第634話 22枚目:現状進捗

 まぁこれはあくまで予想でしかないし、実際の所はこのステージが終わって通常空間に戻り、他のステージの情報を集めて検証してみなければ分からない事だ。幽霊状態になったとしても、検証班の人達はスタミナ切れで強制睡眠に入らなくなった、としか思わず、観察を続けるだろうし。

 という訳なので、お昼ご飯を食べたらまたひたすらに推定“影の獣”へ光を叩き込み続けるお仕事だ。単純作業? いいえ、もっふもふな雲竜族の子供達のお世話をしながら可愛い好きな他召喚者プレイヤーの人達と語らう楽しい時間です。

 どうやら推定“影の獣”は太陽の光でも大分削れていたらしく、真上から傾いたのが分かるぐらいになると、もう覆われているのは南端の山ぐらいになっていた。実に順調だ。


「ところでスピンさん。大事なお話があります」

「ものすごく大事なお話の気配!」

「これとこれを、お預けしようと思うのですが」

「本当に心底大事なお話でした! えっいいんですか!?」

「手分けしないと、霧竜族の方は手掛かりすら手に入らなくなるでしょう?」

「確かに!!」


 という訳で、スピンさんに宿光石の欠片と共に、かき氷機と「氷砕ハンマー」を手渡した。ちなみに貸し出しとかレンタルというシステムは無いので、悪意のある相手だとそのまま持ち逃げされる可能性もある。気を付けようね。

 私は引き続き山を覆っている推定“影の獣”に光を叩き込むお仕事だ。これ、一か所でも宿光石の鉱脈が露出すれば後は早いと思うんだけどな。


『え、姫さんそれはどうして?』

「あくまで感覚なんですけど、私達が魔法で出す「強い光」より、宿光石が放つ「影の出来ない光」の方が、あの黒いのに対する効果が大きいような気がするんですよね」

『そうかなぁ』


 まぁあくまで感覚だ。……“影の獣”という名前は確定しているから、その名前から、若干の推測は出来なくもないけど。

 とりあえずその辺も要検証だろう。何せイベントの、一番最初のステージだ。全く、全然、これでもかという程に、情報が足りていないんだ。なら、集めるしかないだろう。




「ちぃ姫さーん! サーニャさーん! ちょっとよろしいでしょうかー!?」

「おや、どうしました?」

『何?』


 そろそろおやつの時間かな、と思う程度に太陽が傾き、谷の姿もどうにか最初見た時ぐらいには見えるようになってきた頃。今度は「空の魔女」さんの箒に乗せて貰ったスピンさんが、相変わらず光の柱を並べている私と、空中拠点になっているサーニャの方へとやってきた。


「それがですねー! 無事お借りしたかき氷機で、霧竜族の大人の方が実体を取り戻されたのですがー! ちぃ姫さんにお会いしたい、と言っておられるんですよー!」

『あー、まぁそうなるかな。皇族が居るなら挨拶はしたいか』

「そういう感じなんですね。まぁ気にするなとも言えませんし、むしろあちらが気にするでしょうし、とりあえず挨拶だけ行きますか」

『姫さんはもうちょっと自分の立場を自覚してくれないかなぁ』

「これでも自重と自覚はするようにしてるんですけど」

『うん。全然足りないから』


 山もその大半が元に戻り、一部宿光石の鉱脈が露出している部分の一部に、私が光の柱を設置しておいたのもあって、推定“影の獣”への攻撃はかなり加速したと言っていいだろう。

 切り分けられたような谷の向こう側、山の南側に当たる斜面の探索は他の召喚者プレイヤーの人達がしてくれてるし、これならちょっと休憩という名の挨拶に行っても問題無いだろうか。

 ……出来れば夜に備えてまだまだ頑張りたいのだが、霧竜族からその辺対策出来るという話が出てくるかもしれないしね。雲竜族の説得が出来るとかでも歓迎。


「まぁ夜の間だけ子供達を乗せて、空へ避難してくれればそれで十分なんですけど」

「どうだろう。ヴォルケの一族はともかく、ネーベルの一族はそもそも高い所が苦手じゃ無かったかな」

「あぁ、だから平地に住んでいるんですね」


 雲竜族の子供達は再度光を満たした宿光石の洞窟へと移動してもらい、ついでにかき氷機と「氷砕ハンマー」もそちらに移動したようだ。まぁ雲竜族の大人からも話を聞きたいからね。今サーニャがぽろっと零した分だと、雲竜族の方は空へ逃げるって手が使えそうだし。

 スピンさんに案内されたのは、島の中央にある森林地帯の内、西に寄った場所にある一際大きな湖のほとりだった。上空からでは見えなかったが、ここに育つ木は空に向けて葉を伸ばす為、幹がつるりとして綺麗に伸びるらしい。

 つまり葉と枝による天井が、幹による柱で支えられた感じの空間があるって事だな。どうやらネーベルの一族こと霧竜族の大人……というか、この分だと長的な相手だろう……は、最初からずっとそこに居たようだ。


「一見見通しが良いわりに物影が多いので、糸による罠は大変仕掛けやすいでしょうね。根っこも意外と地上に張り出してますし、頭上の枝葉の密度は高いですし、色々隠しやすそうです」

「さらっと言ってるけど、姫さんはそういうのが得意なの?」

「ボックス様がボックス様ですからね。「第四候補」程では無くても、防衛戦に関しては多少心得がありますよ」

「……あー、あの亜空間の試練で、あの白い箱みたいな領域を作ってた神様か。なるほどね」


 歩きにくいって程ではないが、何と言うか、色々仕掛けがいのありそうな地形だ。罠を主とする種族にとってはまさに天然の要塞だろう。ルフィルとルフェルも喜びそうだな。

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