子を見る。うん、山というか谷もだいぶ見えて来たな。

 ……しかし、何回見ても変な形というか、不自然な谷なんだよなぁ。ケーキに切れ目を入れるのとはわけが違うんだぞ。主に規模が。


「……サーニャ。ちょっといいですか?」

『どうしたの姫さん』

「大分谷の形が見えてきましたけど、あれ、地の底に繋がってるのかと思う程深さがあるんですよね」

『えっ!? そんな思いっきりいく感じだったの!?』

「スクショ……写真がありますけど見ます?」

『うわホントだ、真っ二つになってる!』


 しゅっと顔を出してくれたスピンさんにより、山頂から見た、底が見えない程深い谷の姿が、画像と言う形でサーニャに提示された。滞空姿勢は維持したまま驚いたサーニャだが、何故か、僅かに首を傾げる。


『……っていうか、なんかこう、綺麗過ぎない? だってどう見ても山を切った風にしか見えないけど、魔法で吹っ飛ばしたらもうちょっとこう、削れるというか、そう、左右で高さが一緒なのがおかしい!』

「左右で、というと、谷の左右で、山の形がぴったり合うのがおかしい、と」

『そう! だってこれじゃ切ったっていうか、割ってずらしたって感じだよ』


 割ってずらした、という表現を受けて、改めてスクリーンショットを見る。……あぁうん確かに、何と言うか、本当に切れ味のいい刃物で切り割ってから、すっとずらして隙間を開けた感じだな。

 が、相手は山だ。それも結構高い山だ。そんな大質量を相手に、そんな事が出来るかと言われると……まぁ、難しい。というか、実質不可能だ。

 なのだが、その実質不可能が起こっているのが、この山と谷な訳で。


「言われてみれば確かに、ですが、そうだとすると一体どんな方法を使ったのやら……」

『うーん……この山を切れるぐらい切れ味が良くて大きな斬撃系の魔法ってなると、やっぱり空間属性になるかなぁ。それならその後ずらすのも出来るだろうし……』

「サーニャさん、宜しければその辺り詳しいお話を伺いたいのですが!」

『と言っても、ボクもそんなに詳しくはないよ?』


 空間属性ってそんな危険物扱いなのか……と思ったが、ゲームやらでは「空間ごと斬る」系の技が最高威力な事が多いなそう言えば……と思い直して納得した。

 そしてその納得は合っていたらしく、そのコミュ力でスピンさんが聞きだしてくれたところによると、空間属性による斬撃系の攻撃は大まかに2つに分かれるらしい。

 そしてそれもそのまま、「減らす」か「増やす」2択なのだと言う。


『だからつまり、「斬りたい場所にある物を空間の何処かにやってしまう」か、逆に「斬りたい場所に何らかのものを割り込ませるか」になる訳だよね』

「なるほど! ちなみに、サーニャさんとしてはこの谷はどちらが近いでしょうか!?」

『うーん、どっちかっていうと「増やす」方かな。この空間自体を割り込ませたとするなら、斬れた上にずらせるから』

「となると、この谷というか、隙間自体が何処からか持ってこられた可能性もある訳ですね!」

『うんそうだね。まぁ大体の場合、何もない空間をどこからか引っ張ってくる形になるって聞いたんだけど』


 という事らしい。なるほどなぁ。


「……ところでスピンさん。私、非常に嫌な予感がしているのですが」

「ちぃ姫さんの嫌な予感は当たりますからね! ぜひ明文化をお願いします!」


 うん。サーニャの見立てによれば、あの谷は「どっかからこの場所に持ってきたもの」である可能性が、まぁそれなりにある訳だ。サーニャは「何もない空間」を引っ張って来たんじゃないかと予想しているんだが、それはそれとして。

 ここでちょっと、イベントの前提を思い出してみよう。そう。このサバイバルイベントにおいて、召喚者プレイヤー達は力を制限された上で……ランダムなステージに分かれて、参加する事になる。

 そして。全ての時間加速、全てのステージにおいて。内部の状況は、全くの、同一、なのだ。


「この谷。……言うなれば、ルーズリーフをとじる為の穴とか、単語帳のリングを通す穴とか、そんな感じのものなのでは?」

「なるほど、他の完全に詰んでしまったステージから“影の獣”が合流しちゃったという可能性ですか! ……十分にあり得ますね!」


 そもそも、元々が例のレイドボス、“凍て喰らう無尽の雪像”の影響でおかしくなった空間に、莫大な量の空間の歪みが溜まっているというバックストーリーだ。

 どうやってそういう状況にしているのかは分からないし、これはあくまでも予想でしかないのだが……やはり最終的には、全てのステージで上手くやらなければ、雲竜族や霧竜族の救出とかには、手が届かないんじゃないだろうか?

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