第631話 22枚目:検証と推測

 とりあえず様子見としてバフを目一杯にかけたサーニャに、推定谷があった場所へ全力のブレスを叩き込んでもらったが……かなり大きな波が起こったものの、山の形が崩れる事すら無かったので、これはかなり頑張らなければいけない相手だ、という事が判明した。

 と言う事で召喚者プレイヤーの人達はスピンさんを含めてサーニャに【光古代魔法】のレクチャーを受け、私は【飛行】と【風古代魔法】を使ってあの光の柱を叩き込むことにする。


『……姫さん、その魔法だけど、ずーっと魔力を注ぎ続けるんじゃなくて、設置型に出来るんだよね。知ってる?』

「少しでもたくさん光属性の攻撃を叩き込まなければなりませんから、是非教えてください」

『ほんとはもうちょっと大人になってからの方が良いんだけど、ずーっとそのままの方が体に良くなさそうだからしょうがなくだよ?』


 大分【並列詠唱】のレベルも上がってきて、現在の詠唱枠は確か4つだった筈だ。ただ【無音詠唱】の方が2つしか枠が無いので、ここまでは結果的に3つしか運用できていなかった。

 なので、広げた両手のそれぞれ先に魔力で出来たレンズを作り出し、光の柱を2つ同時に叩き込んで、灯りを追加しつつ時々地上へ照明弾を落とす、という形で地上の推定“影の獣”を叩いていると、サーニャからそんな提案があった。

 どうやら魔法の使い過ぎはやっぱりもにょられるらしいが、ともかく。サーニャに聞いた方法は、と言うと。


「無属性と光属性の輪を交互に重ねてから、最後に闇属性の輪をかけるんですか?」

『そうだよ。光の魔法に闇の魔法を重ねると、術者とのリンクが切れるからね。それに太陽の光を集めて増幅する魔法だから、維持するだけなら実はそんなに魔力はいらないんだよ』

「なるほど」


 ちなみにこの話に出てくる輪とは、「ライト・サークル」の属性違い、つまり効果時間を延長し魔法を長持ちさせる、外付けの予備タンクのような魔法の事だ。

 それはともかく、これで光の柱を並べていく事が出来るようになった。いやー、大火力による推定“影の獣”の一掃が実に捗るね!


「もはや光の柱って言うか光の壁ですねちぃ姫さん!」

「まぁステータスは通常空間と同じ状態に戻ってますからね。設置型にする事で手数を増やせるんならこうなります」

『あんまりそういう、大きな魔法を連発してほしくないんだけどなぁ……』


 とりあえず谷だった部分はこの光の柱の列を維持する事にしてだ。問題は、それでも大して減ったように見えないって事なんだよな。いや、結構高めの波が起こってるから、削れてはいるんだろうけど。

 谷の形が見えないんだよなぁ……と思いながら、平地の方に魔法的照明弾をぽいぽい投下していく。流石に平地にあの大火力を叩き込むわけにはいかないだろうしね?


「地面にちゃんと突き刺せれば、平地にも領域型の魔法を展開すれば捗るんでしょうけど……」


 つまり、あの床あるいは地面が光るあれだ。なお、柱或いは目印として使った分の魔法は詠唱枠を取らないので、1ヵ所なら問題なく維持できる。流石に2ヵ所だと、谷に設置する方がちょっと大変になっちゃうけど。

 光の剣を出す魔法は待機状態に出来るから、詠唱枠3つ分使って、特大の光の床を構築したら捗るんだろうけどなぁ……と思って、ちょっと引っ掛かった。



 このイベントにおける追加のバックストーリーはまだ分かっていない。恐らく、雲竜族か霧竜族の大人に話を聞かないといけないんだろう。人工物は既に調べられた後で、そっちには何も無かったって聞いてるし。

 だとすれば、現状……この大量の推定“影の獣”に島の全てが呑まれてしまった場合、その後の挽回は実質不可能と言う事になってしまう。

 もちろんその為にステージを分けたのだ、と言われればそれまでだが、雲竜族と霧竜族の種族特性、サーニャから聞いた話が、そこにも関わって来るのだと、すれば?



 サーニャ曰く、彼らはちょっと油断するとすぐ「非実体化」してしまい、実体を取り戻すには、力を蓄える性質のある宝石を食べた上で太陽か月の光を浴びる必要があるとの事。

 もしこの条件が達成されなければ、彼らはずっと「非実体化」したままの状態だったという訳だ。見えず聞こえず感知できず、幽霊よりもなお存在感の薄い状態で。

 なの、だが。だとすれば、違和感のある部分がある。そう……あの、2種類のイベントアイテムだ。


「……“影の獣”。生き物か現象かその他の何かよく分からないものかは分かりませんが――」


 物は試し、と、ステータスによって補正されている視力で、さざ波の立っている地面に照準を合わせる。そしてそのさざ波のど真ん中に、半ば埋め込むようにして、【風古代魔法】による足場を設置してみた。

 夜の襲撃において、効果があったのは光属性の攻撃だけ。つまり他の属性は効果が無かったという事だが、それはもしかしたら、完全に無効化された、だけではない、の、かもしれない。

 と思って、まぁこれぐらいなら何の問題も無い、と、1m四方ぐらいの足場を埋め込むように設置してみたのだが。


「――ビンゴですね」


 均一に、一様に、さざ波の立つ水面の様な黒いもの。

 その一部が、私の設置した足場の形そのままに、凹んで見せたのが確認できた。


「おっと、何か発見がありましたかちぃ姫さん?」

「えぇ、見つかっていない他の竜族が、高確率で無事だと言う確信がほぼ得られました」

「それは朗報ですね!」


 もちろんすぐスピンさんに情報共有を行う。

 さて、硬い地面というか足場が確保できるのが分かったんだから、がっつり設置型の魔法で削りにかかるとするか。

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