第632話 22枚目:検証続行

『(おなかへった。おなかへったー)』

「はいはい。朝ご飯にしましょうか」


 つんつくつんつく、背中をつつかれるというか甘噛みされるというか、そんな感覚と共にそんな声が頭に響く。あ、これ同族補正のあれだわ。と思った時点で相手も分かったので、一旦光の柱の再設置を中断して、サーニャの背中の上へと戻った。

 現在は夜明けから2時間ってとこだろうか。太陽はそこそこの位置まで昇っていて、推定“影の獣”の状態は、ぼんやり森等の地形の輪郭が見えて来た、という感じだ。

 正直火力が足りるかどうかは微妙なのだが、それとこれとは話が別だ。ちゃんと休憩しなければ、最高火力をたたき出し続けるのは難しい。それでなくても、結果的に徹夜しちゃってサーニャから注意されてるっていうのに。


「って、あなたまた半透明になってるじゃないですか」

『(やっ)』

「やっ、じゃないです。見えなくなったらご飯あげられませんよ」

『(かたい。おいしくない。やっ)』

「結構おいしいですけどね、宿光石。可食スキルのレベルによるんでしょうけど」

『待って姫さん。いつの間に食べてたの!?』


 そりゃまぁ魔法的照明弾をぽいぽいしている夜の間にぱくっと。何ていうか、こう、繊維質的なさくさくでほんのり甘い感じだった。冷たくないアイスバーっていうのが一番近いかな?

 宿光石の味と食感はともかく、半透明になってるからには宝石を食べないとまたあの全く認識できない状態になってしまう。それは困るのだが、どうもヘルマちゃんは宿光石がお気に召さないようだ。

 ぷいっと顔を背けられてしまうが、かといって無理やり口の中に押し込むわけにもいかない。どうしたものかな、とちょっと考え。


「そう言えば良い物があったんでした」


 と、取り出すのは例のかき氷機だ。それを慎重にサーニャの鎧の上に置いて、インベントリから宿光石の欠片を取り出す。やっ! とばかりヘルマちゃんは私の背中へ逃げてしまったが、もちろんこのまま食べさせるわけではない。

 しっかりと「月燐石のネックレス・祝」から延びる鎖を持ち手に巻き付けた「氷砕ハンマー」で、宿光石の欠片を軽く叩けば、大人の拳ぐらいあるその欠片は見事に凍り付いた。

 で、その凍り付いた宿光石の欠片を、かき氷機にセット。ハンドルを握った時点でガラスっぽい皿が出現しているので、そのままぐるぐると回していく。


『(なにそれ)』

「かき氷といって、冷たくて美味しいお菓子ですね」

『(おかし!?)』


 ガリガリガリ、という音を立てて細かく削られた氷っぽいものが詰み上がっていく様子に、ヘルマちゃんだけではなく周りの雲竜族の子達も興味津々のようだ。好奇心旺盛、なるほど?

 ぱったぱったと揺れる尻尾から、おかし、おかし、という楽しそうな同族補正による声を聞きつつ、凍り付いた宿光石の欠片を削っていく。私のステータスをもってすればさして時間をかける事なく、こんもりと積み上がったかき氷が完成した。

 ちなみにこのかき氷機、削りながらシロップを混ぜる事で味が全体に行きわたる、という構造をしているらしく、このままで美味しい。もちろん、トッピングを追加するのは自由だ。


「はいどうぞ」

『(おかし!)』


 皿ごとかき氷機から外してヘルマちゃんの前に持っていくと、顔から突っ込むようにして食べ始めた。うーん、口の周りどころか目の近くまで氷がついてる。これは後で綺麗にするのが大変だな。


『(おいしい!)』

「それは良かったですね。……半透明状態もなおったみたいですし」


 幼いとはいえ竜族だからか、かき氷を一気食いしても頭がキーンとならないらしいヘルマちゃんは、半透明ではなくなっていた。どうやら可食物に変わっても、宝石を食べたという事には変わりがないらしい。

 さて。このヘルマちゃんの様子を見て、他の雲竜族の子も目をキラキラさせて待ってるから、しばらくは宿光石の欠片でかき氷作りだな。あの、美味しそう……って目には逆らえない。


「そう言えば可食スキルに関する情報なんですけど、レベルが低いと満腹度がそんなに増えないみたいですね! だからもしかすると、可食物になることでより長い時間「非実体化」状態にならずに済むかもしれません!」

「なるほど、腹持ちがする、あるいはちゃんと吸収できるって意味でしょうかね。それなら、とりあえず今回のご飯は全員かき氷にしてみましょうか」


 スピンさんからの追加情報もあったし、これは頑張るしかないな。

 まぁ幸い、あの通路の拡張を終えていたから、インベントリの中にはいっぱい宿光石の欠片がある。少なくとも、もう何食か分ぐらいは全員に行きわたるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る