第620話 22枚目:夜への対策

[アイテム:“影の獣”の欠片

説明:“影の獣”と呼ばれる存在の欠片

   実体を持つ存在から触れることは出来ないが、触れられることは可能

   非常に強い光か、影を消し去る特殊な光に触れると消滅する]


 その後何度かトライして、宿光石を覆っていた何かが消える前に【鑑定☆☆】出来た結果がこれだ。不穏なワードが出て来たな? つまり、向こうから一方的に触れられる=攻撃されるって事じゃないか。

 んでもって、恐らく夜に襲い掛かって来た黒い物っていうのがこの説明にある“影の獣”ってやつだろう。今の所宿光石でしか防げないって事だな。拠点の重要性が一気に増す奴だ。

 まぁサバイバルって時点で拠点は重要なんだけど。色々捻りを入れながらも、基本は基本として大事にするのがフリアドの運営だし。


「とりあえず、一通り死に戻り場所になっているポイントの安全は確保できましたかね? 昼までかかりましたけど」

「そうですね! 各場所から代表者が集まっている状態なので、とてもスムーズに行ったと思います! やっぱり移動の問題がありますね、警戒の必要が薄いのは良いんですけど、空を飛ぶことには勝てません!」


 と言う事で、これで今日の夜にリスポーンする筈の召喚者プレイヤー達も、安全に夜を越える事が出来るだろう。……たぶん。

 ある意味召喚者プレイヤー全体の行動を支える部分をどうにかしたところで、再び「空の魔女」さんと合流だ。


「うーん、ダメねー。島から離れると強制的に戻されちゃうしー、移動できる範囲に、それっぽいものは見えなかったわー」

「ありがとうございました! ……食料戦争が起こらないように気を付けないといけませんね。流石に5日だと農作は難しいでしょうし」

「ボックス様の試練に挑めれば秒で解決するんですけど、個人用の神殿には入れなくなってますからね……」

「いえ、ナイスアイディアです! 神殿の建設を提案してみましょう!」


 とかいう会話もあったが、それはともかく。何故合流したかと言えば、もちろん私の初期地点である、あの谷と洞窟を案内する為だ。

 情報の共有は必要だし、スピンさんはたぶん、そこから宿光石を切り出して、安全な場所を増やしたり、拠点を強化したりできないか、って事も考えていると思う。

 ……私としては、あの谷底と、洞窟の脇道の形にちょっと思うところがある訳だが、まぁそれはさておき。


「そろそろ光が吸収され切っているでしょうから、灯りの再設置もしたいんですよね」

「あれ? ちぃ姫さんのいる場所にもあの黒いのが出たんですか?」

「「宿光石」は、近くに蓄光度の低い「宿光石」があると、光を譲渡するという性質があるみたいなんですよ。……さっきまでの、人為的に設置されたと思われる「宿光石」の【鑑定】結果にはありませんでしたけど」

「条件を満たさないと情報が出てこないパターンですね! かなり重要な鍵になると見ました!」


 お昼休憩は各自で持ち込んだ食糧で済ませ、「空の魔女」さんの箒で移動だ。うーん、やっぱり速いな。この島の大きさが、その実そうでもないって言うのもあるかも知れないけど。

 で、洞窟に戻って……入り口である通路に「空の魔女」さんが詰まりかけるというアクシデントはあったが……中心である広い場所に辿り着いてみると。


「あれ?」

「うわぁイベントアイテムが一杯じゃないですか! どこで見つけたんですか、こんなちょっとした山になるほど?」

「……ここにあったのは、いろんな動物の骨だったんですけど」

「そうなんですか?」


 種類別に山にしていた骨が、何故か、謎物質製の剣やアクセサリに変わっていた。手に取って見ると、どのスキルを開放するかと言う選択肢もちゃんと出る。

 全く訳が分からないが、どうやらスキルを開放するイベントアイテムばかりのようだ。が、あって困るものでは無いので、ここで一気にスキルを開放しておくことにする。


「うわぁ、うわぁ、すごいですよ。あの森の中や人工物の跡で見つかるのは、アイテムを呼び出す方ばっかりでしたからね!」

「そうねー。……私もちょっと貰っていいかしらー? 光属性の魔法も必要だしー、まだ魔力の回復速度が落ちてるのよー」

「流石に1人では使い切れませんからね。大丈夫ですよ」

「あっそれでは私も! 流石に15個のままでは厳しかったので!」


 と言う事で、しばらくスキル開放タイムだ。ま、下手に見知らぬ誰かに渡るより、知り合いの2人に渡る方が良いか。どうして骨の山がイベントアイテムになったのかはさっぱり分からないけど。

 ステータスを完全に戻したところで、洞窟内部を調べるスピンさん及び「空の魔女」さんと一度別れ、洞窟のある面、北側の山頂へと移動する。


「攻撃力のある魔法アビリティであっても、「宿光石」が傷つく事は無いというのが分かりましたからね。そして、あの“影の獣”とやらには攻撃力がある方が通りがいい、となれば」


 エルル時々サーニャが教えてくれる【○○古代魔法】には、発動する為には条件があるものがある。もちろん威力の方はお察しと言うやつなんだが、【光古代魔法】には、晴れの日中かつ屋外でのみ使える、という、なかなか厳しい条件の魔法があるんだ。


「[陽炎を集めて形作るは

 模造の巨きな透き通る瞳]」


 しかも今回は都合のいい事に、ぶっ放し型でありながら魔力を注ぎ続ける事で発動状態を維持できる。つまりは、魔力の回復が間に合う限り、叩き込み続ける事が出来る、という訳だ。


「[人ならぬ模造の瞳で

 陽の光を集めて束ね]」


 運営大神の恩情なのか、それとも別の理由があるのかは分からないが、このイベント空間はずっと晴れている事がお知らせに書いてあった。ま、サバイバルで雨が降ったら動けなくなるから、妥当だろう。


「[形成すのは光の柱

 あまりに強い視線の再現――]」


 もちろんスピンさんと「空の魔女」さんには声をかけてからやってるし、そもそも洞窟の出入り口からはそれなりの距離を開けている。もちろん横方向で。

 ちゃんと諸々注意した上で詠唱し、谷の上へと差し出していた私の両手の先に、模造の瞳、もとい、魔力で出来た巨大なレンズが出現する。

 そしてそのレンズは気のせいか、キュイイィィン、と高い音が聞こえそうな形で、ほぼ真上から降り注ぐ太陽の光を内側に蓄えていき。


「[――サンライズ・レイ]!」


 魔法アビリティ名の発声と同時に、ガッッ!!! と、真下へ向けて極太のビームを発射した。

 さてこのまま日が暮れるまで魔法を維持して、何なら【並列詠唱】と【無音詠唱】で灯りを浮かべて火力を足してもいいな。基本は太陽の光だけど、それ以外でも吸い込んでビームに変えるって魔法だし。

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